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万華鏡位相~Devil’s Scope~ 欧州妖異譚15

篠原美季/著 かわい千草/イラスト 定価:本体630円(税別)

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STORY

万華鏡位相~Devil’s Scope~ 欧州妖異譚15定価:本体630円(税別)

謎めいた万華鏡に隠された秘密とは?

シモンの双子の妹たちが、ユウリへの贈り物にするためオークションで落札した万華鏡。覗き窓の周りにラテン語で「百の目が見る」と刻まれたそれは、実は盗品だった。女性遍歴からか「青髭公」と呼ばれるニューサム伯爵は、アシュレイに盗まれた万華鏡捜しを依頼。シモンの許にはアンジェレッティという男が、ユウリの前にも若い男が万華鏡を求めて現れた。三人の男が執着する万華鏡に隠された秘密とは?

著者からみなさまへ

こんにちは、篠原美季(しのはらみき)です。『万華鏡位相~Devil’s Scope~ 欧州妖異譚15』をお届けします。万華鏡の美しい世界に魅せられて出来たお話ですが、それが伝わるかどうかは正直わかりません(笑)。ま、なんであれ、ユウリやシモン、アシュレイの活躍を楽しんでいただければ幸いです♪

初版限定特典

万華鏡位相~Devil’s Scope~ 欧州妖異譚15

初版限定書き下ろしSS

「猫も杓子も……?」より

 英国の首都ロンドン。
 ロンドン大学の近くを歩いていたユウリ・フォーダムは、ふと気になって周囲に視線をやった。なんとなく、道端にたむろしている学生の姿が、いつもより多いように感じられたのだ。

……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

万華鏡位相Ⅱ ~Belges’s Scope あるいは、貴公子の、人には言えない秘密の諸事情~
篠原美季



 英国の首都ロンドン。
 仲間たちのたまり場となっている大学近くのカフェテリアでランチを取りながら授業で使う本を読んでいたユウリは、ユマ・コーエンのあげた「う~ん」とうなる声を耳にして顔をあげた。
 ユマが続けてつぶやく。
「……なにかが違うのよねえ」

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 新進気鋭の若手女優で、底光りする緑灰色の瞳で人を見つめる様子がなんとも魅力的な彼女は、そのトレードマークとも言うべき瞳を、現在、手にした筒状のものに向けて悩んでいる。
 そのそばでは、同じように筒状のものを手にしたエリザベス・グリーンが、やはり悩ましげな表情で覗き窓から中を覗き込んでいた。
 金髪緑眼のエリザベスは、女優であるユマをしのぐ美貌の持ち主であったが、純粋で真面目な性格から芸能界にはまったく興味を示さず、弁護士を目指してひたすら勉強に励む日々だ。
 そんな二人が一緒にいると、どうあっても異性の目を引かずにはいられないが、同じテーブルに、今を時めく英国スターであるアーサー・オニールがいるせいかどうか、誰も滅多なことでは近づこうとしない。
 そのオニールはといえば、炎のように輝く赤い髪とケルト系の甘いマスクを持つ華やかな青年で、見た目だけでなく、パブリックスクール時代に培った統率力や応用力が自信となり、醸し出すオーラが半端ではない。しかも、ちょっと前までは身近なアイドル的存在であったのが、大人っぽさが加わるにつれ、だんだんと近づき難さも出てきた。
 同じテーブルには、他にもう一人、黒褐色の髪と瞳を持つ一つ年下のエドモンド・オスカーがいるが、一般的基準に照らせば、確実に「イケメン」の部類に入る容姿をしているにもかかわらず、このグループの中では、どうしても目立たない存在の一人になってしまっている。もっとも、本人に、そのことを引け目に感じている様子はなく、むしろ楽しむだけの心の余裕が見られるところが異彩を放つのか、最初の頃こそ、彼が加わったことに対する周囲の偏見もあったようだが、最近では、まわりから一目置かれるようになりつつあった。
 そんな中、英国子爵の父親と日本人の母親を持つユウリ自身は、東洋的な風貌をしているという以外さしたる特徴もなく、周囲から見ると彼らの陰に隠れてしまいがちであるのだが、実のところ、日本人的な奥ゆかしさと佇まいの美しさが身近に接する人間の心を惹きつけて止まない彼の存在こそが、このグループの核──あるいは、重力になっていると言っても過言ではない。
 そのいい例が、ユマたちが手にしている筒状のもの──万華鏡である。
 ユマとエリザベスのみならず、オニールもオスカーも、近頃、自分の万華鏡を持ち歩いているのだが、その発端は、他ならぬユウリにあった。
 少し前の話になるが、ユウリは、とある事情から、人にもらった万華鏡を持ち歩いていたのだが、それが仲間たちの知るところとなり、一人、また一人と真似をし始めたというわけだ。
 最近では、寄るとその話題ばかりで、今も万華鏡のことでなにかあるらしい女性陣であったが、午後の授業が始まるまでにどうしても本を読んでしまいたかったユウリは、あえて取り合わなかった。
 すると、代わって、ユウリの横にいるオニールが、炭酸飲料のストローから口を離して同調した。
「それ、わかるな。──たしかに、なんか違うんだよ」
「でしょう?」
「ああ」
 すると、従兄妹同士であるユマとオニールの会話に、一つ年下のオスカーが加わった。
「もしかしたら、構造がわかれば、理由もわかるかもしれませんね」
「構造?」
 それに対し、今度はエリザベスが、万華鏡から目を離して告げる。
「それって、まさか」
「そう、そのまさかです。──実は、この前、いいモノを見つけて」
 そんな会話が進行していたが、ユウリは時間が来たので、「あ、もう行かないと」と言って仲間たちに別れを告げ、その日は、そのまま授業へと向かった。



 数日後。
 その日の授業を終えたユウリがいつものようにカフェテリアに行くと、仲間たちが囲んでいるテーブルの上がすごい状態になっていた。
 お昼をこの店で取ることが習慣になっている彼らは、ついでにここでレポートを書いたり授業で使う本を読んだりするため、よく本やノートが広げられたりしていることはあるのだが、今日は、ちょっと様子が違う。サンドウィッチの包みやコーヒーや炭酸飲料の入った紙コップの間を埋め尽くすように、コンパスやら定規やら、雑多なものがひしめいている。
 さしずめ、工作箱でもひっくり返したような感じか。
 どうやら、みんなで何かを作っているのは間違いないようだが、いったい何を作っているのか。
「よお、ユウリ」
 ユウリに気づいたオニールが、さらにユウリの目線を意識して「あ、もしかして」と付け足した。
「びっくりしているよな?」
「うん、そうだね、ちょっとびっくりしているかも」
 答えたユウリが、鞄をおろしながら「それで、えっと」と尋ねる。
「これは、劇団でやるイベントかなにかの準備?」
 オニールとユマは同じ劇団に所属していて、しょっちゅう宣伝のためのイベントを開催するので、これもその一環かと思ったユウリであったが、違ったようである。
「ああ、いや。そうではなく」
 否定したオニールが、手元にある小さなケースから色とりどりのビーズをつまみあげながら教える。
「万華鏡なんだよ」
「万華鏡?」
 そこで、改めてテーブルの上をよくよく眺めれば、確かに細長い鏡があったり、筒状のケースがあったりと、万華鏡を作る材料が揃っている。
「──え、もしかして、万華鏡を一から作っているの?」
「ジャックポット」
 パチンと指を鳴らしたオニールが、正面の席で器用そうに細長い鏡を三角形に組み合わせている年下の青年を顎で示して続ける。
「オスカーが、大人向けの万華鏡キットを見つけたと言うんで、それなら、作ってみようって話になったんだ」
「──ふうん」
 ひとまずは相槌を打ったユウリであったが、こうまでする理由がわからない。
 彼らは、いったい万華鏡に何を求めているのか──。その行き着く先が見えずに、少々不安に思う。
 すると、微妙な工程をクリアーして口をきく余裕の出来たオスカーが、「すみません、フォーダム」と謝りながら、手早くテーブルの上を整理する。
「これじゃあ、食事をする場所もないですよね」
「あ、いいよ、オスカー」
 ユウリが腕を伸ばして止めながら続けた。
「このあと、シモンが来ることになっているんで、今はコーヒーだけで済ませることにしたんだ。だから、気にしないで続けて」
 すると、ユウリの横で軽く眉をひそめたオニールが、少々不満そうに「また?」と言ったのに被せるように、対角線上にいるユマが顔をあげ、「え、ホントに?」と嬉しそうな声をあげた。
「ベルジュ、来るの?──ここに?」
「うん。ここで待っているように言われているから、来ると思うけど」
「やった。──それなら、ベルジュに訊いてみましょうよ」
 後半は、隣にいるエリザベスに発した言葉で、それを受けて、エリザベスが「そうね」とうなずく。
「ベルジュなら、この難問も解けるかも」
「……難問?」
 ユウリが、不思議そうに訊き返す。
「シモンならって、いったいなんの話?」
 エリザベスが、万華鏡のオブジェクト・ケースを外しながら答える。
「そうねえ。輝き方の問題とでも言えばいいのかしら?」
「輝き方?」
「そう」
 エリザベスが頷いたところで、今度はユマが説明する。
「ほら。ユウリが新しくベルジュからプレゼントされたという万華鏡があるじゃない?」
「あるね」
「あれ、すごくきらきらと輝いていてきれいでしょう?」
「うん。たしかに、すごくきれいで気に入っているよ」
「そうなの。それで、どうやったら、絵面にあんな風な輝きが出るのかと思って、色々と試しているんだけどわからなくて」
 エリザベスが部品を眺めながら、「オスカーは」と付け足した。
「採光の問題ではないかって言うんだけど、こうしてやってみても、今一つ、これだという風にはならないのよ」
「……なるほど。だから」
 こうして、万華鏡を一から作って研究しようと、テーブルの上に部品を広げる羽目になったのだろう。だが、正直、専門家が手作りする商品と素人が手作りする工作とでは、出来栄えに雲泥の差があっても仕方ない。
 ユウリが、恐る恐る言う。
「だけど、いくらシモンだって、わからないと思うよ。プレゼントしてくれたからと言っても、別にシモンが作ったわけではないし──」
 だが、聞いているのかいないのか、ユウリの言葉の途中で「あ」と喜色に満ちた声をあげたユマが、ガタンと立ちあがるなり、片手を高くあげて呼びかける。
「来た! ベルジュ! ねえねえ、ちょっとちょっと」
「──やあ、ユマ。それと、みんな」
 白く輝く金の髪に澄んだ水色の瞳。
 ギリシャ神話の神々も色褪せるほどの美貌。
 相変わらず大天使のように神々しい姿でユウリのそばに歩み寄って来たシモン・ド・ベルジュは、その熱烈歓迎ぶりに少々面食らった様子でユマとその仲間たちに、ひとまず挨拶を返した。
 それから、「で?」と問う。
「その様子だと、僕になにか用でも?」
「あるある。大有りよ」
 言いながら万華鏡を振ったユマが、続ける。
「秘訣を教えて欲しいの」
「秘訣?」
「そう。どうやったら、ユウリにあげたみたいなきらきらした絵面の万華鏡が作れるか」
「──ああ」
 そこで、ごちゃごちゃしたテーブルの上にざっと視線を走らせたシモンがわずかに悩ましげな表情になって、「……そういうことか」と呟いた。心なしか、声にも困惑の色が隠れている。
「悪いけど、僕に言われてもわからない。ユウリにプレゼントしたものだって、別に僕が作ったわけではないからね」
 先ほどユウリが友人のために弁解したこととほぼ同じことを立て板に水のごとく言うと、「ということで、ユウリ」と友人の名前を呼んで促した。
「もう行ける?」
「あ、うん」
 若干、高雅な友人の素っ気ない態度に違和感を覚えつつ、素直に立ちあがったユウリが友人たちに向かって挨拶する。
「じゃあ、また来週」
「ああ、またな」
「バーイ」
「ベルジュも、元気で」
「どうも」
 各々手を振るなり、挨拶を返すなりした仲間たちが、二人の姿が見えなくなったところで、口々に事の核心に触れて言った。
「……あれは、どう見ても金だな」
「私も、そう思う」
「考えてみたら、それしかないわよね。万華鏡の構造なんて、結構単純なんだもの」
「たしかに」
 年上三人の意見に同調したオスカーが、オブジェクト・ケースに入れるために用意したビーズをつまみながら続ける。
「素材を高価な宝石類にすれば、そりゃ、キラキラしたものも出来上がる──」
 シモンの態度は、いつものように淡々として優雅ではあったが、付き合いが長く、それなりに洞察力のある彼らの目は誤魔化せない。今のシモンの様子からして、プレゼントしたという万華鏡には、ユウリには知られたくないくらいのお金がかかっているはずだ。だから、深く掘り下げられる前にそそくさとこの場を立ち去ったのだろう。
 ややあって、オニールが、手にした部品をポイッと放り出し、バカバカしそうに言う。
「アホくさ」
「そうねえ。ちょっとがっかり」
「でも、せっかくだし、私たちは分相応に楽しめばいいんじゃないの?」
「そうそう。虫の羽根とか容れても、きれいらしいですよ」
 エリザベスとオスカーの言葉に、ユマが態度を改めて身を乗り出した。
「へえ、虫の羽根ね。面白そう」
 すると、オニールも、「あ、そうだ」とユマを振り返って提案する。
「昨日の夜、考えついたんだけど、万華鏡をテーマにした劇をやらないか?」
「あら、いいじゃない」
 結局、なんだかんだ、自分たちなりに楽しむ彼らであった。



 一方。
 ユウリと歩き出したシモンは、表面上はいつものごとく貴公子然としていながら、内心で冷や汗をかいていた。
 というのも、オニールたちの推測は当たっていて、ユウリに新しくプレゼントした万華鏡は、かなり高価なものだったからだ。なんといっても、使われているのが、どれも宝石に値する天然石の欠片ばかりで、その例をあげると──。
 ダイヤモンド、イエローダイヤモンド、グリーンダイヤモンド、ピンクトパーズ、アクアマリン、ルビー、サファイア、アメジスト、水晶に真珠に琥珀等々。
 もちろん、宝石といっても、どれもきちんとした宝飾品とするには「屑」と呼ばれる比較的安価なものばかりだが、かといって、玩具にするには、やはり高価過ぎた。贅沢な嗜好品といったところだろう。
 だが、そもそも、なぜ、そんなことになってしまったのか。
 ユウリのために新しく万華鏡を選びに行くことになった時、シモンは、双子の妹たちがまたバカなことをしでかさないために監視役としてついて行ったはずであった。それなのに、店で説明を聞き、色々と素材を変えた見本を眺めているうちに、つい、シモンのほうが夢中になってしまったのだ。
 あれでもない。
 いや、そっちのほうが、きれいかな。
 やっぱりこっちのほうが……。
 そんなことをしているうちに、双子の妹であるマリエンヌとシャルロットが、「ねえ、ずるいわ、お兄様」「私たちが選びたいのに」と言って騒ぎ出したため、シモンは鬱陶しそうに手で追い払いながら告げた。
「そんなに選びたいなら、自分たち用に好きなものを選べばいいだろう」
 とたん、「え?」と二人が喜色に満ちた笑みを浮かべる。
「もしかして、お兄様」
「私たちにも、買ってくださるの?」
「ああ」
「本当に?」
「ああ」
「間違いなく?」
「買うから、ちょっと静かにしていてくれないか?」
 それに対し、ピュッとつむじ風でも立ちそうな勢いで走り去った二人が、しばらくして戻ってくると、まだ万華鏡の中身を吟味していたシモンの後ろで尋ねた。
「ねえねえ、お兄様、せっかくだから、お母様の分もいいかしら?」
「ああ、いいよ」
「お父様の分は?」
「──そうだね。たまにはいいかもしれない」
 上の空で答えた兄に対し、「それなら、えっと、ナ──」と言いかけたシャルロットを片手をあげて遮り、振り返ったシモンが面倒くさそうに応じる。
「なんでも好きにすればいいから」
「あっちに行っていろ」と言わんばかりに、彼方を指で示した。
 そこで、バタバタと走りさった二人の姿を見送って溜め息をついたシモンは、目の前で微笑ましそうにしていた万華鏡作家とのやり取りを再開する。
 そうして出来上がった万華鏡は、奥ゆかしく自ら進んでは贅沢をしない友人には絶対に値段を知られてはいけない代物になってしまった。
 しかも、万華鏡を巡る騒動は、それで終わりにはならなかったのだ。



 週明けのパリ。
「カルチエ・ラタン」と呼ばれる大学街のカフェでカフェオレを飲むシモンの前で、母方の従兄妹にあたるナタリー・ド・ピジョンが、検分していた万華鏡を置いて言う。
「すごくきれい」
「なら、よかった」
 一見すると、仲の良い男女のカップルの微笑ましい会話であるようだが、どちらの声にもまったく心がこもっておらず、外の寒気と同じくらい寒々としていた。
 綺麗な赤毛をボブカットにしたナタリーは、現在、シモンと同じパリ大学の学生であるが、パリコレのモデルと思わせるほどの美貌とスタイルを誇り、シモンの隣にいてもまったく遜色がない女性の一人である。
ただ、いかんせん、お騒がせな性格をしていて、ある意味、シモンの頭痛の種となっている。
 そんな彼女に、シモンが万華鏡をプレゼントする羽目になったのは、もちろん、双子の妹たちを差し置いて、ユウリへのプレゼント選びに夢中になったツケがまわっただけのことである。
 あの時、双子の妹たちに「なんでも好きにすればいい」と言った結果が、これだ。
「……だけどねえ」
 ナタリーの疑わしげな言葉に対し、カフェオレのカップを置いたシモンが言い返す。
「『だけど』なんだい。きれいなら、それでいいだろう」
「そうね。たしかにうっとりするくらいきれいだし、嬉しいわよ。──ただ、正直」
 そこで、万華鏡を振ったナタリーが、蠱惑的なモスグリーンの瞳を細めて続ける。
「なんか、超コワいんですけど~」
「なにが」
「貴方が私にプレゼントなんて、地球滅亡の予兆としか思えない」
「バカバカしい」
 そっぽを向いて応じたシモンが、「いらないなら」と言って万華鏡に手を伸ばしかけるのをパシッと軽く叩いて払いのけ、ナタリーが「誰も」と告げた。
「いらないとは言ってないでしょう」
 それから万華鏡を手に立ちあがると、コートと鞄を持って宣言する。
「心境としては『貸し』という気もしなくはないけど、ひとまず、ありがたくもらっていくわ。みんなに自慢したいし」
「みんな?」
 それは、どこにいる「みんな」であるのか。
 げんなりしてしまって確認する気も起こらなかったシモンに対し、「そ」と短く応じたナタリーが、「ということで」と続けた。
「双子ちゃんとユウリによろしく」
 どうやら、大体の経緯もすでに耳に入っていたらしい。
 魔女の耳は、地獄耳ということか。
 最後に万華鏡で頰を軽く叩かれたシモンが、一人になったところで、滅多にないほど深い溜め息をつく。
 完璧な貴公子にも、時として、人には言えない秘密の諸事情というものが存在するといういい例である。
 シモン・ド・ベルジュ。
 大学二年目の冬の出来事だった。

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