前回、同じように立花が残業で帰宅が遅くなったとき、唐揚げが食べたいという樟のリクエストに応えるため、下ごしらえを指示したのだ。
そのときの唐揚げが相当美味かったのだろう。最後は立花が帰宅後に揚げたものの、次の機会があれば「最後まで自分でやりたい」という希望があった。
そして今夜、残業が決まった段階で、樟は嬉々として立花に宣言したのである。
『下ごしらえしておきます!』と。
立花はいつも目分量で作っているために、実は前回、伝えたタレの量でいつもの味と同じように出来るかは正直不安だった。
しかしいざ揚げてみればまったく問題はなく、結構な量の唐揚げを二人で平らげてしまった。
そして今夜、残業を終えて帰宅した立花を、準備万端の樟が出迎えてくれたわけである。
立花がシャワーを浴びている間に、樟はさらなる準備を進める。
揚げ物用の鍋に油を注ぎ火を点け、その間に下味をつけた肉を漬け込んだボールに、溶きほぐした卵1個を入れる。そして十分混ぜたところに片栗粉を入れる。量は100グラム目安だが、これも元々は目分量だ。
小麦粉でなく片栗粉を使う理由は、よりカリッと揚げるためだ。
揚げ油の温度は170度。
箸の先についた衣を油に落とし、それが一度少し沈みすぐに上がってくる。
そうしたら、肉を油に静かに入れる。小さな泡が立ち上がってくる様子を、樟はじっと見つめていた。
「どうだ?」
濡れた髪をタオルで拭いながら、風呂から上がった立花が尋ねると、樟は振り返ることなく応じる。
「順調です」
揚げ物をするとき、170度は少し低めだ。そこでじっくり揚げて、キツネ色になったところで一度油から出したのち、もう一度180度の油で揚げる。そうすることで、個人的により「カラッ」と揚がると思う。
「ビール、冷やしてあるか」
「もちろんです。サラダとクラムチャウダーも作っておきました。もちろんレトルトですけど。あ、あと、枝豆もありますよ」
「それは最高だ」
夏の暑い夜の食卓には、最高の料理が並んだ。
了
ふゆの先生の唐揚げレシピ
前回の春巻きに続き、SSに登場した唐揚げレシピがふゆの先生から届きました。実際に作って写真も撮ってくださったふゆの先生、ありがとうございます! おつまみにもおかずにもバッチリの、外はカラッと、中はジューシーな唐揚げです♥
●唐揚げ
〈材料〉
鶏モモ肉 450グラム
卵 1個
片栗粉 100グラムぐらい
〈下味用〉
酒 大さじ3
醬油 大さじ2
塩、胡椒 適量
しょうが 親指大
ニンニク 2かけ
①鶏モモ肉は大きめの一口大に切っておく。
②下味用の調味料と、すりおろしたしょうが、ニンニクをよく混ぜておく。そのタレに①を一時間程度漬け込む。(写真1)
③タレに漬け込んだ肉に溶きほぐした卵を入れる。
④そこに片栗粉を入れる。量はタレの量に合わせて加減する。
⑤170度ぐらいの油でキツネ色になるまでじっくり揚げる。(写真2)
⑥一度油から出したのち、もう一度180度の油で二度揚げ。1~2分程度。(写真3)
⑦出来上がり。(写真4)
(写真4)
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著者からみなさまへ
前回、食事のシーンが少なかった反省で、今回のお話で立花は食べてばかりいます。結果、読み直しているときに私自身お腹が空いてしまいました。食べても太らない立花が羨ましいです。ちなみに樟は確実にこの先太るだろうと思います。もちろん幸せ太りです。ゆっくり、でも着実に前に進む二人の関係を、見守ってくださいませ。