講談社BOOK倶楽部

ホワイトハート X文庫 | 新人賞2015下期 講評
●最終選考分の作品の講評

「憧憬の翼 透明の枠」西崎いつき
  • 過去の事件の情報をもっと早く開示してほしいと思いました。主人公の事情がわからないまま、彼の子供っぽさと性格の暗さが描写されると、読者は共感することが難しくなってしまいます。彼の良さをきちんと伝えることが作品の魅力につながっていくのでは?(K)
  • 物語の重要なエピソードが、ほとんど過去に起こった事なので、主人公は冒頭からずっと鬱々としており、共感出来ませんでした。時系列通りに書いた方が、主人公の喜怒哀楽がはっきりし、紆余曲折が読者にも伝わりやすいと思います。家族の存在など、これまでの投稿作では希薄だった人間関係が垣間見えたのは、よかったです。(M)
  • 思春期らしい、自意識を持て余して悩む心情と、自分にない要素を持つ友人へのまっすぐな憧れを正面から書いている姿勢にはとても好感を持ちました。主人公が思い悩む描写の長さに比べ、現在進行形のエピソードが少ない点が物語が停滞している印象を与えてしまったのが惜しいです。とはいえ、主人公が不器用ながら成長する結末にカタルシスがあり、今後も読んでみたい作家さんだと思いました。(R)
  • 人物描写は丁寧であるが、物語の展開がゆるやかになってしまっている。主人公の情報を早めに伝え、頭から読者に魅力を感じさせるようにするとよい。やや重複ぎみではあるものの、主人公の気持ちの表現に引き出しがあり、嫌味がなく、男の子らしさが一般的な型にはまらず新鮮に描かれている。(S)
  • 前半、主人公のじれじれした感情描写がつづくので、共感できないのが残念でした。そのせいで感情移入できず、展開が遅く感じられてしまうのももったいないなと。でも後半に入ると、キャラクターが生き生きしてきて、ラストも爽やかで好感が持てました。冒頭から相手役のエピソードを盛り込むなど、もっと構成を工夫すると、完成度がさらに高まると思いました。(Y)
  • 恋愛を期待して読み始めると、展開の遅さが気になりましたが、会話のセンスであったり、読後感のよさ、キャラクターの魅力などとても惹かれるものがあります。少しパターンになっている部分を感じますが、次の作品を読んでみたいと思わせる力があると思います。(U)

「青い花に水はいらない」夏川ユウキ
  • 個性的な設定ですが、その設定を支える理屈が存在しないことが気になりました。思いついたことを全部盛ったような印象になってしまいます。アイデアの面白さを大切にしてほしいです。視点人物の精神年齢が中学生という年相応に幼いので、感情移入しづらい面もありました。(K)
  • キャラクターも世界観も設定が一定していないので、行き当たりばったりに物語がどんどんずれていくように感じました。誰が何をする物語なのか、筋立てをしっかりと考えてから書き始めてほしいと思いました。(M)
  • この先、どうなってしまうのだろう? と読み手の私に思わせ、引きこむ力は応募作の中でもトップクラスでした。設定、世界観、主人公の心情に「先を読みたい!」と思わせる魅力があったからだと思います。ストーリーが進むにつれ、設定の曖昧さが見えた点と、ヒーロー役の人物の書き込み不足が残念でした。物語の全体像をしっかり構成してから書き始めると発想の面白さが生きると思います。(R)
  • 文章は読みやすく、個性的な言い回しも引かれる点ではあるものの、設定が盛り込まれすぎ、矛盾を感じさせてしまうのが残念です。すべての設定が自身の中では成立しているのであれば、説得力のある伝え方を。逆に設定がまとまらないうちに盛り込んでしまった場合、何がこの作品に必要なことであるか整理しましょう。(S)
  • ホラーかミステリーかと思って読み始めましたが、意外な展開でびっくり。それでもエピソードごとの心情描写が上手なので、一気に読みました。ただ、テーマとなっているヒロインの心の問題は、一作ひっぱるには浅いかなと思います。設定もあと出しが多く、ご都合主義的にも読めてしまうので、構成とテーマをしっかり作ってから書くとよいのではと思いました。(Y)
  • 読み始めたとき、ホラーのような展開になるのかと期待していたら、まったく違う展開でした。不思議なセンスの持ち主だと思いました。なにを書きたいのかがわかりにくかったのですが、いっそ振り切れたキャラと展開のコメディとか向いているのでは?と思いましたが、ご本人の望む方向ではないんだろうなとも……。書きたいものをもっとしぼるといいのではないかと思います。(U)