講談社BOOK倶楽部

ホワイトハート X文庫 | 新人賞2016上期 講評
●最終選考分の作品の講評

「姫へ捧ぐは誓いの剣」冴月玲音
  • 清潔感あふれる作品。ゼクル王子の仕掛け方にオリジナリティを感じますが、展開の予想がついてしまいます。二人のあいだにもう少し深刻な危機があってもよかったのでは?(K)
  • 若さと清潔感のある作品です。物語は一本道で意外性がなく、幼く感じられます。テンプレートに囚われず魅力を増してほしいですね。(M)
  • 全体的に子供っぽく、リアリティに欠けますが、ラブロマンスや少女の成長と冒険といった要素が「WHらしさ」みたいなものをよくつかんでいると感じました。この爽やかさに、迫真性や著者の個性を加えてほしいと思います。(O)
  • 物語の趣旨はとても良いです。が、まだまだ不足な点あり。主人公、その相手ともにもっと魅力的に描いてほしい。敵の策略の甘さなどご都合的になっており、ファンタジーに必要な最低限の要素のレベルアップを求めます。戦略、政治、人の思惑、恋愛のときめき…細かく重く描く必要はありませんが、色々勉強して理解した上で、ギリギリ必要なものは物語に反映させる、ように心がけましょう。(S)
  • 文章が若々しく、そこに好感を持ちました。ただ、キャラクターに、身分や立場にふさわしい説得力がないところが残念でした。説得力を読み手さんに与える設定で書くことができたら、もっと魅力が増すのではないかと思います。(U)
  • 「私」の一人称に若々しさを感じて一気に読めた作品。表現力は少々つたない印象でしたが、ピュアな主人公に好感がもてました。展開や構成が王道すぎるので、もっとオリジナリティを出せるとよいのでは。(Y)
  • 難しい言葉を使わないストレスのない文章や、キャラクターが期待通りに行動する展開は、今求められている少女向けファンタジー小説でとても大事な要素だと思います。ヘリオスの無骨なキャラクターが可愛げがありつつも格好良かったです。もう少し「フィクションなりの設定におけるリアリティ」や深みがほしいです。(H)

「その声の優しさは」桜海千早
  • 読後感がさわやかでキャラクターにも魅力を感じました。霊と闘う場面が長すぎて、書きたいこととずれがあるのではないかと思いました。(K)
  • キャラクタのやさしさ、関係性の可愛らしさに魅力はありますが、まだ小説になっていない印象です。起承転結を念頭にページ配分を考えてください。(M)
  • キャラクターのテンションが高くて勢いがあり、会話文で読ませているところもいいと思います。ストーリーの部分に工夫がないまま、いきなり長々としたバトルが始まってしまった印象なのが残念でした。(O)
  • ネタは良いと思います。軽快なやりとりで進んでいるようで実は各キャラクターの説明が足りず、それが共感を薄めている原因に。もう少し周りのことも簡潔丁寧に描いてほしいです。各所無理な軽快表現はせず、自然な文章にしたほうが物語に入りやすいと思います。(S)
  • 読んでいてキャラクターがとても好感度が高かったです。幽霊犬というのも新鮮でした。なのですが、全体によくわからない話に仕上がっていて、そこがとても残念でした。もっと日常的な、ハートフルな作品にしたほうがいいのではないかと思いました。(U)
  • 文章にテンポ感があって、キャラクターもかわいらしく魅力的でした。ただ構成がわかりづらく物語としては成立していない印象。描かれている世界が狭すぎるのも気になりました。どこがクライマックスなのか、ストーリーの筋を決めてから書くとよいかもしれません。(Y)
  • 動物の幽霊版『ゴーストバスターズ』で優しい読後感の小説。やや古く、説教くさい印象もあるので、ドラマや会話、人間(動物でもいいですが……)関係に力を入れた作品にするとよいのでは。イイ話を書く必要はないです。バトルは長いと感じました。(H)

「LOST OF INNOCENCE」鵬野しま
  • ある年代の少女漫画のような味わい。キャラクターが全員、自分の役割を果たしていて読みやすいと思いました。ただ、どこか既視感を感じてしまいました。(K)
  • 情景や設定の描写が繰り返されて、話が先に進まない印象を持ちました。キャラクターにも魅力を感じられず、主人公の恋愛にも共感できませんでした。(M)
  • ニューヨークが舞台で、登場人物もすべてアメリカ人という、一般的な読者からはかけ離れた物語ですが、文章もよく、丹念に書かれた作品だと感じました。読み応えがあり、心に残る作品でした。ただ、重苦しい雰囲気が続き、エンジンが暖まらないままクライマックスに突入してしまった感じです。もう少し読者へのサービスを意識してほしいと思いました。(O)
  • 文章表現力に無理がなくとても好感が持てます。舞台や主人公の立場なども期待感がありました。ただ、それらを生かしきれていないのが残念。この物語のコンセプトは?見せ場は?着地目標は?恋愛がメインなのか、この世界の人間関係なのか、あるいは他のものか、また主人公がそれにどれだけ関わるのか、読み手に伝わりやすくしましょう。(S)
  • 文章がとても洗練されていて、作品の世界観もできあがっており、『ゴシップガール』を思い出しながらとても楽しく拝見しました。エッチシーンなどは平凡で、必要なかったのでは?と思います。(U)
  • 文章はやや硬めながらも上手で、独自の雰囲気に魅力を感じました。物語としてもしっかり完結していて読みごたえはありましたが、主人公のカオスがちょっと重すぎる印象。重いテーマのわりに感情のリアリティが感じられないのが残念でした。展開にスピード感が出せるとよいのかもしれません。(Y)
  • 今回、一番熱意を感じました。エンタテインメント小説とはいいがたいけれど「どうなってしまうのか」と思わせる小説でした。読んでいて悲しくなってくるのも、筆力がある証拠かと。(H)

「三年目の恋アレルギー」氷宮多稀
  • 安定感のある筆致。書き慣れていると感じましたが、主人公の魅力をもっと伝えてほしかったです。なぜ彼が愛されるのか、ピンとくるものがありませんでした。(K)
  • 主人公のキャラクターに魅力が感じられず、話の展開にも新味がありません。主人公と相手の間に明確な障害もなく、読み手が恋の行く末に興味も持てません。(M)
  • 医者のお仕事小説的な部分は面白いし、リアリティを感じました。完成度は高いと思うので、主要な登場人物の二人に個性や魅力があったならば、もっと高い評価が得られたと思います。(O)
  • 物語に派手な展開はないが丁寧に表現しようとする点は良い。が、攻めの魅力がかなり足りず。また、主人公も受動的で、その理由にも説得力がない。手紙の効果も物語を引っ張るほどの内容ではなく。どこを中心に描きたいのかを明確に。主人公の言動を制限するものが読者の納得できるレベルの事かどうかの検討、またそれを引っ張り続ける表現力も必要です。(S)
  • 好みの問題だと思うのですが、どの登場人物にも好感を持てませんでした。なぜかと考えると、都合がよすぎ、想像通りの動きしかないからかもしれないなと思いました。(U)
  • 文章にも無駄がなく完成度は高いと思いました。ただ前々作と同様、主人公に共感できないのが残念なところ。お相手のカッコよさももう一押し欲しいという印象なので、読み手を意識してキャラ設定をつくるとよいのかなと思いました。(Y)
  • 随所に挟まれる豆知識要素が嫌いではないです。主人公がちょっと悩み過ぎで、「そこはもういいから次に進もうよ」と思わせるウザさがあった。キャラクターとしては立っていると思います。ストーリー展開やメイン設定(医者)はちょっと今のBL小説では普通過ぎるかなと思いました。(H)