講談社BOOK倶楽部

Part1「颯介と琥珀」

幻獣王の心臓 Special DRAMAシナリオ

Part1「颯介と琥珀」


颯介
「さーて今日の夕飯はどうするかなー」

颯介、冷蔵庫の扉を開ける。

颯介
「えーと、キュウリにタマネギにレタスにインゲン……あとは卵と鶏胸肉か」
颯介
(こんな風にほぼ毎日、冷蔵庫の中身を確認しながら夕食のメニューを考えているこの俺、西園寺颯介は、これでも青春真っ盛りの高校2年生だ。幼いころに母と死に別れ、父親は仕事の都合で家に帰ってこない日々が続くこともあり、今では妹と二人で暮らしている。そんな妹もこれまで病弱だったこともあり、結果として家事は全部俺の役目になっていた。なんだか所帯じみた日々を送っているなぁと、自分でも思う)
颯介
「これならゴマ味噌を作って、棒々鶏風の茹で鶏にでもするか……痛っ!?」

冷蔵庫を覗く颯介の頭に、ベシッと降ってくる猫パンチ。

颯介
「何すんだよ琥珀!」
琥珀
「タマネギなどと、そのような毒草を入れるな馬鹿者め!」
颯介
(そういえば、妹の他にもう一人……いや、もう一匹……なんと言い表せばいいのかわからないけれど、琥珀と名付けた白黒の斑模様……と言うか虎縞と言うべきか、ともかく猫の琥珀もいるんだった)
琥珀
「タマネギは命に関わる危険物なのだと、何度言えば分かるのだ!」
颯介
「何を猫みたいなこと言ってんだ、おまえ?」

颯介、冷蔵庫の扉を閉める。

颯介
「おまえはあれだろ、なんだっけ? 西方守護の獣王、白虎なんだろ? タマネギくらい食えよ。食えるだろ?」
琥珀
「貴様は本当に阿呆だな。儂が嫌だと言ったら嫌なのだ!」
颯介
「我が儘な奴だなぁ」

颯介、深々とした溜め息。

颯介
「そもそも、冷蔵庫の上に乗るな。その中には食べ物が入ってるんだぞ。食べ物は粗末にしちゃいけないって、子供でも知ってる理屈じゃないか」
琥珀
「食い物は皆、この冷蔵庫とかいう箱の中にしまわれておるではないか。直に座ってもおらぬのに、いちいち口やかましい奴だな」
颯介
「お前、自分の抜け毛の酷さが分かってないな? かなりすごいんだぞ?」
琥珀
「儂の毛が抜けるのは自然の摂理。常に新たな毛に生え替わることで、美しい毛並みが保たれるのだ」
颯介
「おまえ、マジで猫だな……」
琥珀
「ふん!」

琥珀、わざとらしくガリガリと後ろ足で首筋を搔く。

颯介
「あっ! だからそれ止めろって! あちこち毛が舞い散るんだよ! 冷蔵庫の中に入ったらどうすんだ!」
琥珀
「常々思っていたが、貴様は齢に似合わず所帯じみておるな」
颯介
「そりゃここ数年は全部の家事を俺ひとりでこなしてるからな、仕方ないだろ」
琥珀
「そのわりには、料理の『れぱぁとりぃ』が少ないのではないか? 最近、同じような食材、同じような味付けの物が頻繁に食卓に上っておるぞ」

颯介、琥珀の指摘に「うっ」と唸る。

颯介
「い、いや……そんなはずはない。ない……はずだ!」
琥珀
「認めぬか。ならば試しにここ1週間の夕飯の主菜を振り返ってみるが良い」
颯介
「えーと、昨日が豚コマ肉の野菜炒め、一昨日が鶏胸肉の唐揚げ。あとは豚しゃぶのゴマだれサラダに、自家製鶏胸肉ハムとゴーヤのチャンプルー、豚のショウガ焼き、鰹のゴマ油カルパッチョサラダ、叩いた鶏胸肉とジャガイモのスペイン風オムレツ……」
琥珀
「それみろ、豚3回、鶏3回だ。しかも鶏は胸肉ばかり。安売りにほいほい飛びつきおって!」

琥珀、冷蔵庫の上に乗ったまま、冷蔵庫の上をバンバンと叩く。

颯介
「買い物上手と言え!」
琥珀
「その上、炒め物が2回に『さらだ』仕立てが2回、ゴマも既に2回使っておるな」
颯介
「ほら、あの、ゴマは体に良いって言うからさ、何度食べてもいいじゃないか」
琥珀
「体に良いという言葉を隠れ蓑に、今宵もまたゴマを使うつもりでおったのだろう?」
颯介
「い……いやぁ……そのー……」

颯介、言葉に詰まり顔を伏せる。

琥珀
「貴様の節約の巧みさと、病弱な妹を労る気持ち、そして手持ちの食材を無駄にせぬ努力は認めぬでもないが、これではさすがに手抜きだな。手抜き」
颯介
「……ンのやろ……!」
琥珀
「なんだ、何か反論があるなら聞いてやらんでもないぞ。それとも西方守護の獣王である儂への神饌(しんせん)の粗末さを反省するというのであれば、喜んで献立の相談にのってやろう。そうだな、儂はそろそろ旨い刺身が食いたいのう。ぷりぷりとした白身魚の……」
颯介
「(琥珀の台詞を遮るように)うるせぇ、ばーかばーか!! そこまで言うなら自分で作ってみやがれ!! 一日中猫の姿で食っちゃ寝てばかりで、自分でなーんもしないぐーたら野郎にそこまで言われる筋合いはねえぞ!?」
琥珀
「食って寝てばかりで何が悪い! 儂は貴様なんぞと立場が違うのだ! この世の理に通じる神聖な存在であるぞ! 言わば神に等しいのだ! 崇め敬い奉れと、口を酸っぱくしていつも言っておるではないか!」
颯介
「メンタリティが完全に猫に成り下がってんじゃねえか! おまえはこの世のどんな理に通じてんだ!?」
琥珀
「なんだと、この小童めが! 儂の心臓を食らって生きながらえておるくせに、偉そうな口を叩きおって!」
颯介
「炊事、洗濯、掃除に買い物、全部やってる俺に感謝の言葉もねぇおまえに言われたくねぇな! おまえの都合なんて知ったことか!! 出されたもんを黙って食ってりゃいいんだよ!」

颯介、冷蔵庫を荒々しく開けて食材を取り出す。

颯介
「今夜のメインはキュウリとレタス使った棒々鶏風茹で鶏。タレはタマネギのみじん切り入れたゴマ味噌。付け合わせは塩もみしたオニオンスライスとインゲンのゴマ和えで、みそ汁にはタマネギいれてゴマ油垂らして仕上げる!」

冷蔵庫の扉を閉め、シンクの水を出して食材を洗い始める颯介。

琥珀
「貴様、そこまで頑なに鶏胸肉とゴマとタマネギにこだわるか! 儂は何を食えば良いのだ!?」
颯介
「自分の食う分は自分で作れ」
琥珀
「猫に料理ができるわけなかろう!」
颯介
「なら人に化ければいいだろ? できるよなぁ、神さまって自称するくらいなら!」
琥珀
「……ふむ」

考え込む琥珀。
その琥珀の様子に、え? と、颯介が驚きと戸惑いの声を上げる。

琥珀
「なるほど……その手があったか」
颯介
「ちょっ、おまえ……まさか人間の姿に化けるつもりじゃ……?」
琥珀
「とう!」
颯介
(本当に化けやがった……。まるでヒーローが変身するときのような声を上げて冷蔵庫の上から飛び降りた琥珀が、どろろん! と音と煙を立てて、プラチナブロンドの髪に浅黒い肌をした人間の男に変化してみせた)
颯介
「まさかおまえ、そこまでやるとは……」

呆れる颯介。琥珀は「くっくっく」と悪そうな笑い声を転がす。

琥珀
「見ているがいい。味、香り、彩り、盛りつけ、全てに於いて、貴様が作る粗末な食事を軽く凌駕する神饌を作ってやろうではないか!」
颯介
「マジか。じゃあ、今日は頼んじゃおうかな」
琥珀
「ふん。期待して待つがいい。……おや?」

琥珀、腕まくりをしてあたりを見回す。

琥珀
「おい、ひとつ聞きたいのだが」
颯介
「なんだよ」
琥珀
「竈と釜はどこだ?」
颯介
「おまえ、あっち行ってろ!」

END