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龍の伽羅、Dr.の蓮華

樹生かなめ/著 奈良千春/イラスト 定価:本体630円(税別)

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STORY

龍の伽羅、Dr.の蓮華定価:本体630円(税別)

眞鍋組が眞鍋寺に!!?

「姐さんは坊主になるのか?」美貌の内科医・氷川諒一(ひかわりょういち)とその恋人で指定暴力団・眞鍋組組長の橘高清和(きったかせいわ)の前に、ロシアン・マフィア、イジオットの皇太子ウラジーミルが現れた。愛人の藤堂和真(とうどうかずま)を迎えに来たのだ。けれど、藤堂はウラジーミルから逃れるため、高野山へ向かっていた!! 清和の更生を夢見ている氷川は、眞鍋組を眞鍋寺にすべく大暴走を始めてしまい!?

著者からみなさまへ

ツルツル坊主はセクシーざます……ではなく、いつも氷川と清和を応援してくださってありがとうございます。おかげさまで、氷川が新しいステージに上がることができました。イロモノ作家の神髄を発揮……いえ、まだまだざますよね? 読者様の心は広いと信じています。

初版限定特典

龍の伽羅、Dr.の蓮華

豪華SSイラストカード掲載
「藤堂の神隠し」より

 またや、またやりおった、と桐嶋元紀の全身の血が逆流した。
「カズ、あのボンボンのオヤジは俺も眞鍋の色男も世話になったんやで。なんで、お色気むんむんさせとったんや」
 魔性の男こと藤堂和真は……

……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

「出家、阻止せよ」樹生かなめ

 バスルームでは軽く、ベッドで本番だと、清和は甘い期待に胸を弾ませた。最愛の姉さん女房は坊主云々を忘れ、蕩けきっていたのだ。
 しかし、ベッドルームの弘法大師空海の像が、清和の甘い期待を木っ端微塵に打ち砕いた。
「僕は心を入れ替えます。清和くんも心を入れ替えます。だから、今夜のことは許してください。明日、水行を頑張ります」
 氷川は真っ青な顔で謝罪を繰り返す。
 どうしてこんなところにこんなものを、と清和はベッドルームに弘法大師空海の像を持ち込んだ参謀に怒りを充満させた。

続きを読む

 三國祐、眞鍋組で一番汚いシナリオを書く男だ。
 この野郎、と清和は像を思い切り蹴り飛ばした。
 いや、蹴り飛ばしたかったが、氷川の繰り返される詫びで思い留まった。
 もし、ここで弘法大師空海の像を蹴り飛ばせば、最愛の姉さん女房がどうなるかわからない。おそらく、非難されるだけではすまないだろう。
 ベッドルームの明かりを消せば、超人伝説を持つ真言宗の宗祖の像は見えない。それなのに、氷川の涙混じりの謝罪は終わらなかった。
 どうやって黙らせるか、どうしたら泣きやむのか、清和は心の中で真剣に考えたが、まったくわからない。
 なんの手も打てないまま、時間だけが過ぎていく。
「……すみません……弘法大師様……許して……僕と清和くんを許して……清和くんは立派なお坊様になりますから……清和くんなら誰よりもかっこいいお坊様に……」
 掠れ声による謝罪が途切れたかと思うと、氷川は軽い寝息を立て始めた。心身ともに疲弊し、眠りについたのだろう。
 とりあえず、清和は神経をすり減らした。
 今でも最愛の姉さん女房による坊主爆弾のショックは消えていない。舎弟たちのダメージも大きい。
 どうするか、と清和が溜め息をついた時、人の気配を感じた。気のせいではない。
 誰だ。
 誰が忍び込んだ。
 あまりにも心当たりが多すぎて、清和は侵入者の見当もつかない。ただ、取るべき行動は決まっている。
 クローゼットの奥にある隠しスイッチを押す。
 侵入者有り、というスクランブルだ。
 これだけでリキかサメ、どちらかが動く手筈になっている。
 護身用の拳銃を手に取ると、物音を立てずにベッドルームから出た。暗いはずのリビングルームが光っている。
 それも普通のライトの光ではない。
 尋常ならざる光だ。
 いったいなんだ、と清和は身構える。
 視線でベッドルームを確認してから、リビングルームを覗いた。
 銃口を向ける。
 異様な光を放つ侵入者。
 いや、人ではない。
 リビングルームにある弘法大師空海の像が眩い光を放っていた。
『そなたは今まで多くの命を奪ってきた。因果応報、そなたに殺された者たちの怨念がそなたの命を狙っておる』
 弘法大師空海の像から響いてきた涼やかな声。
 聞き間違いではない。
『そなたの命が尽きようとしている。出家し、御仏に仕えよ。さすれば、そなたは助かる』
 弘法大師空海のお告げか。
 天と地がひっくり返ってもそんなことはない。あるはずがない。
 清和にはこういった類いのいやがらせをする男に心当たりがあった。
「サメ、やめろ」
 清和が銃を構えたまま凄むと、弘法大師空海の像の後ろからサメがひょっこりと顔を出した。
「助かりたいから坊主になる、って言われたらどうしようかと思ったぜ」
 ふぅ~っと、サメはわざとらしく額の汗を拭く真似をする。弘法大師空海の像が放っていた明るい光は消えた。
「……おい」
 こんなことをしている暇はないはずだ、と清和がサメの芸人根性を注意する間もなかった。
「二代目、魔女が怖い」
 俺もだ、と清和はサメに同意しそうになったが、すんでのところで思い留まった。背中に刻んだ昇り龍の自尊心により無言で流す。
「魔女以上に姐さんが怖い」
 サメがいつになく真顔で言ったからか、清和も本心をポロリと零した。
「俺もだ」
 サメと清和は目を合わせると、どちらからともなく苦笑を漏らした。今さらだが、どこにどう飛んでいくかわからない核弾頭の威力を思い知る。
「ツルツル坊主の刑は二代目だけにしてほしい」
「サメ、そんな話をするために来たのか?」
 何があった、と清和は鋭い目つきで食えない男を真っ直ぐに見据えた。異常事態が発生したから、サメが直々に飛んできたのだろう。
「話が早い」
 サメはニヤリと口元を緩めると、なんでもないことのようにサラリと言った。
「イジオットのウラジーミルと楊一族の頭目がガス爆発に巻き込まれて死んだ」
 予想だにしていなかった事態に、清和は息を呑んだ。
 ロシアン・マフィアのイジオットと香港マフィアの楊一族という巨大な組織が手を組めば、アジアの勢力図は確実に変わる。眞鍋組のみならず国内外の闇組織は、モスクワで行われている交渉に注目していた。
「交渉の場にいたイジオットの幹部も楊一族の幹部も全員、死んでいる」
 イジオットの次期ボスの最有力候補であるウラジーミルと楊一族の頭目が、単なる偶然のガス爆発で亡くなったとは思えない。どんなに楽観的に考えても、なんらかの罠が仕組まれていたはずだ。
 ほかのロシアン・マフィアの妨害か、ほかの香港マフィアの妨害か、どこかの闇組織の妨害か、イジオットか楊一族の内紛か、隠謀か。
 裏で何かあったことは間違いない。
「……サメ、本当にウラジーミルと楊一族の頭目は死んだのか?」
 冬将軍という異名を持つウラジーミルにしろ、楊一族の頭目にしろ、一筋縄ではいかない男だ。
「二代目もそう思うか」
 あいつらがそんなにあっさりくたばるようなタマだったら今まであんな苦労はしなかったぜ、とサメはどこか遠い目で独り言のようにぶつぶつと呟く。
「ああ、何があった?」
「ガス爆発で死んだのはウラジーミルの影武者かもしれない」
 ウラジーミルに影武者が三人いることは、清和も把握している。祐がウラジーミルの影武者のマークをサメに課していたことも。
 東京に現れたウラジーミルが清和の脳裏に浮かんだ。堂々と桐嶋組総本部に真正面から乗り込み、氷川の勤務先にまで顔を出している。
「……まさか、来日したウラジーミルが本物だと?」
 そんなはずはないと踏んでいた。
 踏んでいたのだが。
 今現在、高野山で藤堂と一緒に宿泊している男が本物のウラジーミルなのか。
「楊一族は絶賛内紛中……とまではいかないが、頭目と次期頭目の仲がぎくしゃくしていた。ガス爆発は次期頭目の罠かもしれない」
「楊一族か?」
「モスクワのウラジーミルが本物か、偽者か、それで仕組んだ奴がわかる」
「調べろ」
「調べている暇がない。本当は頼りたくないけど、姐さんの目に頼りたい気分だ」
 一流のプロの変装をあっさりと見破るのは、ほかでもない素人の氷川だ。
「やめろ」
 それだけはやめろ、と清和が苛烈な迫力を漲らせた時、白いスーツに身を包んだ藤堂がショウとともに現れた。
 どうしてこんなところに、と清和が藤堂に摑みかかる寸前。
 宿敵とも言うべき藤堂ではないと気づいた。そうでなければ、ショウは敵意を剝きだしにしているはずだ。
「……藤堂じゃないな?」
「はい。藤堂と信じ込んだショウや宇治に殴られました」
 二代目のストレートを食らわなくって助かった、と藤堂に扮した男は聞き覚えのある声で続ける。
 諜報部隊に所属しているイワシだ。
「イワシか?」
「はい」
 イワシが肯定するように頷くと、サメは神妙な面持ちでこれからについて語りだした。
「二代目は天から槍が降ろうが、空海が最澄と一緒に降臨しようが、姐さんを押さえ込むこと。まず、これに尽きる」
 絶対に核弾頭を暴れさすな、眞鍋の権力内に引き留めておけ、とサメはタブレットを指しながら繰り返した。
 わかる。
 その理由はいやというほど、清和にもわかる。痛いぐらい身に染みている。
「わかっている」
 清和はどんな手を使っても、最愛の姉さん女房を腕の中に引き留めておく決心をした。
 それなのに、サメには鼻で笑い飛ばされてしまう。
「……頼もしい二代目の言葉をもらったが無理だろうな。二代目は核弾頭制御に失敗する。まだ卓のほうがマシ」
「わかった」
「卓のシナリオで核弾頭制御に失敗した時、最後の手段を取るしかない」
 魔女に泣きつけ、とサメが血の気のない顔で言った途端、ショウはゾンビと化した。藤堂に化けたイワシの顔色も悪くなる。
 白百合と称えられる氷川に張り合えるのは、魔女と称される祐ぐらいだ。けれど、けれども。
「……わ、わかった」
 清和は平静を装って答えたが、胸の鼓動が速くなった。
 なんにせよ、最愛の姉さん女房を暴れさせなければいい。
 斯くして、清和は信頼できる舎弟たちとともに、何度目かわからない二代目姐対策に挑んだ。

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