STORY
定価:本体660円(税別)
主従以上、夫婦未満の関係に変化が……?
女嫌いのひきこもり公爵・リュシアンと契約結婚したノエルは、宮廷画家になるために男のふりを続ける少女。ちなみにリュシアンとは「安眠用の抱き枕」程度の扱いをされるだけの、徹底した仮面夫婦だ。夫公認で「公爵夫人ノエリア」と「その双子の弟の画家ノエル」という一人二役生活を送っていた彼女の元に、ある日、行方不明だった父親の情報が舞い込んできて……。急転直下のシリーズ第2弾!
定価:本体660円(税別)
女嫌いのひきこもり公爵・リュシアンと契約結婚したノエルは、宮廷画家になるために男のふりを続ける少女。ちなみにリュシアンとは「安眠用の抱き枕」程度の扱いをされるだけの、徹底した仮面夫婦だ。夫公認で「公爵夫人ノエリア」と「その双子の弟の画家ノエル」という一人二役生活を送っていた彼女の元に、ある日、行方不明だった父親の情報が舞い込んできて……。急転直下のシリーズ第2弾!
ものぐさ公爵の偏食生活
芝原歌織
「お待たせしました。さあ、どうぞ召し上がってください」
最後の一品をテーブルの上に置き、ノエルはリュシアンに胸を張って告げた。
今日の夕食は、牛肉と五種の野菜を煮込んだポトフに、鮭のムニエル、トマトとブロッコリーのチーズソースサラダ、バターミルクガレットの四品だ。
それらを目にするや、リュシアンは不愉快そうに顔をしかめた。
「今、露骨に嫌な顔をしましたね。嫌いな食べ物でもありましたか?」
いったい何が気に入らなかったのだろうと、ノエルは眉をひそめて訊く。
「その魚」
「魚? お嫌いでしたっけ? この前、メカジキのソテーをおいしそうに食べていらっしゃいましたが」
「嫌いなわけではない」
「なら、何が不満なんです?」
「面倒くさい」
「……は?」
「骨と皮がついている。取り除くのが面倒くさい」
あまりにも幼稚で馬鹿げた理由に、ノエルの目は一瞬点になる。
「なに子供みたいなこと言ってんですか! 仕方ないでしょう、魚なんですから。取り除くのくらい、ほんのちょっとの手間じゃないですか」
「今日は書類仕事で手を使いすぎて疲れているのだ。面倒な思いをするくらいなら食べられなくてもいい。それほど好きなものでもないしな」
リュシアンは説明するのも億劫そうに言って、サラダに手を伸ばした。
「つまり、面倒だから残すんですか? せっかく作ったのに」
「他の三品だけでいい。今日は少しの労力も使いたくないのだ」
いったいどれだけものぐさなのか。ノエルはめまいに似た脱力感を覚えながら、雇い主を見やる。精魂込めて作った料理を残されては、たまったものではない。
「ちょっと失礼します」
リュシアンの隣に立つや、ノエルはフォークとナイフを手に取り、鮭の骨と皮を除去し始めた。
「面倒な作業は全て僕がやって差し上げます。さあ、どうぞ」
所要時間約十秒。手早く分離作業を終え、やや投げやりな口調で食べるよう促す。
すると、リュシアンはおもむろに口を丸く開け──。
「……あの、何をしていらっしゃるんですか?」
そのまま口を閉じようとしないリュシアンに、ノエルは嫌な予感を覚えて訊く。
「面倒な作業は全て引き受けてくれるのだろう? そこまでやったんだ。どうせだから食わせてくれ」
リュシアンはいけしゃあしゃあと答え、雛鳥のように口をぱくぱくさせた。
──ちょっと世話を焼いてやったら、この横着っぷり。
「甘ったれるな~!」
ついにノエルは苛立ちを爆発させ、ものぐさ大王を叱りつけたのだった。
著者からみなさまへ
こんにちは。ルドワールの公爵夫妻シリーズ(と言えばいいのでしょうか)の続編を出すことができました。父親を捜すため男装して宮廷画家を目指していたノエルでしたが、本作ではついに王宮へ潜入し、出生の秘密に迫ります。ノエルの父親は誰なのか? 契約結婚したものぐさ公爵リュシアンとの恋の行方は? 謎めいた絵の師匠カミーユの思惑などなど、多くの問題が解決します。癖のある三人の使用人たちも大活躍(?)! コメディを交え、糖度増量でお届けいたしますので、楽しんでいただけましたら幸いです。