STORY
本体660円(税別)
驚異のバナナ・パニック❤︎
美貌の内科医・氷川諒一(ひかわりょういち)の目下の悩みは、最愛の恋人で眞鍋(まなべ)組の若き組長・橘高清和(きったかせいわ)と楊(よう)一族の抗争を止めることだ。どうあっても戦いを避けることができないと悟った時、氷川はバナナの皮で滑ってしまい!? たとえ清和くんと別れることになっても、殺し合うよりはいい。そう思った氷川は禁断の策を選ぶことに──!!
本体660円(税別)
美貌の内科医・氷川諒一(ひかわりょういち)の目下の悩みは、最愛の恋人で眞鍋(まなべ)組の若き組長・橘高清和(きったかせいわ)と楊(よう)一族の抗争を止めることだ。どうあっても戦いを避けることができないと悟った時、氷川はバナナの皮で滑ってしまい!? たとえ清和くんと別れることになっても、殺し合うよりはいい。そう思った氷川は禁断の策を選ぶことに──!!
怒濤の勢いで突き進む、大人気「龍&Dr.」シリーズ最新刊『龍の狂愛、Dr.の策略』刊行を記念して、樹生かなめ先生の直筆サインが入ったカバー校正紙を抽選で2名様にプレゼントします! 貴重なこのチャンス、ぜひご応募ください!
応募方法
ホワイトハート公式Twitter「@whiteheart_KD」をフォローし、8月1日(火)に掲載する対象ツイートをリツイートしてください。たくさんのご応募お待ちしています!応募期間
2017年8月14日(月)23:59まで『龍の狂愛、Dr.の策略』番外編
「黒幕とバナナ」
樹生かなめ
総天然バナナ色。
藤堂和真はこの世に生を受けて以来、初めてバナナを強く意識した。
「藤堂、姐さんをバナナの皮で狙いやがったな」
指定暴力団・眞鍋組の切り込み隊長ことショウが、無間地獄の番人のような顔で近づいてきた。その手には台湾バナナ。
「藤堂、姐さんにバナナをけしかけたな?」
武闘派幹部候補と目されている宇治が、悪鬼の如き形相で現れる。やはり、その手にはバナナ。
「姐さんにバナナを勧めたのか?」
ショウの後ろにいる吾郎の手にも台湾バナナ。
バナナに次ぐバナナ。
指定暴力団・眞鍋組がバナナ一色に染まった。正確にいえば、バナナに壊滅させられた。
麗しの白百合にかかれば、甘い台湾バナナが危険物になる。
姐さん、いくらなんでもそれはないだろう、と藤堂は心の中で眞鍋組の二代目姐に語りかけた。もとより、返事は望んでいない。二代目姐の魂胆はわかっていた。楊一族との戦争を止める気だ、と。
事実、眞鍋の男たちは二代目姐の記憶喪失にひっくり返った。藤堂が黒幕だと疑うぐらい浮き足立っている。
どこからともなく、眞鍋組構成員たちの絶叫が響いてきた。
『うおーっ、姐さん、頼むから思いだしてくれーっ。俺はもう耐えられねぇーっ』
『わおおお~ん、姐さん~っ』
『うぉぉぉぉぉぉ~ん、姐さん~っ』
眞鍋組構成員たちの雄叫びに気を取られた隙に、生死の境を彷徨った桐嶋元紀が拘束具を破壊してベッドから下りようとした。未だ医療機械に繫がれている状態なのに。
「元紀、寝ていろ」
藤堂は涼やかな目をきつく細め、桐嶋の包帯だらけの身体をベッドに押し戻した。
けれど、桐嶋は全身で抵抗する。
「アホ、のんびり寝てられへん。姐さんの一大事や」
桐嶋の耳にもバナナに制圧された眞鍋組の内情は届いている。
「今のお前には関係ない」
天才外科医の名をほしいままにした木村がいなければ、桐嶋は彼岸の彼方に旅立っていただろう。
なぜ俺を庇った。
あの時、狙われていたのは俺だ。
俺は撃たれるつもりだった。
藤堂は心の中で桐嶋に文句を零す。ヒットマンを送り込んだ楊一族に対する憎悪はない。ただただ無力な自分が口惜しい。
「どアホっ。俺は姐さんの舎弟やで。姐さんがやられて黙っとったら男が廃る。きっちりカタをつけたるわ」
桐嶋は闘志を燃やしたが、藤堂はシニカルに口元を緩めた。
「バナナの皮相手にどうカタをつける?」
二代目姐の記憶を奪ったのは、床に落ちていた台湾バナナの皮だ。清和の舎弟たちのように、バナナに刃物を突き立てるのだろうか。
「ノアの洪水を再現したるわ」
「ノアの洪水?」
元竿師のヤクザは神を騙る気か。それとも、桐嶋組初代組長特有の冗談か。
「バナナだけ箱船に乗せたらへん」
桐嶋の言いたいことはわかるが、それについてコメントする気にはなれない。
「絶対安静を言い渡されたのを忘れたのか?」
隙あらばICUから抜けだそうとするので、桐嶋をベッドに拘束したばかりだ。藤堂は血の気の多い熱血漢に頭を抱える。
「姐さんを助けなあかん」
「二代目がいる。元紀の出る幕はない」
「二代目はオロオロしとう。虎までオロオロしとうみたいや」
あの虎まで振り回すとはたいしたものだと、藤堂はどんなに揺さぶっても動じなかった清和の右腕を脳裏に浮かべた。
「動くな。傷口が開く」
桐嶋をICUに閉じ込めておくこと自体、大変だ。一時も目が離せない。
「俺が血塗れになったら、姐さんは優しいから思いだすかもしれへん」
「心配する必要はない」
「なんでや。姐さんが姐さんちゃうんやで。ショウちんも宇治坊もおかしくなっとう。そのうち、みんな、発狂すんで」
眞鍋組構成員たちはあの手この手を駆使し、氷川の記憶を呼び戻そうとしている。
「発狂したら見物だな」
「カズ、何をぬかしとんのや。お前はまたしょうもないことを考えとるんやないやろな。まさか、お前がバナナの皮をけしかけたんちゃうよな?」
桐嶋まで藤堂を黒幕だと疑い始めた。
「元紀、人間はバナナの皮相手に交渉はできない」
「お前ならやりかねへん。バナナがオスやったらお前に惑わされたんちゃうんか?」
「元紀、まだ気づかないのか?」
レモンと涼子、坊主、カードを三枚切っても姐さんはボロを出さなかったか、と藤堂は清楚な二代目姐に感心する。
「なんや?」
「姐さんは名女優だ」
スッ、と藤堂は意味深な手つきで桐嶋の髪の毛を梳いた。
「……姐さんは記憶喪失のふりをしとう?」
「どうして気づかない?」
「昇り龍も虎も魔女も騙されとんのか?」
「魔女と木村先生は気づいているだろう」
「姐さんはなんでそないな罪作りな真似を……ああ、昇り龍を戦車に乗せたくないんやな」
「わかったらおとなしくしていろ」
桐嶋の額を宥めるように優しく撫でた。
その時だった。
青竜刀を手にしたヒットマンが現れたのは。
「楊一族か」
藤堂は香港の楊一族の苛烈さを改めて知った。
「死ね」
シュッ。
藤堂めがけて青竜刀が振り下ろされる。
グサリ。
青竜刀が突き刺さった。
桐嶋の枕に。
「キサマ、俺の前でカズをやれると思うとるんか。ええ度胸や。度胸だけ誉めたるわ」
桐嶋が楊一族のヒットマンに対抗する。藤堂は慌てて止めようとした。
「元紀、おとなしくしていろ」
これでは傷口が開く。
「深窓のカズ姫さんはベッドの下に隠れとかんかーっ」
桐嶋は凄まじい闘志を漲らせ、楊一族のヒットマンとやり合った。
「元紀、やめろ」
「カズ、さっさと隠れんかーっ」
シャッ。
青竜刀が桐嶋の頸動脈を切った。
いや、間一髪、桐嶋は凶器から身を逸らし、青竜刀を持つ手をねじ上げた。
青竜刀が宙を飛ぶ。
が、楊一族のヒットマンはすぐに隠し持っていた中華風の小刀を黒い靴から取りだす。
切っ先は桐嶋の喉元に向けられた。すでに桐嶋の傷口は開き、鳩尾に巻かれた包帯が赤くなっている。このままでは危ない。
グサリ。
藤堂が背後から楊一族のヒットマンの首筋を狙った。隠し持っていた手術用のメスで。
「元紀、動くな」
プシュッ、とヒットマンの首から血飛沫が飛ぶ。
藤堂と桐嶋はそれぞれ返り血を浴びた。
「カズ、深窓のお姫さんがそないな無理をせんでええんやで。こんな奴、俺がやったるわ」
桐嶋が悔しそうに哀愁を漂わせたが、藤堂に構っている暇はない。
「傷口が開いた」
「それでええんや。俺はやられた。死んだんや」
「……元紀?」
「ええ機会や。姐さんには女優を引退してもらお。俺はやられて死んだんやで。カズは愛する旦那を殺されて悲しむ未亡人のふりをするんやで」
桐嶋の言いたいことはよくわかった。目的も理解できる。
姐さんが引っかかってくれるかな、と藤堂は苦笑を漏らした。
そして、楊一族のエリザベスの潜入に気づいた。
藤堂の脳裏をイジオットの冬将軍が過る。
もはや傍観していられない。
姐さん、ゲームオーバー。
藤堂は美貌の二代目姐によるバナナ騒動と楊一族の収拾をつける算段を錬った。
著者からみなさまへ
いつも氷川と清和を応援してくださり、実にありがとうございます。長年のご愛顧にお応えして、年に一度の大放出、奇跡のバナナセールを開催します……スーパーの特別セールではありませんが、バナナがお求めやすくなっています……ではありませんが、バナナざます。何がなんだかわからない方は、すみやかに今作、バナナ物語を買って、読んでくださいませ。読者様の心は広いと信じています。