STORY
定価:本体750円(税別)
大人気「恋救」シリーズついに完結!!
「あなた以上の人は……この世に存在しない」天使の美貌と悪魔の魅力を併せもつ救命救急医・貴志颯真(きしそうま)。彼に抱かれることが、整形外科医の森住英輔(もりずみえいすけ)にとって日常になりつつあった。だが、紆余曲折を経て恋人のポジションに収まった貴志を受け入れておきながら、森住はまだどこかでこの関係を正確に理解できない。自分はただ、貴志の情熱にほだされ、与えられる快楽に溺れているだけなのか、それとも――?
定価:本体750円(税別)
「あなた以上の人は……この世に存在しない」天使の美貌と悪魔の魅力を併せもつ救命救急医・貴志颯真(きしそうま)。彼に抱かれることが、整形外科医の森住英輔(もりずみえいすけ)にとって日常になりつつあった。だが、紆余曲折を経て恋人のポジションに収まった貴志を受け入れておきながら、森住はまだどこかでこの関係を正確に理解できない。自分はただ、貴志の情熱にほだされ、与えられる快楽に溺れているだけなのか、それとも――?
初版限定 書き下ろしSS
特別番外編「夏の幻」より
その夏は、とても暑い夏だった。家も学校もエアコンが入っていたから、屋内にいる分には暑さもさほどではなかったが、一歩外に出ると、くらくらするような真夏の光が、貴志の淡い色の髪と瞳には、ひどく痛かった。
「あーあ、行きたくないなあ……」
……続きは初版限定特典で☆
『恋する救命救急医 魔王陥落』特別番外編
「焼きたてパンを召し上がれ」
春原いずみ
「あなたの家にオーブンがあるんですか?」
貴志がびっくりしたように言ったのは、『le cocon』のカウンターだった。
「あるよ」
森住はハイボールを飲みながら答えた。
「うち、リノベ物件でさ。最初からついてたの。アメリカとかでよくあるじゃん。キッチンに作り付けのでかいオーブン」
「それを使っていないと?」
「オーブン使うような料理なんかしないもん」
「温度調節は?」
「うーん、多分できると思う。まだ新しいやつだって、不動産屋が言ってた」
ジンバックを飲んでいた貴志が少し考えてから、頷いた。
「わかりました」
「わかった? 何が?」
きょとんとする森住に、貴志はにっこりとした。
「次の休み、パンを焼きに行きます」
「へ?」
すっと貴志が身体を寄せてきた。ふわっと華やかな香りが寄り添ってくる。
「私のエプロン姿、気に入ってくださっているんでしょう?」
確かに、あの後ろ姿には恐ろしくそそられる。
「……おっけー」
森住は頷き、貴志のグラスに、自分のグラスを軽くぶつけたのだった。
森住の自宅にあるオーブンは三段式の立派なものだった。
「一応、掃除はしておいたんだけど」
大きめのエコバッグと共に、貴志はやってきた。
「十分です。使っていないので、油汚れもありませんね」
ざっとオーブンを検分すると、貴志はエプロンを着け、エコバッグの中から次々に材料を取り出した。森住は興味津々でそれらを眺めた。
「牛乳とバターは用意しておいてくれましたか?」
「あ、ああ。それと一斤用の食パン型。蓋付きでいいんだよな」
「はい。洗っておいてくれましたか?」
「洗って乾かしといた」
「ありがとうございます」
貴志は取り出した強力粉と砂糖、塩、ドライイーストを混ぜると牛乳を加え、スケッパーで器用に混ぜていった。ベタベタしていた生地が貴志の手で、それなりにまとまってくる。
「へぇ……すごい……」
「エプロンしてください」
「へ?」
「手伝ってください。この次の工程はあなた向きです」
貴志はちゃんと森住のエプロンを用意していた。貴志のものとおそろいだ。デニム地のエプロンを締めて、森住は貴志の隣に立った。広めのキッチンは二人が並んで立っても、さほど狭くない。
「はい、これを思いっきり叩きつけてください」
「はぁっ?」
「叩きつけてこねる。丸めて九十度回す。これを生地が完全にまとまるまで。その後はひたすらこねて、艶が出るまで続けてください」
「わ、わかった」
貴志が教えてくれるままに、森住は無心でパン生地をこねる。べたついていた生地がまとまって、よいしょよいしょとさらにこねていると艶が出てきた。これはなかなかおもしろい。
「はい、いいですよ」
貴志からOKが出た。その生地にバターを混ぜて、今度は貴志がこねる。バターで再びべたつくので、少しコツがいるらしい。ぎゅっぎゅっと力を入れてパン生地をこねているところは、なかなかセクシーだ。まとめていた長い髪がはらりと横顔にかかって、色っぽい。
“台所仕事って……大変だけど、何か……そそられるところ多いんですけど”
生地が出来上がったらしい。森住が出したどんぶりにパン生地を入れてラップをかけ、一次発酵させる。手を洗い、きちんとタオルで拭くと、貴志は振り返った。
「はい、お待たせしました」
貴志がくすりと笑った。ぞくぞくするくらい色っぽくて、悪い笑い方だ。
「ここから一時間半はフリーです。……ここでいいですか?」
彼の手がするりと、森住のエプロンの紐を解いた。そのまま、ゆっくりと森住のお尻を摑むようにして、きゅっと揉んでくる。
「確かに、エプロンを締めた後ろ姿はそそりますね。あなたのきゅっと上がった形のいいお尻がセクシーで、後ろから襲いたくなりました」
同じ性的嗜好という訳か。森住は軽くため息をつくと、恋人の唇にキスをした。
「で? 一時間半で何回できるんだ?」
答えを考えている間にキスを楽しむ。幾度も舌を絡ませ、お互いの腰に腕を回して、甘くて熱いキスに酔う。
「シャワー込みで二ラウンド。ここで立ちバックでセックスするなら、もう一回くらいできるかもしれませんが」
「……ベッドにしてくれ。自分がやったところで、メシを食いたくない」
貴志のエプロンの紐を解き、するりと外して、森住は言った。
「ベッドは俺の部屋。ダブルだから、さほど狭くは……」
「ベッドにいる間は重なっているんですから、シングルでも構いませんよ」
またも上品な口調で爆弾発言をかまして、貴志は妖艶に微笑んだのだった。
「十分オーバー」
一次発酵を終えた生地を計って等分し、ベンチタイムをとったあと形を整えて、型に入れ、また一時間の二次発酵だ。さすがにベッドに戻るのは面倒なので、その場でのんびりとコーヒータイムである。
「あんたがしつこいからだぞ」
「あなたの具合がよすぎるのが悪いんです。早く終わらせたかったら、あんなに気持ちよさそうな声を出すのと、いつまでも名残惜しそうにきゅうきゅう締めるのをやめてください」
親にも祖父母にもとても聞かせられない会話だ。貴志との関係は、セックスも会話の一つという心と身体の一体感込みの恋人関係なのだと、森住は思う。今まで、何人かの恋人がいたし、ワンナイトラブという鬼畜な真似もしたが、こんな風にあけすけにセックスを語っているのに、からっとした感じになった相手はいない。完全に彼との間では、セックスもコミュニケーションの一つで、まさに食べて、寝て、楽しんでの関係なのだと思う。
「さて、そろそろ焼きますよ」
パン種がふっくらと型いっぱいになった。あたためていたオーブンに型を入れて、温度を確認し、バタンと扉を閉める。
もうじき、彼自慢の美味しいパン・ド・ミが焼き上がる。
「さて」
彼が振り返った。
「四十分かかりますが、立ちバック試します?」
美人の恋人はにっこりと妖艶に微笑んで、くっと唇の片端を引き上げたのだった。
「恋する救命救急医」シリーズ完結記念
春原いずみ先生 スペシャルインタビュー
ついに「恋救」シリーズが12冊で完結です!!!
春原いずみ先生(以下春原) 最後の「魔王編」をものすごい速さで駆け抜けたので、何だかまだ実感が湧きません。きっと、本が出来上がって、最後の1行を読んだ時に「ああ、終わったんだなぁ」と思うのかもしれませんね。
「救命救急」という設定を選んだ理由を教えてください。
春原 実は、この設定は他社の本でも何度か取り上げています。現役医療従事者である私に求められているものは、やはり「リアル」かなぁと思っているので、「リアル感」が出しやすく、その場にいないとわからない空気感を知っている私にしか書けないものとして、救命救急を選びました。事実、作中のエピソードのいくつかは、私の経験です。実際、救急車の受け入れは、まだやっていますし、ドクターヘリの受け入れもやっています。1日4台救急車のくる開業医はなかなかないと思います(笑)。
シリーズの中で印象的なエピソードというと?
春原 何だろう……(笑)。やっぱり、神城先生がらみのエピソードが強烈ですね。工場内でのアンプテーション(四肢切断術)と、山の中に防災ヘリからホイスト(救助用ウィンチ)を使って降りていく神城さん……でしょうか。もはやBLじゃないですね(笑)。
春原先生のお話の中には美味しそうな料理のシーンもたくさん!
お料理エピソードがあったら教えてください。
春原 えーと、とりあえず、料理はすべて実際に作れるものです。レシピもちゃんとあります。一応、コンセプトとして、すべてレストランや割烹で食べられるもの……というこだわりがあるので、プロのシェフや料理人の方の本を参考にしています。お酒については、特にウイスキーはほぼ自分が飲んだものです(笑)。すみません。ただの酒飲みです。
「恋救」には犬もたくさん登場! 先生の好きな犬種はもちろん……?
春原 ベストワン(笑)はもちろん、柴犬です! Twitterの私のTLは、柴犬だらけです。手持ちのグッズも柴犬だらけです。柴犬Love! 次点がコーギーですね。あのスタイリングと魅惑のコギケツ! 犬を語らせると長いです(笑)。
シリーズ12冊のうち、お気に入りのカバーイラストは?
春原 目つきの悪い(笑)篠川先生が好きなので、『イノセンスな熱情を君に』と『永遠にラヴィン・ユー』かな。『永遠に……』はコギケツ付きなので、あのできあがりを見た時は、まさに悶絶しました! 柴犬Loverとしては『キングの決心』も外せませんね。友人からは「犬もいいが、キングの腹チラ!」と別の意味で悶絶されました(笑)。「魔王編」に入ってからは、すべて貴志先生に持って行かれている感があって(笑)、私の作品にしてはめずらしいくらいのセクシー度で、大変に気に入っております。
イラストの緒田涼歌先生への愛を!
春原 えーと、実はたぶん、一番お付き合いの長いイラストレーター様なんです。最初に描いていただいたのは、今調べたら、1996年でした。ご縁がいろいろとあって、3社にわたって、お付き合いいただいています。私の書くものは、たぶん、緒田先生が得意とされる世界観ではないと思うんですね。緒田先生の華やかな絵柄を、私の作品は必ずしも生かしていないはずなのに、いつも「これしかない!」と思える仕上がりに持っていってくださる……本当に素晴らしいイラストレーター様だと思っています。特に「魔王」のビジュアルは、私の中には完全になかったもので、緒田先生のラフに全力で乗っかったという経緯があり(笑)、貴志颯真の半分は緒田涼歌でできています。「恋救」は、緒田先生なしでは絶対にここまで続けてこられていなかったので、心からの感謝を捧げます。今度お目にかかったら、抱きしめようと思います(笑)。
では最後に、読者の皆様へメッセージをお願いします!
春原 わずか3年半に12冊を出すという暴挙だったのに、ついてきてくださって本当にありがとうございました! そして、カップルが次々に入れ替わるというめまぐるしい展開。華やかさのかけらもない白衣とスクラブの洪水に、たまに血しぶき……(笑)。ヘリまで飛び交う。犬は走る(笑)。もうなんか、ごめんなさいするしかないくらい、好き放題に駆け抜けた12冊でしたが、嬉しいことに本当に楽しんでいただけたようで、作家としてはありがたい限りでございました。心からの感謝を込めて、おまけとして『カーテンコール』という公式でやる同人誌(笑)まで作らせていただきました。私と「恋救」メンバーの愛を感じ取っていただけたら、嬉しゅうございます。「恋救」は終わりますが、彼らは相変わらず、ラブラブしつつ、お仕事にいそしんでおります。たまに、彼らのことも思い出してやってくださいね。最後になりましたが、あなたに両手いっぱいの感謝を!
気になる新作のお知らせをちらりとサービス♪
春原 えと、どこまで言っていいの(笑)? 新作、ただいま現在進行形で、書いているところです。お目にかかれるのは、少し先かな? 「恋救」とはトーンの違う、でも医者ものです。期待して、待っていてください!
著者からみなさまへ
こんにちは、春原(すのはら)いずみです。いよいよこの日がやって参りました! 『恋する救命救急医 魔王陥落』です。この巻をもちまして、3年半、12冊にわたって展開して参りました「恋救」シリーズ完結でございます。完結の巻にふさわしく、最後までド派手な恋愛バトル! おお、懐かしい君も帰ってきてくれたのか!(笑。さぁ、誰だ!)最後の1行まで、きっちりとお楽しみくださいませ! そして、SEE YOU NEXT TIME!