『凍った恋の溶かしかた』特別番外編
「何度でも」
藍生 有
「あ、ぁ……!」
「っ……」
ほぼ同時に達した瞬間に覚えたのは、目眩にも似た激しい快感だった。
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全力疾走した直後のような荒い呼吸が、少しずつ落ち着いていく。ルカ・トライアーノは、ふぅ、と短く息を吐いた。
呼吸も鼓動も混ぜ合った恋人の小野原尚は、ベッドにくたりと横たわっている。下腹部に飛び散る彼の体液に目を細めた。確実に彼が達したのだと分かって、口元が緩む。
できるならいつだって、気持ちがよかったか、と聞きたい。だが愛を交わした直後に感想を聞くなど野暮なことだと理解している。
それでも聞きたくなる気持ちはどこからくるのだろう。尚の前ではどうしたって不安になる自分に苦笑する。
目を閉じて浅い呼吸を繰り返す尚の様子を窺いつつ、彼の細い腰を摑む。下腹部に放たれた体液をそのままにルカは腰を引いた。
名残惜しいが果てた自身を抜く。力の抜けていた尚がルカを送りだすかのように軽く腰を上げた。その無意識で行われる慣れた動きが、恋人として時間を重ねたのだと教えてくれる。
体を離した途端に湧き上がる寂しさをどうにかしたい。ルカはベッドサイドのテーブルに手を伸ばした。
「んっ……」
下腹部を簡単に拭ってやると、尚が身じろいだ。薄く開いたままの唇に誘われて口づける。軽く重ねたまま、体を横に倒した。
汗ばんだ肌を密着させる。唇を離して尚の髪を撫でた。小さく彼の名を呼ぶ。そうすると尚の頭がルカの胸元にすりよってきた。
かわいい。普段は落ち着いていて甘えてこない尚が、まるで子猫のように自分の胸元に懐いてくる。これを幸せと呼ばずしてなんと呼ぶのか。
寝室の空気までが甘い気がする。ルカは汗が引いてもただ尚を抱きしめていた。
「……?」
尚が目を開ける。普段の聡明さを欲で濡らした瞳にうっとりと見入っていると、尚の手がルカの胸元に置かれた。
「ルカ」
「ああ、君のルカだ」
「……うん、……僕の」
何かを確認するように尚がルカの腕に指を這わせる。首筋を撫でられ、顎に触れられて身震いした。
余韻と呼ぶにはまだ生々しい熱が、肌を粟立たせる。もう一度、とねだるように尚の指を摑んで引き寄せた。
ぶつけるように唇を重ねる。尚の唇が開いて迎えてくれるから、頰を両手で包んで舌を差し入れ、中を味わった。
やっぱり甘い。彼が作るジェラートよりも甘い口づけを堪能する。ああ、もっと彼を食べたい。欲望に突き動かされ、尚の足に手をかけた。
ゆっくりと広げた足の間に指を伸ばす。先ほどまでルカを受け入れていた場所を撫で、まだ熱っぽいそこを指で広げた。
「……っ」
小さく声を上げた尚が、頰を上気させてルカを見る。
「来て」
ゆっくりと紡がれた言葉で一気に昂った。尚をベッドに組み敷き、足を抱え、後孔に欲望を宛てがう。ぐっと力を入れただけで、そこはルカを受け入れてくれた。
「……あ、なんか、……変だ……」
尚が声を上ずらせた。
「え、……すごい、……」
彼が何を言いたいのか、深くまで自身を埋めてルカは理解した。まるであつらえたかのように、ぴったりと体が重なったのだ。
尚の体が、自分を覚えた。お互いにそれが本能で分かった。
「……ああ、ここが天国だ」
耳元に囁くと、尚の手がルカの背に回った。どちらともなく唇を重ね、舌を絡めながら、ルカはゆっくりと動き始めた。再び二人で、同じ頂点へたどり着くために。
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著者からみなさまへ
ジェラテリエと呼ばれるジェラート職人の尚が凍らせた恋を、再会した元同僚のルカが溶かしていく話です。自信にあふれた大人の男になったルカの前で、尚はどう溶けるでしょうか。期間限定の恋人となった二人の甘く優しい時間をぜひ読んでいただけると嬉しいです。柔らかく糖度高めとなっております。お供におすすめのジェラートはラムレーズンです!