講談社BOOK倶楽部

ホワイトハート X文庫 | 新人賞2014下期 講評
●最終選考分の作品の講評

「美人水銀」玉木久芳
  • ファンタジーの枠組みのなかで人間の願望や嫉妬など内面を描こうとしている意欲を感じました。ただ、設定がきちんとなされていない部分があるので、この世界のことがよくわからず、味わいきれなかった気がします。(L)
  • 魅力的なタイトルで期待しましたが、設定があいまいでお話に入り込めませんでした。もっと場面を思い描いて書いて欲しいと思います。文章はとても読みやすく好感をもちました。(I)
  • 登場人物に共感できず、魔法設定もご都合主義的に使用されているように感じました。謎解きが「実は〇〇でした」の繰り返しなのも難。時系列に沿って読んでも楽しめる丁寧な作品づくりを。文章はこなれているのでじっくりと作品に取り組んで欲しい。(M)
  • タイトルにそそられる! の声多し! そして、愛する相手に、毎日毒を盛り続ける……というヒロインの冒頭の行動の謎にわしづかみにされました。頭では悪い事だとわかっていても、欲望を優先して自分を壊す行動をとってしまうなど、「業」を感じさせるキャラクターたちには最後まで惹かれ、考えさせられました。ヒロインとヒーローとの関係の進展がないこと、物語が先へ進んでいかず過去の謎が明かされていく展開が惜しかったです。(R)
  • 毒と魔法にやや頼りすぎな印象ではあるものの、インパクトはありました。二人の関係性を、明らかにできない部分はともあれ、もう少し早い段階でわかるようになると感情移入しやすい。描写が丁寧で好感が持てます。(S)
  • 設定やキャラクターなどを含め、世界観が全体的に浅いという印象でした。心情描写はとても上手でしたが、前半は同じ心情が繰り返され、ラストにバタバタと展開してしまうのが気になりました。また、最終的に「あざ」を否定してしまっているので、物語としても共感できませんでした。(Y)
  • 文章が読みやすく、設定も興味を引くものがあると思うのですが、展開の遅さ、リズムの悪さで良さを殺しているのかなと思います。全体的に、もっと掘り下げていくことができるとよくなるのではないかと思います。(U)
「夏の日の陽炎」西崎いつき
  • 終盤までほぼスポーツ小説として読みましたが、著者がこの題材に興味をもっているのかどうか疑問に感じました。情報の重複、登場人物の内面描写のパターン化に気をつけてみてください。(L)
  • 前半の野球部分が説明的でキャラクターの魅力が入ってきにくかったのが残念。もっと青春の不確かなくるおしい恋愛を書いて欲しいと思います。(I)
  • 何を書きたいのか伝わってこない。青春を書きたいのかスポーツものを書きたいのかBLなのか。手慣れた書きぶりですが作品への思いが伝わりませんでした。恋愛パートも恋心というよりも肉欲と感じてしまい居心地が悪かったです。欲を書くのなら題材が違う気がしました。自分が何を書きたいのか明瞭にしたほうが良いと思います。(M)
  • 高校生男子の部室で会話を聞いているような臨場感が自然にあるのはすばらしく、このセンスは大きな武器だと思います。主人公の最大の悩みであり相手役と近づくきっかけとなる「野球ができないほどの怪我」の設定が最後まで曖昧なところが残念でした。その設定をしっかりさせた上で、キャラクターたちが恋に落ちる過程、心情の描写が丁寧に描かれたら、ラブストーリーとして格段の完成度になるのでは。(R)
  • 部活内容のイメージから、主役の言葉遣いがやや乱暴かもしれません。設定をどこまで生かすかが課題。しかし、等身大の媚びない学生たちをうまく描けていて新鮮です。恋愛小説がメインとなるはずなので、友人を好きになる理由をもっとしっかり入れてほしい。(S)
  • 文章はとても上手で読みやすかったです。ただ野球に関する部分が説明的なせいか、青春ものなのに硬い印象になってしまったのが残念でした。また、主人公たちが惹かれ合う理由がよくわからないまま、ラストで急展開してしまうのに違和感がありました。キャラクター自体は魅力的だったので、二人の瑞々しい心情描写がもっと読みたかったです。(Y)
  • よくも悪くもテンプレ的なところがあると思うのですが、やはり会話であったり、キャラクターには魅力を感じます。が、展開、キャラクターが少しお約束になっているので、そこを乗り越えての魅力が見つかるといいのかなあと思いました。今回、恋愛がやや少なめだったのが残念です。もっと恋愛メインで読んでみたかったです。(U)