「無月恋歌　─この愛が満ちるとき─」 行原荒野

全体的に設定が甘く、制約や負荷が少ないため、都合良すぎる展開（たとえば霊の登場の仕方）が気になりました。謎解きもいささか拍子抜けで、物足りないです。もっとドラマティックにできるのにもったいないと思います。読ませる筆力は十分あるので、ＢＬにせよミステリにせよ、もっと大胆に攻めた内容のものを読んでみたいです。(T)

視点のブレや会話の不自然さ、名称の安易さが気になりました。しかし現代パートと過去パートが繫がっていくという趣向と意欲は評価したいと思います。2部が蛇足である印象なので、次は全体像をしっかり構築してから書き始めてみては。(O)

いちばん気になったのは、視点のブレです。ドラマの脚本のように双方の視点、双方の感情が描かれるため、小説としての面白さが損なわれていると思います。テクニックは高いと思いますが、本当に書きたいジャンルなのかな？　という疑問も残りました。自分の書きたいものと向きあって、逃げずにトライしてみては。(M)

ＢＬというにはサービスが足りず、ミステリというには謎が足りず──どちらにも振り切れてない中途半端な印象でした。現在と過去のパートを行き来しますが、前者は後者にかなり力負けしているのではないでしょうか？（R)

映像翻訳家の仕事の部分や過去パートは興味深く読みました。しかし肝心のＢＬ要素に感情移入しにくかったです。特に視点を受と攻の双方から書いてしまうと、恋愛のもどかしさなどが抜け落ちてしまい、読書の楽しみが半減するように感じます。また、今ひとつ不自然な２部構成が気になりました。(H)

「サイド・ミー」 矢野 穂

ファンタジーである以上、ビジュアルイメージをもっと感じさせてほしいです。そのためには「殻」「サギラン」「カラ食い」といった設定をいかに魅力的に伝えるかが大切です。今はまだセリフで説明しているだけに留まっているのが残念。さらに、もっとスピーディーに展開すること、キャラクターにより意外な一面をもたせることを意識してみてはいかがでしょうか。(T)

「殻」や「カラ食い」という設定は興味深くとてもわくわくする始まりでした。だからこそそこからの展開の遅さやキャラクターの薄さ、物語の魅力が薄いのが残念です。しかしファンタジーのような荒唐無稽な設定を説得力ある形で構築できる力はあると思います。設定の次は、物語の構築、展開を考えてみてはいかがでしょう。(O)

展開が遅く、その割に書き込みが浅く感じられました。文章も拙い。しかし主人公の健気さ、周囲の人の優しさに魅力は感じます。また「我々の欲と恐怖を世界の基準にしてはいけない」という台詞はとてもよかったです。(M)

序盤は、横暴な上司に振り回されながら成長していく主人公という構造で、とっつきやすい建て付けです。ただ、上司は上司でただ横暴なだけにしか見えず、主人公も主人公で認めさせるための創意工夫が足りないという意味で、「上司部下もの」としておもしろく読めませんでした。それゆえに後半でふたりの関係性が変化していくことにも乗り切れません。(R)

サギランの設定は新鮮で、いかにもファンタジーらしい物語でした。が、主人公が奉公先に行くまでが長く、なかなかメインストーリーが始まらないのがもったいないです。地の文の説明が冗長で会話も定型気味なので、キャラクターの魅力がうまく表現しきれていないように思えました。(H)

「水の都の恋物語」 おりべ美緒

ものすごくスラスラ読めて、気持ちよく終わるという、ライトＢＬとしてある意味、あっぱれな出来だと思います。物語とキャラの定番をきちんと押さえているからでしょう。しかしその分、新鮮味には欠けました。また主人公が作者の都合で動かされている印象（特に感情面）がしてしまうのも課題です。とはいえ、この読みやすさは武器なので、今後も磨いてください。(T)

ＢＬならばもう少しそれぞれに葛藤が欲しいという印象です。細かい設定も少し稚拙。しかし、皆が思い描きやすい街並みの描写やイケメン然とした登場人物の行動など非常に楽しく読みました。細かい設定や事件を現実に即した形にすることは些細なことではありますが、小説においては重要なことです。その穴をしっかり埋められれば全体的に説得力が増します。次はその点を留意してみてください。(O)

ＢＬ作品として書かれていますが、TLの方がしっくりくるキャラクターとお話だと思いました。舞台設定が、前作よりもぐっと華やかになり、こころ浮き立つロケーションでの恋物語は、TL読者に需要がありそうです。恋以外の物語の本筋が、わかりづらく感じました。贋作を暴くのか、絵画展を開くのかどちらかに絞った方が物語に推進力が出たのでは。(M)

過不足のない文章、ベタながら魅力的なキャラクター、読みやすい版面──あらゆる点で読者を意識した欠点のない作品だと思いました。ただ、それゆえに、作者特有のエグみといいますか、この人にしか書けない何かを感じることができず推し切れませんでした。あと、ＢＬではありますが、主人公が女性に入れ替え可能なのは問題でしょう。(R)

わかりやすい展開、派手な舞台設定、良い意味でベタなキャラクターで楽しく読みました。しかしこの作品独自の魅力に欠け、またＢＬのトレンドからは遠いレトロな雰囲気があります。これがTLであれば、そこが却って武器になるような気がします。(H)

「思い出バイバイ」 安里 翔

記憶売買が安直に扱われているので鼻白んでしまい、物語に乗っていけませんでした。世界観やキャラの言動、感情に不自然さや強引さが目立ちました。ＢＬとして新たな領域を切り拓くべく、作者としては無理を承知であえて描いたのかもしれず、だとすれば、その気合と才能に期待しますが、現状の完成度には不満が残ります。(T)

ＳＦ的な設定とはいえ、やはり司法や警察を登場させるのであれば、それなりに整合性は必要でしょう。その点の甘さが疵でした。しかし突飛な話なのに展開が気になるというのは物語の設定に魅力があるということ。勢いだけではなく「この人物はこの物語に必要なのか？」「この世界ではどんなルールがあるのか？」もう少し物語から離れた視点で自身の作品を読み直してみると、今後の課題が見つかると思います。(O)

設定、物語に力強さがあり、話の先が気になる、読ませる作品です。ただ勢いはあるのですが、話の整合性などは甘く、雑な印象を受けました。ラブストーリーの要素は残したまま、ホラーやサスペンス方向に仕上げた方が良かったかもしれません。可能性を感じる作風なので、別の作品も読んでみたいと思いました。(M)

率直に言って、感動しました。「記憶」をテーマとした作品の多くでは、「自己」とは「私」とは何かという問いに辿りつくことが多いですが、本作ではそれをＢＬ的に解釈してみせております。他人の記憶を通して、恋い焦がれた人の痴態を見たときに感じる喜びは本物か、という主人公の葛藤は非常に胸を打ちます。傑作を読ませていただき、ありがとうございました。(R)

記憶の売買という、ＳＦとしては定番中の定番ネタですが、安定した筆力で最後まで一気に読ませてくれました。ＢＬ的には、主役カップル（になる予定のふたり）の接触に物足りなさを感じました。ぜひとも他のテイストの作品も読んでみたいです。(H)