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『ご飯ください』

火崎 勇/著 幸村佳苗/イラスト 定価:990円(税込)

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STORY

『ご飯ください』定価:990円(税込)

「ご飯」から始まる恋もある!?

ホストクラブで働く雫(しずく)は、小学生の弟・菊太郎(きくたろう)と二人だけで暮らしていた。ある日、弟が誘拐されたと勘違いし強面の隣人宅へ乗り込んだ雫。無愛想だが根は優しい辻堂(つじどう)は、健気な兄弟を見捨てられず食事を作ってくれるようになる。辻堂との買い物や、菊太郎と三人での食事、家族の温かさを知らない雫には初めてのことばかり。感謝の気持ちはいつしか愛情に変わり、返せる物を持たない雫は辻堂に抱かれるのだが……。

著者からみなさまへ

弟の菊太郎と貧しいながら穏やかに暮らしていた雫。隣のちょっとおっかない辻堂と知り合い、彼にご飯を食べさせてもらったことからそれまでと違った日々を過ごすようになり……、というお話です。どうぞよろしく。このお話では、おバカな子ほど可愛いと、男とは繊細で傷つきやすいということと、しっかりしてる子供でも泣くと可愛い、が伝わると嬉しいです。

special story

書き下ろしSS

『ご飯ください』特別番外編
「恋人になったから……」
火崎 勇


 プロダクトデザイナーとして勤めていた以前の職場を、人間関係が煩わしくなって退社し、フリーになってから、俺は人と関わるのが面倒だと思っていた。
 どうせ皆自分のことしか考えていない。

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 それが当然なのだから、深く関わらない方が気が楽だ、と。
 自然、愛想もなくなり、体格や容姿のせいでとっつきにくい怖い人と思われるようになっても、それで近づいてこないならその方がいい。
 だが、ある日アパートの隣に引っ越して来た二川兄弟は違っていた。
 血の繫がらない兄弟でありながら、ちょっとおバカな兄の雫も、小学生とは思えない程しっかりした弟の菊太郎も、自分のことより兄弟のことを思いやるような奴等だった。
 貧しいから、支え合わないといけなかった。まだ経験が足りなかったから、純粋なままでこられたのかもしれない。
 いや、そうじゃないか。
 苦労もしてきた、世間には優しい人間ばかりじゃないともわかっている。それなのに、二人にはまだ純なところが残っているのだ。
 面倒だと思いながらも放っておけなくて、ついメシの世話なんぞを焼いているうちに、いつしか俺は雫に惹かれていた。
「辻堂さん」
 と、真っ直ぐな目を向けられると、むず痒くなるような愛しさを感じるようになってしまった。
 そして、色々あったが、今や雫は俺の恋人だ。
 何も望まない、頼ろうともしない彼の姿勢に、人と関わるのが面倒だと思っていた俺が、何かしてやりたいと思うように、なっていた。
「雫」
「何?」
「お前、何か欲しいものはないのか?」
 そう訊いても、雫はキョトンとした顔を向けるだけ。
「ん、今シアワセだもん。特にないよ?」
 ハッキリ言って、貧しい生活だ。欲しいものなんて山ほどあるだろうに。
「何かして欲しいことはないのか?」
「辻堂さんが側にいてくれればいい」
 これが計算ではなく、こいつの本音なのだ。
「今度、回転寿司でも連れてってやろうか?」
「ホント? 菊太郎、まだ回転寿司行ったことないから喜ぶよ」
 そうじゃない。
 菊太郎も可愛いが、俺はお前を喜ばせてやりたいんだ。
「何でもいいんだぞ、お前が俺に何かして欲しいことはないのか?」
 人と関わりたくないと思っていた俺が、自分からこんなことを言い出すなんて。
「恋人なんだから、たまにはなんかねだってみろ」
「じゃ、キスしてって言ったらしてくれる……?」
 照れたように頰を染めて言ってくる顔に顔を近づけてキスを贈る。
「こんなことぐらい、いつだってしてやる」
 自分から望んだクセに、真っ赤になるところが可愛い。
「もっと、恋人だから甘えろって言ってるんだ」
 俺はきっと、もう雫にゾッコンなんだろうな。
「じゃあ、俺……、ぺアルックしてみたい」
「……ああ?」
「恋人しか、できないでしょ? だから一度してみたいなって」
 ペアルック?
 この俺が? この歳で? そんな小っ恥ずかしいことを?
「それは……」
 俺が言い淀むと、雫はこちらの気持ちを察して微笑んだ。
「言ってみただけだから、気にしないで」
 こうして自分の願望を、相手を察してすぐに引っ込めるところも、健気で可愛いと思ってしまう。
「菊太郎と揃いのシャツでも買ってやる」
「ホント! 嬉しい! お揃いって、すっごく仲がいいって証みたいでいいよね」
 本心から喜んでるその顔をもっと見たいと思う俺は、やっぱりこいつに惚れているのだ。
 もう一度抱き寄せてキスしながら、パジャマぐらいならペアルックにしてやってもいいかな、と思うほどには。
 大切な恋人、と思うくらいに。

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