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『電子オリジナル アラビアン・ハネムーン ~獅子王の花嫁~』

ゆりの菜櫻/著 兼守美行/イラスト

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STORY

『電子オリジナル アラビアン・ハネムーン ~獅子王の花嫁~』

最強の溺愛カップルの「その後」が読める、ファン待望の書き下ろし作品。

紆余曲折あって結ばれた第六王子シャディールと慧が、ついに結婚式をあげることに! 場所は、パブリックスクール時代の思い出深い地であるエディンバラ城。シリーズの歴代主人公たちも参列し、これ以上ないほどの豪華で素敵なウエディングが執り行われる。挙式後、蕩けそうに甘々なハネムーンを満喫する二人のもとに、ある厄介事が舞い込んできて……。

著者からみなさまへ

今回は「アラビアン」シリーズ第1弾『アラビアン・プロポーズ ~獅子王の花嫁~』の二人、慧とシャディールの続編、結婚式のお話になります。スコットランドのエディンバラ城で「アラビアン」シリーズの仲間とはしゃいで、笑って、幸せを分かち合う結婚式を挙げます。慧の悪友ウォーレンと第九王子のカデフの秘密のラブも進行中? ぜひ楽しんでくださいね。

special story

SS復刻掲載

特別番外編「嵐の予感? ~アラビアン・プロポーズ~」
ゆりの菜櫻

 
 ここ、ロンドン郊外にあるヴィザール校は、五百年の伝統を誇るイギリス屈指の全寮制の男子校である。
 十六ある寮には、十三歳から十八歳の良家の子息、千三百人ほどが生活をしていた。

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 須賀崎慧はその寮の一つ、エドワード寮の寮長であり、総長、キングでもあった。 
 つい先日に行われたキングを決める選挙で票を勝ち取り、見事その座を手に入れ、今やヴィザール校を代表する生徒である。
 その慧の隣で騎士のごとく仕えるのはアラビアの獅子、シャディール・ビン・サディアマーハ・ハディルであった。
 二人の関係はファグマスターとそのファグだ。ファグは本来、マスターの身の回りの世話をするのだが、慧とシャディールの場合、躰の関係も結んでいた。
 慧がキングの座を得るのに、シャディールが尽力する代わりに、慧の躰を与えるという淫らな契約を交わしている。それは慧がキングとなった今も継続されていた。
 今日も消灯を過ぎた頃にシャディールが暗闇に紛れ、慧の部屋へと侵入してきたかと思うと、就寝しようとしていた慧を己の下へと組み敷いた。
「まったく、君は毎夜、毎夜、私のところへ来るが、私の体力のことを考えたことはあるか?」
 自分の上に覆いかぶさってくる二学年下の男を睨み上げる。
「考えているさ、指一本動かせなくなった慧にどう奉仕するか、いつも考えている」
「指一本動かせなくなる前に、どうにかしろ。私の体力がどれだけあっても、君の化け物レベルの体力にはついていけない」
「お前のすべてを管理し、支配するファグとして、お前の体力をつけるのも私の仕事だ」
「ファグの定義を間違えているぞ」
 ファグとは本来、新入生に与えられる役割である。まずそこからシャディールは例外だ。シャディールは三学年生で転入してきた生徒だからだ。
 ファグ制度でいうファグマスターは、自分の身の回りの世話や雑用、部屋の掃除などをファグにさせる代わりに、自分のファグの学園生活が潤滑に回っていくように指導し、援助していく。この関係は卒業後も続き、強い結びつきとなるので、非常に大切なものとされていた。
 シャディールの甘言に惑わされ、彼をファグとして任命してしまったのは慧の唯一の失敗かもしれない。だが、参謀としての彼は有能で、彼の諜報活動の能力もさることながら、謀略なども慧と同等に話ができる。
 混迷極まるキング争いを上手く制し、その座を得られたのは、彼の力が大きいと認めざるを得なかった。
「よそ事を考えられるほど余裕なら、大丈夫そうだな、慧」
 シャディールは片手で慧の両手首を摑むと、そのまま慧の頭上へと持っていった。そして、ほぼ脱げかけていたシャツを手にとり、慧の両手首をシャツできつく縛った。
「待て、そんなことをしたらシャツが破れる」
 本当はシャツのことなど、どうでも良かったのだが、シャディールの野蛮な行為に、上級生として余裕のある振りをしたかったため、そんなことを口にしてしまったのだ。案の定、その言葉は簡単にあしらわれる。
「大丈夫だ。馴染みのテーラーにすぐに代わりのシャツを用意させる」
「っ……」
 自由を奪われ、思うようにシャディールの動きを阻止できない。
「どうして手を縛るんだ。解け、シャディール」
「フッ……駄目だ。お前が案外じゃじゃ馬なことは知っている。縛っておかなければ殴られそうだからな」
「じゃあ、期待通りに殴ってやるよ」
「私はお前に殴られるのもやぶさかではないが、王子に怪我を負わせると、お前が我が国から訴えられ、刑罰を受けることになる」
 確かに一国の王子を傷つければ、それ相応の処罰があるだろう。
「踏んだり蹴ったりだな。君をファグにしたらデメリットばかりじゃないか」
「デメリットばかり? 慧、何を言うんだ。お前はキングの座を得られたし、これからも誰にも知られずに私との快楽を貪れる上に、お前の評価も下がらず、清廉潔白なキング様を演じることができる。いいこと尽くしだ」
 真面目な顔で莫迦なことを言ってくる男の顔を殴りたくなる。たとえ今、刑罰を受けることになると聞かされたばかりでも、だ。
「何がいいこと尽くしだ。私の体力をがっつり搾り取る男が」
 思わず右手を握りしめてしまう。
「そこはウィンウィンの関係だからな。私にも利がないと関係が成り立たないだろう」
「私もまだまだ未熟な人間だから、いつか君を殴るかもしれない。そうしたら監獄行きになるんだろう? とてもウィンウィンの関係じゃない」
「気にするな。君が我が国に連行されたとしても、全力で守ってやるから安心すればいい。私の宮殿に逃げ込めば治外法権だ」
「逃げ込む? そこから一生出してもらえなくなりそうだから、遠慮しておこう」
「ククッ……ばれたか」
 そう言いながらもシャディールは乳首に舌を這わせてくる。
「連行される前に、このロンドンで解決してくれ……っ……」
 いきなりトラウザーズのベルトを外され、ウエストの隙間からシャディールのミルクコーヒー色の手が滑り込んできた。そのまま下着の中へと差し込まれ、淡い茂みに指先が触れてくる。
「少し勃っているな、慧」
 シャディールがニヤリと笑った。その顔を睨み上げた。
「……その言葉遣いは紳士として失格だ。君は根本的に教育手的指導が必要なようだな。この一年で、どこに出しても恥ずかしくない紳士になるためにスパルタ教育で扱いてやる」
「悪いが、閨房術はアラブ式だ」
「何を……っ……はぁ……」
 彼の指が慧の下肢にある二つの袋を荒々しく揉みしだいた。突然の刺激に、慧の目の前に星が散ったような感じがしたのと同時に、凄絶な快感がぶわっと込み上げてくる。
「っ……はあぁっ……」
 快感の塊が慧に一気に押し寄せてきた。
 どうしてこんな―――。
 ウォーレンとも似たようなことをした経験があるが、それとは全然違った。
「あっ……ああっ……」
「指に吸い付くような肌だな……日本人の肌はすべてそうなのか?」
「やめっ……」
 彼の躰を押し返そうとするも自由にならない手では無理だ。ならば、と慧はシャディールを蹴ろうと足を動かした。だが、それも押さえ込まれ阻止される。
「なかなか手ごわいな」
「手ごわいと思うのなら、私を放せ」
「ここをこんなに膨らませて、まだそんなことを言うのか?」
 耳に舌を入れられながら囁かれる。慧の躰がぶるると震えた。
「可愛いな。そんなに期待されると、俄然やる気が出てくる。さすがはマスターだ。後輩を育てるのが上手いな」
「何が後輩を育てるのが上手い、だ……あ……あぁぁ……」
 下肢に違和感を覚える。いつの間にかシャディールが潤滑油を使ったらしく、するりと慧の中に指を埋めてきた。
「君はいつの間にっ……あっ……」
「ちょっとした心遣いだ。紳士的だろう?」
「どこが……っ……くふっ……あぁ……」
 躰の中にあるシャディールの指がこりこりとした場所をわざと何度も擦ってくる。そのたびに凄絶な快感が慧を襲う。シャディールに抱かれる前は、まったく知らなかった快感だ。
「挿れるぞ、慧」
「あっ……あぁぁぁ……」
 慧のか細い声が、シーツに落ちていった。

                 ***

 慧の部屋の前に一人、シャディールの従者、オルゲが立っていた。
 主であるシャディールには先に寝るようにと言われていたが、つい主が忍び込んでいるはずの部屋の前までやってきてしまった。
 部屋の中の音はほとんど聞こえない。寮長である慧の部屋は、他の部屋よりも防音設備が整っている。その真の理由はこの部屋でなされる重要な会話を、他寮のネズミなどに盗み聞きされないようにすることだ。
 だが、今は別の用途に使われていた。
 オルゲは小さく溜息を吐いた。主が、慧に恋慕してこのヴィザール校へ転入してきたことは承知だ。この現状も理解できる。ただ、シャディールがあまりにも慧に心酔しているのが心配だった。
 寮長はシャディール殿下に相応しくない……。
 シャディールは母親がロシア人で、その容姿を引き継いでいたため、デルアン王国でも異端の王子とされている。ただでさえも肩身の狭い思いを強いられているというのに、男を妃になどしようものなら、彼の政治生命を絶つ可能性も出てくる。慧との関係は、シャディールにとって不利益でしかなかった。
 私が命に代えても、殿下と寮長を引き離さなければ……。
 オルゲは改めて心に誓った。そしてもう一度小さく溜息を吐くと、部屋の前から離れた。すると廊下の隅に人影があるのに気づく。
「っ……」
 驚いて足を止めると、男の姿が見えた。一歩、男が近づくと、窓から月明かりが差し込み、その顔が見えた。
「ウォーレン様……」
 慧の友人、ウォーレンだった。こんな夜中に彼に会うとは思ってもいなかった。
「どうした? 消灯後、部屋から抜け出すのは規則違反だと知っているよな? オルゲ」
 監督生でもあるウォーレンに見つかるとは運が悪い。オルゲは口を閉ざした。だが、ウォーレンはだいたいを察しているようだ。向こう側にある慧の部屋をちらりと見て、オルゲに視線を戻してきた。
「シャディールがいるのか?」
 その質問にも黙っておく。態度の悪い下級生だと思われるかもしれないが、主の違反を自分の口から告げるわけにはいかなかった。
「フン、まあいい。お前が言えるわけもないしな。それにしてもこんな時間に一人で歩いているのはあまり得策ではないな」
 グイッといきなりウォーレンの手がオルゲの腕を摑む。
「え?」
 意味がわからずウォーレンを見上げた。
「慧をシャディールに盗られてしまったから、慰め合う相手がなかなか見つからないんだ。どうだい? オルゲ、俺の相手をしないか? そうしたら、夜中に歩き回っていたことを黙っていてやるぞ?」
 こんな提案、どこまで本気なのかわからない。そもそもこのウォーレンという男は、食えない男なのだ。
「……っ、それはカデフ殿下にお伝えしてもいいことですか?」
「なに?」
 ウォーレンの目が少しだけ見開かれる。その表情からオルゲは自分の考えが間違っていないと確信した。
 カデフとはシャディールの義弟に当たる、デルアン王国の第九王子の名前であった。
「貴方は私がカデフ殿下に可愛がられているから、私にちょっかいを掛けようとしているんですよね? 本当は私自身には興味がないのに」
 ウォーレンは慧のセックスフレンドという立場をシャディールに譲る代わりに、父親の経営する会社とデルアン王国の企業とのツテをシャディールから貰い受けていた。そのためウォーレンは慧には内緒で、何度か父親と一緒にデルアン王国を訪ねている。
 その折に、カデフとも顔見知りになったようだった。
「お前個人に興味があるに決まっているじゃないか。カデフとは関係ない」
 しらを切るウォーレンを、オルゲは軽く睨み上げた。
「噓を言わないでください。貴方の目がいつも誰を追っているのか、私は知っていますよ」
 そう言ってやると、ウォーレンが人の悪い笑みを浮かべる。どうやらオルゲの言葉など痛くも痒くもないようだ。余裕の笑みにさえ見えた。
「さすがはシャディールの従者をやるほどの少年、ということか。面白い」
「お褒めの言葉だと受け止めておきます」
「実際、褒めているよ」
 ウォーレンがオルゲの肩に手を置いた。そして、力を入れ、きつく摑む。
「っ……」
「お前の純潔を奪ったら、カデフは怒るだろうな。カデフはお前のことが大好きだからな」
 どこか底冷えのするような声に、オルゲの背筋が震えた。この男がどこまで本気なのか、本当にわかりづらい。
「シャディール殿下に訴えますよ」
「ほぉ……カデフではなく?」
「カデフ殿下に訴えたら、貴方を喜ばせるだけのような気がしますので、しません。シャディール殿下なら、貴方に経済的制裁を与えることもできます」
「はっ、当たりだ。お前、面白いな」
 ウォーレンの手がオルゲの肩から離れる。心の中でホッとした。
「申し訳ありませんが、貴方とカデフ殿下のことで私を巻き込まないでください。貴方のからかいのネタにされるのもご免です。では、失礼いたします。おやすみなさい」
 オルゲは踵を返すと足早に自室へと戻ったのだった。
 嵐が訪れる予感―――?



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