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龍の不動、Dr.の涅槃

樹生かなめ/著 奈良千春/イラスト 定価:本体630円(税別)

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STORY

龍の不動、Dr.の涅槃定価:本体630円(税別)

清和の裏切り!? 氷川の恋敵の登場!!? 眞鍋組、大パニック!!!

白百合とも称えられる美貌の内科医・氷川諒一(ひかわりょういち)は怒りに震えながら、聖地・高野山を目指していた。それもこれもすべては、恋人で眞鍋(まなべ)組組長の橘高清和(きったかせいわ)が氷川の信頼を裏切ったせいだった! 静かに修行生活に励むはずが、氷川を東京に連れ戻すべく追ってきた眞鍋組組員に、清和を誘惑する香港マフィアの美女まで現れて……!?

著者からみなさまへ

べつに触れることさえ避けるような罰当たりな物語ではないですよね……ではなく、いつも氷川と清和を応援してくださってありがとうございます。おかげさまで、氷川による眞鍋寺化が着々と進み……いえ、いったいどこに行くのでしょうか? 執筆している本人も深い霧に覆われた高野山を彷徨っているような心境と申すのでしょうか? 読者様の心は広いと信じています。とりあえず、読んでくださいませ。

初版限定特典

龍の不動、Dr.の涅槃

豪華SSイラストカード掲載
「激突、前哨戦」より

 どこが清らかな聖域だ。
 橘高清和にとって、高野山という日本屈指の聖域は悪鬼が跋扈する地獄となんら変わらない。
 本気で俺を坊主にさせる気だ、と清和は未だかつてない恐怖を覚えた。けれど……

……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

賽は投げられた
樹生かなめ

 眞鍋組の二代目姐がいる限り、想定外の騒動が勃発する。
 連発する、と言っても過言ではない。
 藤堂和真は改めてどこにどう飛んでいくかわからない眞鍋組の核弾頭に感心した。もっとも、顔には出さない。
 眞鍋組の二代目姐と朱斎を、究極の強行軍で高野山の福清厳浄明院に送り届けた。
 これで一安心。
 ……というわけにはいかない。
「カズ、誰にも顔を見せたらあかんで。俺のパンツでも被っとき」

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 藤堂にしても桐嶋の言いたいことはわかっている。
「元紀、お前の言う通りにしたら警察に連行される」
「罪作りなお前のことやからサツまで惑わすんやろな。あかんで。マジにあかんで。これ以上、真面目な奴の人生を狂わせたらあかん。お色気むんむんは姐さんの役目や。お前は三十オヤジらしくオヤジ臭を発散させるんやで。オヤジは嫌われてなんぼや」
 藤堂は図らずも高野山で騒動を起こしたばかりだからゆっくりしていられない。桐嶋がアクセルを踏み続ける車で、瞬く間に高野山を後にする。
 その間、桐嶋はずっと藤堂に文句を零していた。いつものことだから気にしない。藤堂は助手席で微笑んでいるだけ。
「カズ、俺になんか言うてみい。たまには慰めんか」
 桐嶋が言外に匂わせていることなど、藤堂には手に取るようにわかる。何せ、風光明媚な景色の中、和歌山ラーメンの旗が見えたからだ。
「和歌山ラーメンを食べたらどうだ?」
「そうや。俺の心は和歌山ラーメンでないと慰められへん」
 桐嶋の希望により、時代がかったラーメン屋に入った。店内は古くて汚いし、店主は頑固そうなオヤジだ。
 けれども、店の味は逸品だった。
「おっしゃ、ええ味や。これや、これ、和歌山ラーメンはこれやで」
 桐嶋は飛び込んだ店の和歌山ラーメンに満足し、替え玉で二杯目を食べている。
 藤堂の食は進まない。
 おかしい、と藤堂はずっと引っかかっていた。
 あの眞鍋の昇り龍が嫉妬に駆られて一般人の高校生にヒットマンを送り込んだのか。真実なのか。
 藤堂は俄には信じられなかった。
 たとえ、目の前で二代目姐に恋い焦がれた高校生がカマキリに刺されても。
 二代目姐を筆頭に清和の義母、眞鍋組の構成員たちなど、関係者はこぞって苛烈な昇り龍による依頼だと思っている。
『眞鍋の色男、あかん、いくらなんでもやりすぎや』
 桐嶋も依頼者は清和だと信じて疑わない。
 カマキリに本郷公義くんを狙わせたのは本当に眞鍋の二代目か、それとも他人か、他人ならばいったい誰が、公義くん本人が誰かの恨みを買っているとは思えない、父親か母親か、と藤堂は白百合の如き二代目姐に心を奪われた高校生の家族を思いだした。
 父親は著名な大学の教授だが、祖父と曾祖父は元外務大臣だ。
 曾祖父は関東軍の将校でシベリア抑留者だ、帰国後に改宗している、と藤堂は戦後の動乱期を生き抜いた公義の曾祖父に辿り着く。
 公義の曾祖父は終戦を旧満州国で迎え、ロシア軍に捕まり、シベリアで強制労働させられている。
 一概には言えないが、シベリアからの帰還兵にはひとつの噂がつきまとう。ソビエトのスパイだ、と。
 公義くんの曾祖父はスパイなのか、スパイだったのか、スパイだったのならば合点がいく、ロシアのウラジーミルにコンタクトを取るか、コンタクトを取らずにすむか、と藤堂はラーメン鉢の前で考え込んだ。できる限り、ウラジーミルを触発したくない。
「カズ、まだ何か隠しとうな?」
 いつの間にか、桐嶋は和歌山ラーメンを三杯、平らげていた。
「どうした?」
 藤堂は普段と変わらぬ表情を浮かべ、自分のラーメンを桐嶋に勧めた。
「何を隠しとんのや?」
 ズルズルズルズルッ、と桐嶋は豪快に和歌山ラーメンを食べる。
「べつに?」
「しらばっくれてもあかん。お前の隠し事は小さなことを大きくするんや。姐さんが言うとった通り、お前は大事件製造器や」
「そんな呼び名はちょうだいしていない」
「吐け。吐くんや。何を隠しとう?」
 ラーメン屋を出た後も、桐嶋の刺々しい詰問は続いた。
 周囲には何も見当たらないが、スマートフォンで調べれば、一番近い喫茶店までそんなに遠くない。
「元紀、コーヒーでも飲まないか」
 ラーメンの次はコーヒー、と藤堂は誤魔化そうとしたが、そんな場合ではなかった。
 青々とした草木に覆われた駐車場には、武器を隠し持った男たちが何人も潜んでいる。
 看板の後ろにひとり。
 廃車の陰にふたり。
「コーヒーなんか……っ……」
 シュッ。
 桐嶋の後頭部に小刀が飛んできた。
 刺さる。
 ……その寸前、桐嶋は察して身を避ける。藤堂が声を上げる必要はない。
「おうおう、どこのどいつや? 日本人ちゃうな?」
 桐嶋の前にヌンチャクを持った男が立ちはだかった。
 同時に壊れた塀の向こう側から、体格のいい男たちが何人も現れる。その手には青竜刀が握られていた。
 楊一族だ、と藤堂は桐嶋を囲んだ男たちの素性に気づいた。
「ボケ、こんな空気のええところで何をやらかすんや」
 桐嶋に取り押さえられた男は、楊一族の頭目の五男に仕えていた腕利きだ。記憶が正しければヘンリー。
 ざっと見回しても、五男のエドワードはいない。女装趣味があるという噂だが、それらしい女性も見当たらない。
 が、いる。
 必ず、エドワードことエリザベスはいるはずだ。この襲撃の責任者は、日本支部のトップであるエリザベスに違いない。
 藤堂には確信があった。
「エリザベス、元紀がヘンリーの腕を折る前に出てきたまえ」
 藤堂は楊一族の頭目の五男坊であるエドワードことエリザベスを呼んだ。
 すると、ラーメン屋の物置から華やかな美女が出てくる。
 ぶわっ、と辺りに大輪の牡丹が咲いたような雰囲気だ。
「さすが、藤堂和真、気づいているのね」
 この私があんなところに隠れたのに、と楊貴妃さながらの美女は不服そうに零した。
 どこからどう見ても男には見えないが、楊一族の頭目の五男坊だ。
 正確に言えば、元頭目の五男坊だ。
 楊一族の頭目は先日、モスクワのガス爆発事故で亡くなった。
 ……表向きは。
「日本、いえ、和歌山にようこそ」
 頭目が急死しなければ、今、ここにエリザベスはいなかっただろう。
「白々しいわね。全部、ウラジーミルが仕組んだ罠じゃないの? 最初からうちと手を組む気はなかったんでしょう?」
 ロシアン・マフィアのイジオットと香港マフィアの楊一族が共闘することになった。交渉場所はモスクワであり、楊一族の当主が交渉の場に乗り込んだ。イジオット側の罠だとも知らずに。
「俺にはなんのことかさっぱり」
 イジオット側の代表がウラジーミルだった。彼はイジオットの次期ボス最有力候補と目されている。ロマノフ王朝の傍系の血を受け継ぐことから、『皇太子』とも呼ばれていた。
「まぁ、いいわ。藤堂、あなたが誰を本当に愛しているのかわかったから」
 ふふふふふふっ、とエリザベスは勝ち誇ったようにほくそ笑む。その視線の先には楊一族と揉み合う桐嶋がいた。
 もちろん、藤堂は動じたりはしない。風か何かのようにサラリと流す。
「藤堂、取り引きしましょう」
 エリザベスに距離を詰められ、藤堂は涼やかな目を細めた。
「俺と取引ですか?」
「イジオットの皇太子殿下は初めて囲った愛人を手放さないわ。皇太子が生きている限り、藤堂は皇太子の愛人よ」
 エリザベスは一呼吸置いてから、トーンを落とした声で言った。
「藤堂は桐嶋を愛しているんでしょう。そのうち皇太子は桐嶋を殺すわ。藤堂は桐嶋が始末される前に手を打たないと駄目なんじゃない」
 エリザベスの取引条件に気づいたが、藤堂はあえてなんの反応も返さない。
「私は眞鍋と手を組む。藤堂は皇太子のそばにいて情報を流して」
 楊一族はウラジーミル並びにイジオットの内部に食い込みたいのだろう。その理由は藤堂にも手に取るようにわかる。
「それが取引ですか?」
 俺にスパイをさせる気か、と藤堂は心の中で自嘲気味に笑った。
「悪い話じゃないはずよ。藤堂は本当に愛している桐嶋とずっと一緒に暮らせるわ」
 藤堂の弱みを握った、とエリザベスの目は雄弁に語っていた。
 藤堂に弱みを握られた覚えはない。
「元紀がヘンリーを絞め殺す前に帰りたまえ」
 冗談ではなく、今にも桐嶋がヘンリーを黄泉国(よもつくに)に送りそうだ。
 ヘンリーが苦しそうな悲鳴を上げている。
 楊一族のメンバーが広東語や英語で捲し立てるが、桐嶋には一言も通じない。
「私は眞鍋と手を組むわ。桐嶋は眞鍋と仲良しよ。藤堂も私と仲良くしたほうがいいんじゃない?」
 エリザベスの目的は眞鍋組だ。交渉相手が眞鍋組の金看板を背負う昇り龍ではなく、二代目姐であることに藤堂は気づいた。
「帰りたまえ」
「今日は引き下がるけど、考えておいてね。ウラジーミルは桐嶋を殺したいはずよ」
 エリザベスに今さら言われるまでもなく、ウラジーミルの本心は察している。藤堂は悠然とエリザベスをあしらった。
 今は、エリザベスごときに戸惑っている場合ではない。
 どうするか、どう幕を引くか、眞鍋の核弾頭はどこにどう飛んでいくのか、と藤堂は必死になって頭を働かせる。
 もっとも、全精力を傾けても、眞鍋の核弾頭の行動は予測できなかった。

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