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薔薇の乙女は神に祝福される

花夜光/著
 梨とりこ/イラスト 定価:本体720円(税別)

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STORY

薔薇の乙女は神に祝福される定価:本体720円(税別)

惹かれ合う運命の《薔薇騎士》と《守護者》、彼女が求めた結末とは──!?

《薔薇騎士》である莉杏(りあん)は《不死者》を倒すため、奇跡を起こす聖杯のかけらを探し続けていた。残りはふたつ。ひとつは莉杏自身の中に。残るもうひとつを求め、莉杏たちはバチカンへ向かう。《不死者》になった遼(りょう)、莉杏を巡って仲違いしてしまった昴(すばる)とフレッド。不安が増すなか、莉杏は《守護者》を失う予知夢を見て!? 薔薇の乙女、最後の闘いの結末は──。

著者からみなさまへ

こんにちは花夜光(はなやひかり)です。「薔薇乙女」シリーズの最終巻が出ました。莉杏は聖杯を元に戻せるのか、ブルーノは無事なのか、莉杏が最後に選ぶ人は誰なのか、いろいろ盛り沢山なので、お楽しみに。梨(なし)とりこ先生の美しい絵が目印です。どうぞよろしくお願いします!

special story

書き下ろしSS

誕生日の贈り物
花夜光

 十八歳の誕生日は、莉杏(りあん)が今まで生きた中で一番楽しい日となった。
 父や母、アンリ、祖父という大切な家族に囲まれているだけでも幸せなのに、フレッドや昴(すばる)、ヒューゴまでお祝いに駆けつけてくれた。たくさんのプレゼントをもらい、お祝いの言葉をかけられ、莉杏は大げさな話かもしれないが生きていてよかったとしみじみ感じていた。
 新しく引っ越した家のキッチンには食材がたくさん運び込まれ、祖父の屋敷の料理長が皆のために腕を振るっている。マルタの名物だけでなく、日本食も作ってくれて、莉杏も母も大いに堪能した。祖父は自慢のワインを何本も持ち込んでいて、酒好きのヒューゴと意気投合している。誕生日パーティーは夜遅くまで続いた。

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 去年までは自分の誕生日を祝ってくれるのは遼(りょう)だけだった。今は自分の周りにこんなに大切な人がたくさんいる。遼と会えないのは残念だが、遼のことだ、きっとどこかで元気に暮らしていると信じたい。
「リアン、日本の高校に通い直すって本当? 君がいないマルタは味気ないよ。イタリアの学校に通えばいいのに」
 夜風を浴びようと庭に出た莉杏に、ヒューゴがワイングラスを掲げながら声をかけてきた。
「ヒューゴ。イタリアの学校なんて無理だよ。イタリア語はまだ少ししか分からないもの」
 莉杏が庭にあるベンチに腰掛けると、ヒューゴが隣に座って莉杏の肩に長い腕をかけてくる。
「何言ってる。イタリア語なんてチャオとボーノとティアーモだけで足りるだろ」
 ヒューゴは少し酔っているのか、いつも以上に陽気な口ぶりだ。
「ぜんぜん足りないし。イタリア男のそういうところ、ついていけないよ」
 莉杏が呆れて言い返すと、ヒューゴが肩を揺らして笑い出した。ヒューゴの笑いのツボも分からない。
 ヒューゴはひとしきり笑うと、ふっと真面目な顔つきになり、莉杏の目をじっと見つめた。ヒューゴからピンク色の空気があふれ出してきて、莉杏は慌ててヒューゴの口を手でふさいだ。
 危なかった。あやうくキスされるところだった。
「リアーン、今のはキスするタイミングだろ? そろそろ俺たち、キスくらいいいんじゃない?」
 ヒューゴは莉杏の手を捕まえて、ウインクする。
「意味分かんない。ヒューゴ、酔ってるでしょ」
 軽い気持ちでキスができるヒューゴにげんなりし、莉杏はため息をこぼした。すると微かに笑い声が聞こえる。
「おい、ヒューゴ。うちの妹に軽々しく手を出すと……」
 アンリがおかしそうに笑いながら近づいてくる。その背後にフレッドと昴がいる。二人は険悪な雰囲気でヒューゴを睨んでいる。
「後が怖いぞ。なぁ?」
 アンリはけしかけるようにフレッドと昴を見る。フレッドと昴はヒューゴの前に立ち、文句を言い始めた。アンリが莉杏を手招きする。莉杏は三人の喧嘩に巻き込まれないようにと、アンリの後を追った。
 アンリは家を離れ、夜の散歩を始めた。九月も終わりに近づき、暑さはだいぶ和らいでいる。今宵は満月で、夜空には満天の星がきらめいている。
「リアン、こっちへ」
 アンリは莉杏の手を握り、小高い丘に向かう道を行く。幼い頃、よくこうしてアンリと手を繫ぎ、歩いた。アンリと一緒ならどこまでも行ける気がした。莉杏にとってアンリは太陽だった。明るくて誰に対しても物おじせず、堂々としている。小さい頃、そう言うと、「じゃあリアンは月だね」とアンリは笑った。暗い夜道を照らす月になるといいと言ったのだ。
「どこまで行くの?」
 アンリが歩みを止めなかったので、莉杏は気になって問いかけた。莉杏たちが住むゴゾ島の治安は悪くないが、遠出をするような時間帯ではない。
「お前に会いたいって人がいるから」
 アンリは謎めいた微笑みを浮かべ、海が一望できる丘に上がっていった。
「あ……」
 莉杏は丘の上に人影を見つけ、思わず足を止めた。遠目でもすぐに誰だか分かった。さらさらの黒髪に端整な横顔、すらりとした身体つき──遼だった。
「アンリ……」
 莉杏は躊躇してアンリを振り返った。アンリは苦笑して莉杏の背中を押す。
「俺はリョウの友人なんだよ。それは昔も今も変わらないんだ」
 アンリにそう言われ、莉杏は戸惑いながらも遼に近づいた。遼と会うのは、あの日以来だ。ゆっくり近づいていく。遼は穏やかな瞳をしていた。殺伐とした雰囲気が消えたことに安堵して、莉杏は遼の前に立った。
「遼にぃ……元気そうでよかった」
 莉杏は遼をじっと見つめ、囁いた。遼は困ったように一度目を伏せると、思い切ったように莉杏を見つめ返した。
「今日は……莉杏の誕生日だね。おめでとう」
 手を伸ばせば遼に触れるくらいの距離になると、自然と身体がぎくしゃくしてしまう。
 遼とはいろいろあった。ずっと連絡をとっていなかったので、どこでどうしているかも知らないままだ。遼の母親が逮捕されたことは父から聞いていたが、遼が今どこで何をして、何を考えているのかとか、聞きたいことはたくさんある。
「ありがとう……」
 莉杏はあふれ出す思いを口にできず、それだけを呟いた。遼の瞳を覗き込めば、遼も言いたいけれど口に出せない思いがいっぱいあるのだと分かった。
「──家に来ればと誘ったんだけどね。敷居が高いらしい」
 莉杏と遼が無言で見つめ合っていると、助け船を出すようにアンリが言う。
「俺は顔を出せるような立場じゃない。でも、莉杏。君におめでとうと言いたかった。それから……ありがとうって」
 遼はアンリに目配せすると、吹っ切れたような笑みを見せた。
「遼にぃ……」
 莉杏は眩しげに遼を見上げた。遼は変わった。本来持っていた《薔薇騎士》としての自分を取り戻したようだ。
「莉杏のおかげで、俺は人生をやり直すことができたんだ」
 遼が手を差し出してくる。何度も繋いだその手を見つめ、莉杏は微笑んで自分の手を伸ばそうとした。
 すると、どこからか昴とフレッドの声がする。びっくりして振り返ると、二人がすごいスピードで丘を上ってくる。
「油断も隙もないな!」
「抜け駆け禁止!」
 昴とフレッドは大声を上げながらやってくる。その後ろにヒューゴがいるのも見えて、莉杏はつい噴き出してしまった。
「やれやれ。せっかく二人きりにさせてやろうと思ったけど、どうやら無理そうだ。リョウ、いい機会だから、あいつらと和解しろよ。《薔薇騎士》と《守護者》の関係なんだから、すぐに打ち解け合うさ」
 アンリは昴とフレッド達を眺め、肩をすくめて言う。莉杏もそうしてくれたら嬉しい。
 昴とフレッドはあっという間に莉杏たちに追いつくと、莉杏の腕を引っ張って遼から引き離す。
「莉杏は渡さないから」
 昴が遼の前に立ちふさがって宣言する。
「右に同じく! リアンが好きなのは俺だからね」
 フレッドも胸を張って言い、遼を見やる。
「いや俺だ」
「俺でしょ」
 昴とフレッドは莉杏の前で小競り合いをしている。
「そういう話はおいといて。リョウ! 一緒に飲もうぜ」
 ヒューゴがワイングラスを掲げた。ヒューゴのこういう空気を読まないところは、時々莉杏を助けてくれる。
「賛成。皆、仲良くしようよ!」
 莉杏は昴とフレッドの間に身体をねじ込み、明るく言った。遼は昴やフレッドときっと仲良くなれる。そうなってくれたら、どれだけ嬉しいことだろう。
「だって、今日は私の誕生日だから!」
 不満そうな昴とフレッドに、莉杏は畳みかけた。二人とも、その言葉で言いたいことをぐっと呑み込む。
 遼は少し申し訳なさそうな顔になっている。アンリとヒューゴは楽しげに笑い、昴とフレッドは仏頂面だ。莉杏はにっこり笑って遼の腕を引っ張った。
 父と母は遼を温かく迎え入れてくれるだろう。生きている自分たちには関係を修復することができる。過去の遺恨を捨て、未来を夢見ることができるはずだ。
「遼にぃ、あなたの話を聞かせて……」
 新しい関係を築くために、莉杏はそう声をかけた。
 月の光は莉杏を後押しするように輝いていた。

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