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アラビアン・プロポーズ ~獅子王の花嫁~

ゆりの菜櫻/著 兼守美行/イラスト 定価:本体660円(税別)

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STORY

アラビアン・プロポーズ ~獅子王の花嫁~ 定価:本体660円(税別)

宮殿のハレムで、蕩けるほど愛されて

イギリスの名門ヴィザール校に転入してきた絶世の美形王子シャディール。優等生で寮長の慧(けい)は、この傲慢な男に求愛され、取引から体の関係を持つことに。しかし、気位の高い慧とシャディールの恋の駆け引きは、卒業と同時に終わりを迎えた。六年後――。仕事でシャディールの国を訪れた慧は、突然、彼の宮殿に囚われてしまう。危険な色香を漂わせる彼に、もう逃がさない、と昼も夜も溺愛されて!?

著者からみなさまへ

パブリックスクール時代、恋愛や人生の本当の大変さも知らなかった二人が、やがて心身共に成長し、再び出会い、冷めなかった愛をどうしていくか。傲慢なアラブの王子様と思いきや、愛する慧を大切にし、ずっと守り続けてきた忠犬と化しております。あ、いえ、忠犬と言うには語弊がありすぎるかもしれません。忠犬の皮を被った下心満載のエロ猛獣? 溺愛アラブのセレブリティー・ラブストーリー、楽しんでいただけたら嬉しいです!

初版限定特典

『アラビアン・ウエディング ~灼鷹王の花嫁~』

初版限定 書き下ろしSS 「その頃のアラビアン・プロポーズ」より

幾千百夜の果てにお前に出会ったのは、瞬く星が示す運命以外の何物でもない―――。

 運命の出会いは、ヴィザール校へ転入する一年前になる。
 深夜に差し掛かろうという時間になっても、父王の誕生日パーティーは益々賑やかになり……。


……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『アラビアン・プロポーズ ~獅子王の花嫁~』番外編
「アラビアン・プロポーズ 廻る運命の輪」
ゆりの菜櫻


 窓の外にはそろそろ秋の気配を感じさせる空が、イギリスにしては珍しく青々と広がっていた。九月に入って、急に秋が忍び寄って来た気がする。
 ここ、ロンドン郊外にあるヴィザール校は、五百年の伝統を誇るイギリス屈指の全寮制男子校である。

続きを読む

 十三歳から十八歳の子息が千三百人ほど学んでおり、寮も十六ある。慧がいるエドワード寮はその一つであり、慧は今期から五学年生となり、栄えある寮長に任命されることになっていた。
「慧、うちの寮に転入生が来る」
 監督生が集うサロンで、慧が紅茶を飲んでいると、副寮長のクラウスが小声で伝えてきた。
「転入生?」
 思わず声を潜めてしまった。この学校で転入生は珍しい。
「ああ、しかも三学年生で、アラブの王子様で、正真正銘の王位継承権持ちだ」
「トリプルにまずいな……」
 慧は麗容な眉を顰めた。
 慧にはこの学校に入学した当初から野望があった。このヴィザール校の十六ある寮の寮長の中から決める真のトップ、総長、キングになることだ。
 キングになるには、その人物が寮長として優秀かどうかが重要とされる。寮内で苛めがないか、諍いが起きた時の対処は万全か等、上に立つ者として資質が問われるのだ。
 今が一番大切な時期なのに、ここで学校の風紀もわからない転入生が入寮し、自分勝手に振る舞われたら、慧の寮長としての評価が下がり、今までの努力が水の泡だ。
 三学年生ともなるとエゴも強くなり、紳士としての心得を習得させるのも難しくなってくるというのに、更に王子で王位継承権持ちときたら、鼻もちのならない下級生に違いない。扱いに困るし、トラブルの種になるのも目に見えていた。
 転入生に会う前から酷い頭痛がしてきた。
「今日の授業が終わった後に、校長が慧を呼んでいた。たぶん転入生の話だろう」
「だろうな……はぁ」
 大きな溜息が出た。しかしここまで来たのだ。絶対キングの座を諦めたくない。
「おーい、慧、お前に面会したいと、下にアラブ系の男が来ているが、知り合いか?」
 その声に、慧は隣にいたクラウスと顔を見合わせた。そして小さく頷くと、席を立った。
「今行く」


 慧とクラウスが寮のエントランスまで行くと、一人の青年が立っていた。アラブの民族衣装を着ている。
「君が、今年度から我が寮に転入してくる生徒か?」
「あ、はい。オルゲ・マッフィーヤ・ビン・サラディンと申します。寮長、慧様でいらっしゃいますか?」
「ああ、慧は私だ」
「私は従者でございます。主と共に入寮致します。主は今、そこの車で待っておられます」
 視線を彼の背後に停めてあった長さ五メートルはあろうかと思われるリムジンに遣る。
「殿下、慧様がいらっしゃいました」
 オルゲは声を掛けると同時に、リムジンのドアを開けた。
 きらりと金の光が舞い下りた気がした。
 っ―――。
 慧は彼の姿を見た瞬間、軽く息を呑んだ。
 車から降りてきたのは、金色の獅子。忘れもしない、一年前に出会った王子だった。
 彫りの深い顔立ちに鮮やかな金の髪に鋭い蒼の瞳。ミルクコーヒー色とでも言うのだろうか。アラブ特有の褐色の肌がエキゾチックで、男の色香さえ感じた。
 シャディール・ビン・サディアマーハ・ハディル。
 名前を聞かなくても、慧はこの男を知っていた。
 一年前、外交官である父について、デルアン王国の国王の六十八回目の誕生日パーティーへ行ったことがあった。彼とはそこでほんの僅か二人きりになったことがあったのだ。
 その彼が、皺一つない、いかにも上質な白い布でオーダーメイドされたであろう民族衣装を颯爽と身につけ、慧の前に現れた。
「き、君は……」
「その様子だと、私のことを覚えているようだな」
 彼が口端を上げ、笑みを浮かべる。圧倒的なオーラを纏い、慧を今にも呑み込もうとせんばかりの獰猛な力を感じるが、慧はしっかりと生意気な下級生と対峙した。この寮の寮長として、そして上級生として、彼に絶対屈してはならない。
「ああ、一年前に君とすれ違ったことは覚えている」
「久しぶり……とでも言うのだろうかな、寮長、慧。相変わらずの美人だな」
「言葉遣いに気を付けろ」
「ほぉ……私にそんな口を利く人間がいるとは……。なかなか面白いな」
「この学校では身分による特別扱いはない。よって、君もここではただの三学年生だ」
 毅然とした態度で言い放つと、彼がその蒼い瞳を僅かに見開いた。そしてすぐにじわりじわりと目を細める。まるで猛禽類に狙われた獲物のような気分になった。
「気位が高いのも好みだ。征服欲をそそられる。堪らないな、慧、お前は……」
 そう言って、シャディールが慧の手首を摑んだかと思うと、その手の甲に唇を寄せた。
「っ……」
「慧、私はお前のファグになるために、この学校に転入してきた」
「な……ファグだって?」
 ファグとは、マスターである監督生が、新入生に掃除などの雑用をさせる代わりに、その学園生活が潤滑に回っていくように指導し、援助していく制度のことだ。
 ファグ? この王子が?
 慧が見つめていると、目の前でシャディールが魅惑的な笑みを零した。
「慧、私がお前のファグになってやる」
「あっ……」
 腰に手を回され、ぐいっと引き寄せられる。何の抵抗もできずにシャディールの胸へと閉じ込められる。
「お前の生活のすべてを私が支えてやる。お前に尽くそう―――慧」
 そのまま顎に指を添えられ、上を向かされる。そして唇を奪われそうになった。
「生意気だぞ、下級生」
「んんっ……」
 シャディールの顎が慧の手に押しやられ、その唇は慧の唇に到達することがなかった。
「クラウス、この不届き者を押さえろ」
「あ、ああ……」
 クラウスがすぐに動いて、シャディールを羽交い絞めにした。それに声を上げたのは従者のオルゲだ。
「無礼な! 殿下に何をなさるのですかっ!」
「どちらが無礼だ。上級生に対する態度ではないぞ。常識のない者は我がエドワード寮に入れることはできないからな」
「殿下に何という口の利き方をされるのですか! 不敬罪で訴えます!」
「よい、オルゲ。下がれ」
「ですが……殿下……」
「問題ない。この学校にはこの学校の決まりがある。上級生の言うことは聞かねばなるまい? そうだろう? 慧」
「君が理解ある人間であることに感謝する。クラウス、放してやれ」
 慧の言葉に、クラウスがシャディールから離れる。
「入寮日は三日後だ。常識ある行動をする限り、我々エドワード寮は君たちを歓迎する。では、また三日後に」
 慧はそれだけ伝えると、踵を返した。内心はうんざりしていた。あの男を矯正する自信がまったくない。
 キングの座も風前の灯火か……。
 慧は秋の気配を感じさせる高い空を見上げた。

 だがその一ヵ月後、慧の予想に反して、慧はシャディールをファグにし、キングの座を得ることになる。
 そしてこれから六年に及ぶ、恋の駆け引きが始まるのだった―――。

END

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