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ハーバードで恋をしよう

小塚佳哉/著 沖 麻実也/イラスト 定価:本体690円(税別)

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STORY

ハーバードで恋をしよう定価:本体690円(税別)

ハーバード・ビジネススクールを舞台に金髪碧眼のイギリス貴族とやんちゃな日本人留学生の恋♡

憧れの先輩を追い、ハーバード・ビジネススクールに留学した仁志起(にしき)。初日からトラブルに巻き込まれ、気がついたのは金髪碧眼の美青年・ジェイクの腕の中で!? 更に翌日集合したスタディ・グループには世界中でもっとも有名なアラブの皇太子に、ドイツ屈指の御曹司と、錚々たる面子がおり、イギリス貴族の嫡子だというジェイクもいて……! スーパーエリート達に囲まれ、仁志起のめくるめく日々が始まった──!

著者からみなさまへ

はじめまして、小塚佳哉(こづかかや)です。今回のお話は、昔なつかしの学園物です!
ただし、学園物といっても主人公は二十代半ば、場所はアメリカのボストン、しかも大学院なんですが!
そんな変則的な設定でも古き良き時代の学園物の醍醐味、友情やロマンス(?)あふれるキャンパス・ライフを、体当たり上等のヤンチャ主人公とともに、お楽しみください!

初版限定特典

ハーバードで恋をしよう

初版限定書き下ろしSS
「Kissing Ball――ヤドリギの下で」より

「おー、絶景だなー!」
 丘の上に建つ教会にたどりつき、仁志起は周囲を見回しながら口笛を吹く。
 眼下には、ゆるやかに流れる川の向こうにうっすらと雪を被った赤茶色の巨大な城塞が見える。それがノーザンバー公爵家の居城、ノーザンバー・カースルだ。

……続きは初版限定特典で☆


人物紹介

佐藤仁志起

佐藤仁志起(さとう にしき)

自他共に認める童顔な日本人。憧れの先輩を追ってハーバード・ビジネススクールに留学するが、入寮初日からトラブル続きのあげく、目が覚めたらジェイクのベッドの中で……!?
ジェイク・ウォード

ジェイク・ウォード

イギリス貴族の留学生。大学の寮で、仁志起の隣室になる。生真面目でややお堅い性格だが、純粋で真っ直ぐな性格の仁志起を好ましく思う。

special story

書き下ろしSS

『ハーバードで恋をしよう』番外編
「Thanksgiving Day」
小塚佳哉

「ねえ、みんな、感謝祭の予定は?」
 学食のラウンジで、毎朝の恒例であるスタディ・グループでの予習が終わると、リンダがなにげない口調で訊ねた。
 感謝祭──サンクス・ギビングとは、アメリカの祝日だ。
 いろいろ由来はあるそうだが、現在では宗教的な意味合いは薄れて、単に家族が集まって、ターキーを始めとした、ごちそうを食べる恒例行事だという。他にも日本の年末年始やお盆のように帰省ラッシュが起こり、あっちこっちで大規模なバーゲンセールがあるとも聞いているが、HBSに留学して以来、毎日の勉強に追われまくっている貧乏学生の仁志起には何も予定はない。というか、あるはずがない。
 そう答えようとした時、ヤスミンが真っ先に口を開いた。
「わたしは家族と過ごすわ」

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「それじゃ、シアトルに戻るの?」
「ええ。四連休だから、ボストンを離れて羽を伸ばしてくる」
 ここでは勉強漬けだし、と天を仰ぐヤスミンに、リンダも苦笑気味に頷いた。
 ソファの上にも広げていた予習のための資料を片付けながら、ふと仁志起は気づいた。
 彼女たちは米国籍のアメリカ人なのだ。ヤスミンはシアトルで生まれ育った中国系だし、リンダもアフリカ系アメリカ人とヒスパニックの移民だった両親を持ち、まったく違うルーツを持っているが。
 ほとんど単一民族国家である島国の日本に生まれ育った仁志起には、なんとなく不思議な感じがする。ただ、最近では日本でも外国人が増えたし、これからは変わってくるんだろうな、と思いながらコーラを飲み干すと、リンダと視線が合った。
「ニシキはどうするの?」
「なんにもしないよ。寮にいる。日本では感謝祭のお祝いはしないんだ。ターキーも昨日、セクション・ディナーで食べたし」
 そうなのだ。昨日は同じセクションの学生が親睦をはかるセクション・ディナーがあり、感謝祭が近いせいか、メインはターキーだったのだ。特にうまいとは思わなかったが、食べ飽きたハンバーガーやホットドッグよりはマシだから文句をつける気はない。
 すると、隣にいたジェイクとフランツも頷いた。
「僕も同じだな」
「え? イギリスでは感謝祭のお祝いはしないの?」
「しないね、アメリカのようには」
「ドイツでもしないよ。だから僕も寮だ」
 英国貴族であるジェイク、ドイツ人の御曹司フランツも肩をすくめながら答える。
 欧米とひとまとめに言ってしまうが、それぞれに違うようだ。
 そう思いながら、仁志起の目は自然と残ったスタディ・グループのメンバー、シェイク・アーリィに向いた。彼は中東の産油国、アルスーリアの皇太子だ。母親はフランス人だし、イスラム教徒ではないと聞いているが、感謝祭はどうするんだろう、と好奇心が沸いてくる。
 けれど最初に質問したリンダは、もう充分とばかりに、そっけなく言った。
「だったら、あなたたち、うちに来る? これも文化交流だと思うから、アメリカのごく普通の家庭でのサンクスギビング・ディナーにお招きするわ」
「え? マジで? リンダんちにお招き?」
 思わず、仁志起はオウム返しに問い返してしまった。
 リンダは、ほとんどの一年生が暮らすキャンパス内の学生寮ではなく、チャールズ川の向こう側に住んでいることしか知らない。二十代が多い学生の中で、三十代に入ったリンダは少し年上ということもあって、あまりプライベートなことを話さないからだ。
 見れば、ジェイクとフランツも戸惑っている。
 だが、当の本人はあっけらかんと笑った。
「遠慮しなくていいわよ。わたしの親族はコネチカット州で、車で帰ると往復で三時間以上かかるから、ボストンにいる間はダーリンと子供たちだけで過ごすつもりなの」
「へ? リンダって結婚してたんだ?」
「そうよ、まさか気づいてなかったの?」
 目を丸くする仁志起に向かって、リンダはウインクをしながら左手の薬指にある指輪を見せる。おお、そうだ、これは結婚指輪だ。だが、教えられるまで、まったく目に入っていなかった仁志起は驚くばかりだ。
 弁護士の彼女は、ロースクールに入ってから、さらにビジネススクールにも入ったという才女だ。それだけでも大変なのに、結婚もして子供まで産んでいるとは、本当にパワフルだ。
 仁志起は勢いよく振り返って、ジェイクとフランツに訊ねる。
「もしかして、みんな、知ってた? 気づいてなかったの、オレだけ?」
「まあ、結婚しているとは思っていたけど、子供がいるのは知らなかったな」
「そうだな、僕も」
「わたしは会ったことあるわよ。リンダによく似た男の子が二人、それからちっちゃい女の子がいるの! 可愛いわよ」
 顔を見合わせるジェイクとフランツの横から、にこやかに口を挟んできたのはヤスミンだ。三人も子供がいるママだったなんて、と声を失う仁志起を、リンダはほがらかに笑い飛ばす。
「そんなわけで、食べ盛りのボーイズが二、三人増えても平気よ。よかったら、うちにいらっしゃい」
 ボーイズ扱いには抵抗があるが、これは嬉しいお誘いだ。仁志起が喜んでご招待に預かろうと思っていると、さっきから黙り込んでいたシェイク・アーリィが、意味ありげな苦笑を浮かべながら言った。
「リンダ、質問してもいいだろうか?」
「ええ、殿下?」
「この状況で、わたしにだけ予定を訊ねないのは、外交儀礼に反しないだろうか?」
「あら、アルスーリアとアメリカの外交問題に発展するかしら?」
「やぶさかではないね」
 にこやかだが、どことなく慇懃無礼に交わされる思わせぶりな会話に黙っていられず、仁志起は横から口を挟んだ。
「なんだよ、殿下、はっきり言えよ……仲間外れにされてつまんない、自分も誘えって」
 すると大真面目に言ったのだが、仁志起以外は全員、笑い出した。
 キョトンとした仁志起は、あわてて問いかける。
「どうして、みんな笑ってるんだよ? オレ、なんか間違った?」
「……い、いや、正論だ」
 ジェイクは必死に笑いを引っ込めようとしながら答えてくれたが、他のみんなは、いまだに笑っている。シェイク・アーリィに至っては、くの字に身体を曲げながら美貌を台無しにして爆笑している。笑いすぎだよ、この王子、と心の中で突っ込んでいると、リンダからは力一杯にハグされた。ただ、抱きしめられるというよりも、ぎゅうぎゅうと絞め技をかけられている気分だ。しかも、リンダは笑いながら言う。
「ああ、もう! ニシキったら最高ね!」
「……ありがとう。なんか、褒められてる気がしないんだけど」
「やだわ、ちゃんと褒めてるじゃないの! それに、わたしは殿下を仲間外れになんてしてないわよ。誘わないのは先約があると思ったからよ」
 言われてみれば、その通りだ。シェイク・アーリィは世界でもっとも有名なアラブの王族だし、プリンス・パーフェクトと呼ばれるほどのモテモテぶりだ。感謝祭のディナーのお誘いだって山のようにあるだろう。
 仁志起が納得すると、シェイク・アーリィもようやく笑いの発作が収まったのか、声をかけてきた。
「いや、確かにいくつか招待はされているけど……でも、だからといって、リンダの招待リストから外されるのは残念だ」
「あら、そう? 断る手間を省いてあげたのに」
「断らせてもくれないのか、リンダは本当に冷たいな」
 妙に芝居がかった口調で答えるシェイク・アーリィは、どうにもわかりにくいが、言葉遊びをして楽しんでいるらしい。ジェイクやフランツもおもしろがっているのか、ニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべながら見守っている。ヤスミンの目も、まるでいたずらを思いついた猫のようにキラキラしていた。
 絞め技もとい、ハグされたままの仁志起も成り行きを見守ってしまう。
 すると、ぬいぐるみや抱き枕のごとく抱えていた仁志起を放り出し、リンダはこれ見よがしに大きな溜息を漏らしてから言った。
「しょうがないわね、だったら殿下もいらっしゃる?」
「喜んで」
 にっこりと微笑んだ美貌が嬉しそうに答えると、リンダがキッと目を吊り上げた。
「やだ、ホントに来る気? 断るんじゃなかったの?」
「……リ、リンダ、誘っておいて、その言いぐさはないよ!」
 さすがに仁志起が突っ込むと、リンダは鬼の形相で言い返してくる。
「だって、断らせてもくれないって文句を言ってたのよ、この世界の恋人は!」
 ゴシップ専門のニュースメディアにつけられた枕詞で呼ばれても、シェイク・アーリィは楽しそうに微笑むばかりだ。仁志起には、してやったり、という表情に見える。しかも、誰もがそう思ったらしい。ヤスミンとフランツ、ジェイクは互いに小銭をやりとりしながら口を出してきた。
「殿下は世界の恋人だから断らないのよ、きっと!」
「というか、ニシキが最初に正解を言ったじゃないか」
「……そうか、仲間外れが嫌だったのか」
「アンタたちってば! 何を賭けてるのよ! つーか、誰が勝ったのよ!」
「殿下がリンダの家に行くって、わたしとジェイクが賭けて、行かないに賭けたフランツが負けたわ。いいなあ、楽しそう……わたしもシアトルに帰るのはやめて、リンダの家に行こうかしら」
「もう入らないわよ! うちのダイニングのテーブルは八人がけなんだから!」
「……すでに足りてないよ?」
 数字に強い仁志起は、間髪入れずに突っ込んだ。
 リンダに、リンダのご主人に子供が三人、自分とジェイク、フランツ、シェイク・アーリィでは九人なので、テーブルからはみ出している。
 すると、パシッと仁志起の頭を平手で叩き、リンダが豪快に言い放つ。
「ニシキにはベビー用チェアをスタンバイするから安心して」
「マジかよ!」
「ジェイクの膝の上でもいいんじゃない?」
「喜んで」
 仁志起が言い返した途端、ヤスミンが混ぜっ返すと、ジェイクがにこやかに答えた。
 それが、さっきのシェイク・アーリィの返事とまったく同じクイーンズ・イングリッシュな発音で、みんなが噴き出した。ジェイクから茶目っ気たっぷりのウインクを投げられ、仁志起も笑うしかなかったのだった。

 そんなわけで、感謝祭の当日。
 シェイク・アーリィが来ることになったせいで、前日からシークレット・サービスが下見に来るし、外にも強面の男がウロウロしてるし、うっとおしくてしょうがないわ、と遠慮なく文句をつけるリンダの家に行き、サンクスギビングのごちそうを食べた。ヤスミンは結局、スカイプでシアトルから乱入した。初めて会ったリンダのパートナーは笑顔が優しいアート・ディレクターで、リンダそっくりの二人の息子はワンパク坊主だし、末っ子のお嬢さんはベビー用チェアに収まってご機嫌だった。つまり、ダイニングの椅子は足りていたが、何かというとみんなが仁志起に向かって、椅子が足りない、とからかう。
 最後はいっそのこと、本当にジェイクの膝に乗ってやるか、と思った仁志起だったが、それを含めても楽しい感謝祭になったのだった。

Thanksgiving Day / THE HAPPY END

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