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恋する救命救急医 永遠にラヴィン・ユー

春原いずみ/著 緒田涼歌/イラスト定価:本体690円(税別)

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STORY

恋する救命救急医 永遠にラヴィン・ユー定価:本体690円(税別)

もう二度と……おまえを失いたくない

救命救急医・篠川(ささがわ)と、高級レストランのオーナー・賀来(かく)は恋人兼同居人。お互いの仕事には口を出さない主義だが、賀来が新規店舗の準備で多忙になり、すれ違いが続いていた。しかし、久しぶりに自宅で夕食を共にした夜、賀来が倒れてしまう。動揺しつつ救急車を呼ぶ篠川だが、搬送先は自身が勤務する病院だった。同居人のことを『相方』としか告げていなかった篠川は、ふたりの関係を隠しきれないと覚悟するが……。

著者からみなさまへ

こんにちは、春原(すのはら)いずみです。「恋する救命救急医」シリーズも5作目、賀来×篠川編は3作目と相成りました。今回はカバーイラストの通り、隠れた人気キャラ(笑)、賀来の愛犬のコーギー、スリとイヴが大活躍です! いや、そうでなくて(笑)。今回は賀来さんが過労で倒れてしまい、なんと入院。初めて、賀来さんは篠川先生のお仕事の一端を垣間見ることに……。長いおつきあいの二人ですが、意外と賀来さんは篠川先生の医者としての顔を見ていません。さぁ、どうなることでしょう。気になる脇キャラも登場したりして、見逃せない1冊となりました。どうぞ、ごゆっくりとお楽しみください!

初版限定特典

恋する救命救急医 永遠にラヴィン・ユー

初版限定書き下ろしSS
「レッツ パーティ! 賀来×篠川編」より

「うちに遊びに来たい?」
 傷病者を乗せずにセンターに帰るヘリの中、篠川臣はくるりと振り返った。
「何で?」
「わんちゃんがいるっておっしゃってたでしょう?」

……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『恋する救命救急医 永遠にラヴィン・ユー』番外編
「レッツ パーティ! 藤枝×晶編」
春原いずみ

 『le cocon』のランチタイムはのんびりしている。限定十食が出てしまうと、あとはサラダとパンの軽食だけになるからだ。
「パーティ?」
 カウンターの隅に座り、その限定のランチを食べながら、宮津晶はきょとんと目を見開いた。
「篠川先生のお家で?」
「そう。神城先生と筧さんも来るそうだよ」
 ラテをいれながら、マスターの藤枝脩一はおっとりと言った。

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「神城先生と筧くん?」
 ふわふわのミルクがおいしそうなラテを受け取って、宮津は首を傾げる。
「何で、神城先生と筧くんが、篠川先生のお家に行くんだろ」
「何でも、筧さんが犬を見たいと言ったとかで。オーナーの飼っている犬が二匹いるからね」
「ああ……コーギーがいるって言ってたね」
 ウェルシュコーギー・ペンブロークは胴が長く、足が短い。しっぽを子犬の頃に断尾しているのが普通だが、賀来の飼い犬は断尾していない。ちょこんとした小さなしっぽが可愛らしい。小さなしっぽは生まれつきとのことで、それを振りながら歩くのが、とても可愛く、賀来は溺愛している。
「筧くんも犬飼ってるのかな」
「実家に柴犬が三匹いると言ってたね。犬好きらしいよ」
「そっか。それで篠川先生のところの犬を見たいのか……。でも、よく篠川先生がOK出したね。先生、プライベートを公開するの嫌がるのに……」
 今日のデザートはタルト・フロマージュ。おなじみのベイクドチーズケーキである。レモンの香りが爽やかだ。
「開き直ったんじゃないのかな」
 藤枝がくすりと笑った。
「ほら、オーナーの入院騒ぎで同居が職場にもバレただろう? さすがに完全オープンはないにしても、学生時代からの知り合いの神城さんと彼が信頼している筧さんならいいと思ったんじゃないのかな。今回のことで、いろいろと面倒もかけてしまったようだし」
「……そんなもんかなぁ」
 晶の口元についたラテの泡を軽く指先でぬぐってやって、藤枝は言った。
「そんなもんだよ。もともとオーナーはオープンなタイプの人だからね。あのご自宅だって、スタッフはかなりのものがお訪ねしているよ」
「あ、そうなんだ」
 ケーキの底と縁のカリカリがおいしい。きれいなきつね色に焼けている。
「でも、さすがに神城先生と筧さんだけを特別扱いするわけにもいかないから、その中和役として、僕と晶が選ばれたってわけ」
「中和役……」
 賀来のスタッフである藤枝をパーティの手伝いとして呼ぶのもおかしくないし、篠川が可愛がっている宮津を、篠川サイドのお客として呼ぶのもおかしくない。センターの新入りである神城と筧を自宅に呼ぶ不自然さをカバーするには、もってこいのキャストというわけだ。これなら、センターのスタッフにパーティがバレても、それほどうるさいことにはならないだろう。
「まぁ……あの神城先生と筧さんだから、つるっと口を滑らせるようなことはないと思うけどね」
「神城先生はわからないよ」
 晶が少し困った顔をして言った。
「あの人、確信犯的にそういうことやるから。まぁ、やっていいことと悪いことの区別はついてると思うけど」
 カランとベルが鳴って、新しいお客さんが入ってきた。
「マスター、ランチありますか?」
「サラダランチになりますよ」
 若い女性の二人連れに、藤枝が穏やかに言った。常連らしい。
「それでいいです。二つ下さい」
 晶とは逆サイドに座って、彼女たちはおしゃべりを始めた。手際よくサラダを盛りつけ、パンをあたためる藤枝の手元を見ながら、晶はゆっくりとおいしいケーキを嚙みしめる。
「……脩一さんが行くなら……俺も行くよ」
 小さな声で、晶は言った。
「脩一さんの行くところなら……俺、どこでも行くよ」

 ドアが開くと、早速犬たちが顔を出した。耳の大きい、にっこりと笑っているような可愛い顔立ちの犬たちだ。
「いらっしゃい」
 賀来が迎えてくれた。晶は初めて見る賀来のエプロン姿だ。
「早かったね。神城先輩と筧くんはまだだよ」
「おや、早すぎましたか」
 デザートを入れた紙袋を手にした藤枝が微笑んだ。晶は花束を抱えている。手土産に何を持って行ったものか悩んだが、無難なところで花にした。花屋のお任せにしたら、ピンクを基調にした可愛らしい花束になった。晶には似合うが、賀来と篠川というある意味ゴージャスな二人には、少し可愛すぎるか。
「ありがとう、宮津先生。きれいな花だね」
 賀来に間近でにっこり微笑まれると、なかなか迫力がある。近くで見ても、どこにも瑕疵が見当たらない見事な美貌である。
「あ、あの……お招きありがとうございます」
「さっさと入っておいでよ」
 篠川が顔を出した。
「スリ、イヴ、お客さんをご案内して」
 篠川に命じられて、忠実な犬たちは後ろを振り返りながら、先に立って歩き出した。ふりふりと揺れる小さなしっぽが可愛い。思わず微笑みを誘われる愛らしい姿だ。
「スリとイヴっていうんですか……」
「ピンクのリボンがスリジェール、ブルーのリボンがイヴェール。どっちも女の子だよ」
 首に花結びのリボンをつけておしゃれをした犬たちは、お客をダイニングに案内した。
「可愛いですね……」
 ふかふかの犬たちは、くりっとした瞳で晶と藤枝を見上げている。
「そりゃね。昨日トリミングに行って、おめかしもしたし」
 篠川がイヴの背中を撫でる。
「いらっしゃい、宮津先生。お花を抱えた君も可愛いよ」
「さ、篠川先生……っ」
「可愛いでしょう。このまま、ここに連れてこないで、『le cocon』の二階に拉致したいくらいでした」
「し、脩一さん……っ」
 藤枝がこういう色めいたジョークを言うのはめずらしい。それだけリラックスしているのだろう。賀来と篠川が暮らすマンションは、二軒をぶち抜いていると聞いたが、確かに広い。このダイニングを兼ねたキッチンだけで、晶のマンションがすっぽり入りそうだ。シンプルなモノトーンで統一されていて、おしゃれだが落ち着く空間である。
「じき、神城先生と筧くんも来ると思うよ。宮津先生、悪いけど、バスルームの方に花瓶あるから、お花生けて。イヴ、ご案内して」
 よく躾けられている賢い犬に導かれて、バスルームに行くと、棚に花瓶が幾つか並んでいた。手頃なものに水を入れ、花を生ける。
「君のご主人は……ゴージャスなところに住んでいるねぇ……」
 イヴはくりっとした目で見上げてくるだけだ。
「さて、行こうか」
 花を抱えてダイニングに戻ると、ちょうどオーブンから、賀来が大きな白い塊を取り出すところだった。
「うわぁ……」
「鶏の塩釜作りだよ」
 鶏をまるまる一羽、詰め物をして、卵白を混ぜた塩で覆い、蒸し焼きにしたものだ。
 と、インターホンが鳴った。
「はぁい」
 篠川が出ると、よく響く低い声が聞こえた。
『俺だ。来たぞ』
「どうぞ。上がってきて」
 鶏の塩釜作りをテーブルに置いて、賀来が微笑む。とびきりの華やかな笑みで。
「レッツパーティ!」
 


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