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  • 中華風ファンタジー

とりかえ花嫁の冥婚 偽りの公主

貴嶋 啓/著 すがはら竜/イラスト定価:本体690円(税別)

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STORY

とりかえ花嫁の冥婚 偽りの公主定価:本体690円(税別)

皇帝の姫君と間違われ、皇太子を兄と呼ぶことになった黎禾の運命は

しっかり者の汪黎禾(おうれいか)は商家の娘。弟が作った二千両の借金を返すため、悪名高い藩王・成州王の息子のもとへ嫁ぐことになった。が、花婿はすでに故人。この縁組はいわゆる死者との結婚―「冥婚」だった。覚悟の上で輿入れを決めた黎禾だったが、花嫁道中で意に反して小間使いの橙莉(とうり)と入れ替わったり、人買いに攫われた末に皇太子・隆翔(りゅうしょう)に助けられたりするうち、永く行方不明だった帝国の姫君と間違われてしまい!?

著者からみなさまへ

久しぶりの新刊になります! 初の中華ものを書かせていただきました。「運命をとりかえる」をテーマにしたダブルヒロインの連作となっておりまして、今回はその一作目となります。男が信じられずに自立して茶葉商を営む黎禾と、女性に囲まれながら同じく女が信じられないという皇太子の隆翔。黎禾が公主に間違えられ兄妹という関係にならなければ、互いに恋愛に発展するはずもなかったふたりの、不器用な恋模様を楽しんでいただければ幸いです!


Interview

『とりかえ花嫁の冥婚 偽りの公主』&
『とりかえ花嫁の冥婚 身代わりの伴侶』2か月連続刊行記念
貴嶋 啓先生 スペシャルインタビュー!


お久しぶりの登場ということで、まずは近況&ご挨拶をお願いします。
貴嶋 啓(以下貴嶋)ご無沙汰しております、貴嶋 啓です。前作から1年以上の月日が経ってしまいましたが、この度ようやく新作をお届けすることができました。今回は2作分まとめて書いていただけでなく、1作まるまる書き直したり、体調不良が続いたり(たいしたことのないはずの風邪で3週間寝込むとか)などが重なり、どんどん刊行が遅れてしまいまして……(汗)。ただ時間をかけたぶん、自分のこだわりを妥協しないで書けた作品になったのではないかと思います!

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貴嶋先生の最近の日常は、どんな感じですか?
貴嶋 なんの変哲もない平凡な日々を送っています(笑)。ただ2連作ということで長期間引きこもって原稿に向かっていた反動か、最近は毎月のように温泉通いしてしまっています!

今回の2冊の新刊(7月に1作目、8月に2作目)「とりかえ花嫁の冥婚」は、どういったいきさつや、発想で作られたのでしょうか。作品に込めた思いや、この本を書くきっかけなどを教えてください。
貴嶋 もともと清朝初期の歴史が好きで、北の一部族国家にすぎなかった後金(後の清)が、各部族を統合し中原にまで国土を広げていく過程を非常にドラマチックだと思っていました。とくに順治(じゅんち)・康熙(こうき)帝あたりの時代が好きなので、そのころを参考にしてなにかお話が書けないかなと。それに加えて、伝統的な中国の結婚では花嫁が紅蓋頭という頭巾を被る習慣があるので、人が入れ替わってもまわりは誰もわからないなと考えたのも、ストーリーを思いついたきっかけのひとつです。
顔を隠すのが通常運転のアラビアンでお話をつくってもよかったのですが、長年中華を書きたいという希望があったのと、またただ花嫁が入れ替わるだけでなく、死者と結婚する「冥婚」という独特の風習を絡ませるのも面白いのではないかと思って執筆しました。

ずばり、本作のおすすめポイントは?
貴嶋 本作は、それぞれ男性不信と女性不信というヒロイン・ヒーローが、“兄妹”として信頼しあうなかで気づかないうちに恋愛感情を抱いてしまい、真相が暴露されたとたん一気にそれを自覚させられるというお話になっています。突然目の前に突きつけられた恋心に右往左往し、それを簡単に受け入れられないヒロインとヒーローのせつないすれ違いに、胸キュンしていただければ幸いです!

これは読者の皆さんにお伝えしたい! という制作上の秘密エピソードはありますか。
貴嶋 1作目の「偽りの公主」のあとがきにも書かせていただきましたが、実は今作、清朝をイメージして書いたために、私の脳内における男キャラはみな辮髪(べんぱつ)をしていました! ですが、さすがにこのジャンルでそれは許されないだろうと……(笑)。そこで、すがはら先生に自由に描いていただきたい旨をお伝えさせていただいたところ、私の貧困な想像力では思いもつかない美麗な絵を描いていただいて、本当に感謝です! 2冊でひとつの絵になる表紙もとてもきれいで、手元に2冊そろうのが今からとても楽しみです。

8月刊行の2作目『とりかえ花嫁の冥婚 身代わりの伴侶』についても、いろいろ教えてください。
貴嶋 実はこの「とりかえ花嫁の冥婚」2連作を執筆するにあたって、最初にイメージが出来あがったキャラクターは、2作目のヒーローである玄磊(げんらい)になります。彼にはモデルがいまして、それが清朝初期に三藩の乱を主導した呉三桂(ごさんけい)の息子・呉応熊(ごおうゆう)という人になります。康熙帝の妹・建寧(けんねい)公主の額駙(がくふ)(清朝における公主の婿・駙馬のこと)として清朝の人質とされ、史実では乱の勃発後に処刑されてしまうという不憫な人です。

この連作は「もとのままだったら悲惨な結果を迎えたはずが、ヒロインふたりが運命をとりかえたことで大団円となる」というのを目指して書かせていただきました。そしてそう考えたきっかけのひとつは、この呉応熊を「ハッピーエンドにしてやりたい!」という気持ちからでした(笑)。タイトルにもある「冥婚」の秘密や、「身代わり」の意味など、このシリーズの根幹にかかわるお話になりますので、どちらもぜひよろしくお願いいたします!

ありがとうございました!

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special story

書き下ろしSS

『とりかえ花嫁の冥婚 偽りの公主』番外編
「はじまりは都合のよい勘違い」
貴嶋 啓

  渓谷を抜けたところで休息を取ることにした隆翔は、彼の胸に頰を寄せて眠る“妹”の顔を、飽きることなく眺めていた。
 娼館に連れていかれる途上だった彼女を救いだしたのは、つい一刻ほど前のことだ。人買いの男たちと、彼らに囚われていた他の娘たちを州総督のもとへ送り届けるのは配下の者たちに任せ、彼自身は少数の供とともに皇城への帰路を急いでいた。
 隆翔の妹で、稜帝国の公主――。

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 その存在については以前から知っていたものの、これまで生きているかどうかさえわからなかったし、顔を見るまで隆翔に実感があったわけではない。  しかし、今しがた自分の腕のなかでふたたび寝入ってしまった彼女を思い出すと、隆翔はこれまで感じたことのない高揚感を覚えた。『なにも心配することはない』と彼が頰を撫でたとたん、彼女は安心したように笑みを浮かべたのだ。
 人買いに殴られ血の滲んだ額の傷は痛々しいが、痕に残るようなものではないだろう。頰にかかるくせのない黒髪をのけてやりながら隆翔は、このような怪我は二度とさせない、と強く決意した。
『私に父親なんていないわ……』
 それとともに、先ほど彼女のつぶやいた言葉を思い出せば、胸がえぐられるような心地がする。
 他の娘を逃がすために武器を持った男にひとり立ち向かっていくなど、気丈な娘だと思っていた。しかし父のことを訊ねたとたん涙を流した姿は頼りなく、悲痛な声からは彼女の心の傷が窺えた。
本来であれば皇帝のひとり娘として蝶よ花よと育てられたはずなのに、どのような辛い半生を送ってきたのだろう。火事で亡くなったらしい母親のことを、痛みをこらえるように話した彼女が、隆翔は不憫でならなかった。
そして彼は、彼女の流した涙の理由が自分のような気がして、唇を嚙みしめる。
砂利を踏みしめる音に気づいて顔を上げると、腹心である宏傑が大木の根本に座り込んでいる彼に歩み寄ってくるのが見えた。
「公主の意識が戻られたんですか?」
 宏傑がそう訊ねたのは、先ほどの話し声が聞こえたからだろう。
「いや……。少し目を覚ましたんだが、また眠ってしまった」
 何度か兄であると告げたが、彼女は夢と現を行き来しているようで、彼の説明をきちんと理解しているのかどうかはわからなかった。
 答えながら隆翔が視線を落とすと、宏傑は正面にしゃがみこみ、かすかな寝息を立てる顔を無遠慮に覗き込んでくる。
「あなたとは、あまり似ていませんね」
「腹違いなのだから、仕方がないだろう」
 無神経な言葉に隆翔はむっとして答えた。好奇心に満ちた視線を遮るように寝顔を胸元に引き寄せると、宏傑がやれやれといった様子で肩をすくめる。
 たしかに、彼女のくせのない黒髪も、きりりとした眉も、上質の白磁のようになめらかな曲線を描いた頰も、隆翔と共通しているところは見当たらない。
 しかし彼女は間違いなく隆翔の妹であり、彼女の持っていた父皇帝の佩玉(はいぎょく)がその証だった。
 そしてなにより、隆翔自身の本能がそう告げるのだ。女など信用できないと思っているはずなのに、彼女に対してはそんな苛立ちを覚えることなく、それどころか見ているだけで大切にしてやりたくなる。血を分けた妹でなければ、こんな気持ちになるはずがないではないか。
皇城に連れて戻れば、父の喜びはいかほどだろうか。
娘の存在を知ってから父は、長年彼女を捜しつづけていたのだ。しかしその行方はようとして知れず、そのことに父がずっと心を痛めていたのを、隆翔は身近で見て知っていた。
すでに亡くなっていた彼女の母妃については間に合わなかったが、だからこそその分も彼女を幸せにしてやらなければならない。
「どうしますか? そろそろ出立しないと、夜明けまでに到着できませんよ?」
 明るくなってから帰城すれば、事情を知らない者たちがいろいろ勘ぐって騒ぎだすだろう。いずれは百官の前で冊封大典を行い、その存在を明らかにすることになるとはいえ、彼女が環境に慣れるまで好奇の目に晒すようなことは避けたかった。
 宏傑の言葉にうなずき、隆翔は妹の身体を落とさないように注意深く立ち上がる。
「帰ろうか」
 ふたりの家――皇城へ。
 そしてそう話しかけると、彼の妹――黎禾はうっすらとほほ笑んだ気がしたのだった。
 


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