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恋する救命救急医 キングの失態

春原いずみ/著 緒田涼歌/イラスト 定価:本体690円(税別)

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STORY

恋する救命救急医 キングの失態定価:本体690円(税別)

ふたりの関係に波乱の予兆が!?

フライトナースの筧(かけい)と『ドクターヘリのエース』の異名を持つ神城(かみしろ)の同居生活は、予想外に順調で楽しい日々だった。だが、系列病院から転送された救急車に同乗してきた女医・田島(たじま)と神城が旧知の仲だと知り、その親しげな様子に筧の胸は騒いでしまう。そのうえ四月になり配属されてきた研修医たちに混じり、何故かベテランであるはずの田島が現れて―!?

著者からみなさまへ

こんにちは。春原(すのはら)です。「恋する救命救急医」も8作目となりました。今回は無敵の神城先生が大失敗をやらかします。本人、気づいてないらしいのが痛いのですが……。わりと順調に来た感のある神城×筧の恋に、大きな危機が訪れるようです。しかし、それもまた大切なステップのひとつかもしれません。健気な小柴犬、筧くんはどうするのでしょうか。彼の選択をぜひ見届けてください。

初版限定特典

恋する救命救急医 キングの失態

初版限定書き下ろしSS
特別番外編「キングの恋文」より

 妙に寒いと思った。いつもはほとんど着ないカーディガンを羽織っても寒くて、あたたかいコーヒーを飲んでも寒くて、何だか今日は気温が低いのかなあと思った。
「筧くん、何だか顔が赤くない?」


…続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『恋する救命救急医 キングの失態』特別番外編
「恋するレシピ~蒸し寿司編~」
春原いずみ

「ただいま戻りました」
 筧は大きな包みを手に提げて、よいしょと玄関を入った。
「お帰り。何買ってきたんだ?」

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 めずらしく車で出勤し、買い物をしてきた筧を、華を抱っこした神城が迎えてくれる。最近、華は神城に抱っこされるのがお気に入りだ。身体の大きな神城に抱っこされるのは安定感があるらしい。小柄な鈴くらいなら筧にも抱っこ出来るが、華は鈴よりも大柄だ。
「ちょっと……。今日の晩ご飯、家でいいですよね」
「あ、ああ……雨模様だし、外出するつもりはないが」
「了解です。こいつら、散歩は……」
「さっき軽く行ってきた。凜がトイレ済ませたから、さっさと帰ってきた」
「ありがとうございます」
 筧はぺこんと頭を下げてから、台所に入った。今朝のうちに仕掛けておいたご飯が炊き上がっている。ひょいひょいと混ぜながら、少し食べてみる。うまく固めに炊き上がっている。小さめの盤台にご飯を開け、そこに休日に作って、冷蔵庫にしまっておいた寿司酢を混ぜた。二人分なので、うちわで扇ぐ必要もない。盤台に濡れ布巾をかけておいて、生姜と青じそを刻み、金ゴマを軽く切った。
「何だ、今日は寿司か?」
 酢の匂いを嗅ぎつけたのだろう。神城が台所に入ってきた。
「それ、混ぜるのか?」
「はい、薬味寿司といいます」
 切った薬味をざっと寿司に混ぜ、再び濡れ布巾をかける。
「まだちょっと時間かかりますから、お茶でも飲んでてください」
「いや」
 神城は筧の肩を軽く抱き、つむじにキスをする。
「ここで見てちゃ駄目か?」
「え……」
「俺、おまえが料理してるの見るの好きなんだよ。おまえ、すごく楽しそうに料理するから」
 料理は好きだ。何も考えずに、ただおいしいものを作ろうとする。それがいい気分転換になる。特に、自分で作って自分で食べるだけだった一人暮らしの時より、今は食べてくれる人がいるので、よりいっそうやりがいがある。
「駄目か?」
 優しく聞かれて、断れるはずもない。筧はお湯を沸かして、たっぷりのほうじ茶をいれた。
「……別に面白くないですよ」
 筧は再び、今度は鍋でお湯を沸かし始めた。冷蔵庫の野菜入れからごぼう、れんこん、にんじんを取り出し、皮を剝いて一センチ角に切り、今買ってきたたけのこの水煮を開けて、同じように切った。ちょうど沸いた鍋のお湯に野菜を入れ、さっと下ゆでする。
「椎茸、嫌いじゃないですよね」
「きのこは好きだぜ」
 冷蔵庫から椎茸を取り出して、やはり一センチ角に切ってざるに入れ、ちょうど下ゆでを終えた野菜ごと、ざっと熱湯をかけて、水気を切る。彩りは絹さやだ。さっとゆでて、素早く千切りにする。
「おまえ、包丁使うのうまいよな」
「先生のメス使いほどじゃないですよ」
「そこ、比べるか?」
 小鍋を棚から下ろし、水とみりん、醬油、五センチ角の昆布を入れてあたため、そこに下処理した野菜と戻しておいたひじきを入れた。
「五目寿司か?」
「ちょっと違いますね」
 フライパンを出して、薄焼き卵を焼く。卵を溶いて丸く流し、縁が乾いてきたところでひっくり返し、さっと焼いて、まな板の上に開ける。卵一個で三枚焼けた。端から刻んで、錦糸卵にする。
「さてと」
 鍋を焦げ付かせないよう気をつけながら、筧は大きな包みを開いた。中に入っていたのはせいろだ。蓋付きのどんぶりも二つ出てきた。
「へぇ……これがせいろか。竹で出来てる……」
「杉とか檜もありますけど、竹が一番癖がないです」
 せいろは二十一センチで二段のものだった。仕事が終わってから、これを買いにデパートまで行ってきたのだ。鍋にお湯を沸かし、蒸し板をのせ、その上にせいろをのせる。十分に湯気が立つ間に、どんぶりを洗い、作っておいた薬味寿司を盛り、錦糸卵をたっぷり敷いた。ちょうど具も煮上がり、それを錦糸卵の上に彩りよくのせる。蓋をして、湯気の上がったせいろに一つずつどんぶりを入れた。
「これであたたまったらできあがりです」
「ああ……」
 神城が嬉しそうに頷いた。
「これ、蒸し寿司か……っ」
 神城が食べたいと言ったのを、筧は覚えていた。いずれ作ろうと思っていたのだが、ちょうど雨模様で涼しくなったので、作る気になった。
「ああ……いい匂いだ」
 醬油で煮付けた具が蒸されて、香ばしい匂いがしている。寿司が蒸し上がる間に、さっと簡単におひたし用にゆでておいたほうれん草と三つ葉で、お澄ましを作る。いくつか常備菜を茶の間の座卓に運び、お澄ましをお椀に張って、食卓を整えるうちに、蒸し寿司ができあがった。

 ほんのりあたたかいお寿司は口当たりが優しく、肌寒い雨の日にぴったりだ。
「うまいなぁ……」
 神城がしみじみと言った。手作りのお寿司は酢加減もちょうどよく、薬味が効いていてさっぱりしている。たっぷりの錦糸卵と煮上げた具を一緒にして、酢飯と食べるとほっとする美味しさである。にぎり寿司のようなきりりとした佇まいがない分、家庭料理の匂いがする。
「昔、食べたのよりうまい。普通の酢飯より、生姜とか入った方がおいしいのな」
「味が複雑になりますからね」
 今日の蒸し寿司はうまく出来た。新しいせいろもやっぱり買ってよかった。今度は茶碗蒸しでも作ってみよう。
「うん、うまいっ」
 神城が無邪気に笑う。
「やっぱり、おまえの作るごはんは最高だな」
「……おいしいなら、よかったです……」
 今度は何を作ろう。あなたのこんな笑顔を見るためなら、どんなものでも作ってあげる。一番大事なあなたのために。一番おいしいごはんを。二人で食べれば、どんなものでもおいしいけれど、やっぱりあなたの笑顔が見たい。
「今度は……何を作りましょうか」
 そう言う筧に、神城は最高の笑顔を見せる。
「おまえが作ってくれるものなら何でも」
 おいしいごはんを食べよう。今日も明日も。

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