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VIP 溺愛

高岡ミズミ/著 沖 麻実也/イラスト 定価:本体690円(税別)

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STORY

VIP 溺愛 定価:本体690円(税別)

離れるほどに、愛しくて……

「俺は、あのひとの足枷になるのがなにより怖い」裏組織との癒着を匂わせるゴシップ記事が週刊誌に出たせいで、柚木和孝(ゆぎかずたか)がオーナーを務めるレストランPaper Moonからはすっかり客足が遠退いてしまった。一方で、恋人である不動清和会若頭・久遠彰允(くどうあきまさ)が警察の事情聴取を受け、組の内部でも微妙な立場になっていると聞かされ、和孝は気が気ではない。思うように会えない日が続き、想いはつのるばかりだが……。

著者からみなさまへ

こんにちは。高岡ミズミです。VIPセカンド・シーズン3作目、トータル14作目をお届けできる運びとなりました。暑い夏をより熱く! と今作のタイトルは『VIP 溺愛』です。週刊誌の件にも区切りがつきましたし、どんだけ大好きなのよ、という内容になっているかと思いますので、つかの間のふたりのラブ、少しでも愉しんでいただけましたらこんな嬉しいことはありません。

初版限定特典

タイトル後送

初版限定書き下ろしSS
特別番外編「楽園」より

 世の中が大型連休に沸く五月。近隣のオフィスが軒並み休みになるとのことで、Paper Moonもたまには倣おうと決めたのが、事の発端だ。
 久遠さんも合わせて休みをとれば、なんて持ち掛けた和孝にしても……。


……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『VIP 溺愛』特別番外編
大好評パラレルシリーズ
「オフィスラブ」
高岡ミズミ

 目頭を指で揉んだ和孝(かずたか)は、両手を上げて背筋を伸ばす。凝り固まった身体に血が巡っていくようで、ほっとひと息ついた。
「あと少し」
 時刻は、夜十時過ぎ。フロアを見渡してもすでにみな帰ったあとで、自分の上の電灯以外はすべて消えていて、物音ひとつしない。

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 深夜のオフィスに残っているのは、自分だけだ。
 本当ならいま頃、ホテルでディナーのはずなのに、なぜこうなったのかと言えば―新人アルバイトのデータ入力ミスの尻拭いといういたってベタな理由だった。
 終業時刻間際に「一段ずつずれてました」と半泣きで謝られて、「次から気をつけて」「俺がやっとくから」それ以外の言葉は浮かばなかった。
「『柚木(ゆぎ)さんって、正直冷たそうに見えて怖かったんですけど、案外優しいんですね』? それ、褒めてないからな」
 思わず愚痴っぽくなるのも当然だ。ディナーはディナーでも、今夜は特別。たまにはホテルで食事でもしようよと、こちらから持ち掛けたのだ。
 今日は、ふたりがつき合い始めてちょうど一年だから―なんて口が裂けても言わないけれど、自分にとってはやはり重要な日だった。
 よりにもよって……とちょっとくらいぼやいたところで罰は当たらないだろう。
 次はいつ会えるか。そう思うとため息がこぼれそうになるが、こればかりはどうしようもない。さっさと終わらせること、それがいまの自分の最優先事項だった。
「よし。あとひと踏ん張りだな」
 緩めていたネクタイをさらに引っ張り、ラストスパートをかける。あと少し。データ入力の続きに取り掛かったとき、
「まだいたか」
 背後からの声に、飛び上がるほど驚いてしまった。
「び……びっくりするじゃないですか」
 過剰反応した恥ずかしさもあり、ぶっきらぼうな言い方になる。が、相手の肩書と自身の立場を思い出し、椅子から腰を浮かせた。
「仕事が残っていたので……。部長こそ、こんな時刻にどうされたんですか?」
 椅子に座り直した和孝は、目線を上げて上司である彼を見た。
 相変わらず隙がない。長身で、端整な顔立ちで、それなりにリッチな大人の男。今日も女子社員が熱いまなざしを送ってましたよ、と心中で呟きつつ何食わぬ顔で問うと、紙袋が差し出された。
「リーダーが新人の尻拭いをしていると聞いたから、差し入れだ」
「え、あ、どうも」
 中身は中華弁当のようだ。どうりでさっきからいい匂いがしていたはずだ、そう思った途端、ぐうっと腹が鳴った。
「じゃあ、遠慮なくいただきます」
 決まりの悪さに鼻に皺を寄せた和孝だが、いまさら格好をつけてもしようがないので、素直に礼を言って紙袋を受け取る。仕事が終わったらありがたく食べるつもりだったものの、上司が立ち去るどころか隣の椅子に腰かけたせいで、それどころではなくなった。
 とても仕事に集中できず、とりあえずラストスパートは後回しにして弁当の蓋を開ける。
「うまそう」
 おかげでまだ弁当はあたたかく、まずは酢豚を口へ放り込んだ。
「うま」
 思わず口にしてから、はたと気づく。弁当といっても、いつも食べているリーズナブルな弁当とちがうのは明らかだ。
「これって、もしかしてHホテルのレストランで―」
 ディナーは、Hホテルのレストランの予定だった。一周年はさておき、久々にふたりきりで会えるというのもあって、ずいぶん前から愉しみにしていたのだ。
「ああ、無理を言って弁当にしてもらった」
「うまいはずですね。ありがとうございます」
 海老チリ、青梗菜(ちんげんさい)とイカの炒め物、炒飯。どれも絶品だ。遠慮なくがつがつ食べていると、視線を感じて上目を向けた。
「……んですか?」
 目が合う。ふっと頰を緩ませた上司に、どきりとした。
「差し入れを持参した甲斐があった」
「…………」
 なに、その顔。
 と思ったものの言葉にはせず、無言で完食した和孝は弁当の蓋を閉めて両手を合わせてから、ふたたびパソコンに向かった。
「あと少しで終わります。ていうか、終わらせます」
 急な予定変更は、今回が初めてではない。社会人である以上、仕事第一になるのは当然、たまのデートであろうとなんだろうと二の次にせざるを得ないと重々承知している。
 そう頭では理解していても、もちろん気持ちは別だ。
「だから―かなり押してしまったけど、このあとは予定どおりでいいですか」
 部長、ではなく、久遠(くどう)さんと呼び方を変える。
 色よい返事を求めて、ちらりと窺うと、上司の―久遠の唇の端が上がるのが見えた。
「ちょうどよかった。部屋を無駄にしなくてすむ」
 しかし、この返答には少なからず驚き、キーボードから手を離して、目を瞬かせる。
「部屋? 部屋をとってたんだ?」
 まさか一周年を久遠も憶えていたのか。いや、それはあり得ない。久遠がそういうことに頓着する性格でないというのはよく知っている。となれば―。
「酔っ払いを連れ込むには手っ取り早いだろう?」
「なんだよ、それ」
 レストランから部屋へ直行する予定だったと知り、身も蓋もない言い方に相変わらずだと顔をしかめる。どうせ合理的だとでも言うつもりだろう。
「酔っ払わないし」
 とはいえ、確かに自信はなかった。なにしろ記念日だ。ついグラスを重ねてしまうことは大いにあり得る。
 そもそも満更悪い気はしていない時点で、結果は目に見えていた。 
「俺が痺れを切らさないうちに片づけてくれ」
「……わかってる」
 一言返し、仕上げに取り掛かる。喫煙室に移動していった久遠の存在を意識せずにいるのは難しかったが、できる限りの努力をした。
 三十分後。
「終わった!」
 椅子から立ち上がるや否やフロアを出た和孝は、マルボロの煙が充満している喫煙室へ飛び込む。
「やっと来たか」
 目を細めた久遠に身体をぶつける勢いで抱きつき、衝動的に唇を奪った。
 味見程度にすませるはずが、思いのほか激しくなったのは致し方ない。待ちくたびれたのは自分も同じだ。
 熱い口づけに夢中になり、一滴もアルコールを飲んでいないうちからうっとりとする。頭がぼうっとしてきて、四肢から力が抜ける。
 膝が震えだし、息を乱した和孝は力の入らなくなった両手で久遠の上着にしがみついた。
「このままホテルの部屋まで抱いていくか?」
 普段ならからかわれたと思う言葉ですら、耳元でささやかれるとスパイスになる。社内でけしかけたことを悔やみつつ、厭に決まってると小さくかぶりを振ったものの、こうも密着していては説得力がなかった。
「安心していい。いくら酔っても面倒はみる」
「…………」
 久遠の言うとおりだ。すでに自分は酔っている。しかもアルコールよりよほど久遠のほうが効くし、質(たち)が悪いのだ。
「俺が、満足するまで?」
「おまえがうんざりするほど」
 ならいい。
 きっと記念日にふさわしい一夜になるだろう。期待と昂揚に胸をときめかせた和孝は、存分に久遠に酔いしれ、身を任せた。

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