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龍の革命、Dr.の涙雨

樹生かなめ/著 奈良千春/イラスト 定価:本体720円(税別)

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STORY

VIP 渇望 定価:本体720円(税別)

清和率いる眞鍋組、ついに日本統一に乗り出す!?

 眞鍋の昇り龍―二代目組長・橘高清和(きったかせいわ)は生きていた。依然緊張の続く中、なぜかマスコミに眞鍋組こそが大抗争の黒幕であると書き立てられる。心ない噂と、清和についてまわる危険の影に心を痛めた氷川諒一(ひかわりょういち)は、最愛の男を守るため、強い意志で立ち上がった。一方、眞鍋が誇る諜報部隊は、二代目姐である氷川の与り知らぬところで工作を続けていて……。

著者からみなさまへ

いつも氷川と清和の世界を応援してくださってありがとうございます。革命料理はたこ焼きとインド料理ざます。自分でも驚いていますが、ホワイトハート様で50冊目ざます。よく今まで見捨てられなかったと、遠い目で振り返ってしまいますが……。50冊目のご挨拶ができるのは読者様のおかげです。改めて読者様の懐の広さに感謝。どこに流れていくのか不明ですが、今後もよろしくお願いします。切実に読者様の懐は広いと信じていますとも。

初版限定

特別番外編「甘やかされたい」より

初版限定 豪華SSイラストカード
特別番外編「ふたりはいつも」より

 長江組に抜かりはない。極秘戦闘部隊も不夜城に侵入したという情報を摑んだ。
開戦、と藤堂和真は瞼に眞鍋組と長江組の激烈な抗争を浮かべた。


……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『龍の革命、Dr.の涙雨』特別番外編
「最後の晩餐」
樹生かなめ

 どういうわけか、インド産の宝石は品質が悪いイメージがある。透明感が皆無に近い低品質なガーネットやムーンストーン、インドスタールビーなど、安い石がたくさん採掘されるからだと聞いた。けれど、最高と称えられるダイヤモンドやサファイアも採られている。かの有名なホープ・ダイヤモンドもインド産だ。

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 インド産のダイヤモンドとサファイアを眺め、京介は感嘆の声を漏らした。
「評判通り、いい石なのにリーズナブル。銀座なら十倍するな」
 出勤前、京介は桐嶋組のシマにある宝飾店で太客の女社長へのプレゼントを購入した後だった。インド人夫妻が営む宝飾店から出た瞬間、太客のひとりが親しげに近寄ってくる。長江組の若頭補佐でなければ、とっておきの王子様スマイルを浮かべただろう。
「京介、ええとこで会うた。一緒にディナーを食ってからジュリアスにレッツゴーや」
 吉沢小五郎は偶然を装っているが、待ち構えていたのだと手に取るようにわかる。長江組で三番手の権力者がその気になれば、ホストの一日の行動など、簡単に摑めるだろう。
「吉沢さん、同伴の約束はしていません」
 京介が素っ気なく拒むと、吉沢は小刻みに手を振った。
「京介、昨日も一昨日も三日前もヴーヴでタワーを入れたんやからつれないことを言うなや~っ」
 ここ最近、吉沢は連日舎弟やフロント企業の社長夫人を引きつれてホストクラブ・ジュリアスに来店し、豪快に金を落としていく。歌舞伎町の老舗ホストクラブは、長江組の東京進出における情報戦の場のひとつらしい。抗争宣言が出されたわけではないし、暴れているわけでもないから、ジュリアスは大金を落とす客を叩きだしたりはしない。
「お願いした覚えはありません」
「おいおいおいおい~っ、つれないにもほどがあるやろ」
「東京の食事が不味くて参っているのでしょう。神戸にお戻りになられたらどうですか?」
「うどんやお好みなんかの粉もんは問題外やし、味噌汁もすき焼きも親子丼も天丼もあかんけど、エスニックはまだ食える。今夜はインド料理のフルコースや」
「奥様がお可哀そうです。戻ってあげてください」
「野暮な話をしたらあかんわ」
 当初、吉沢はジュリアスのオーナーを指名していた。すぐ、オーナーは体調を崩して休むようになった。京介のみならず支配人もスタッフも仮病だとわかっている。オーナーが逃げても眞鍋組と何かと縁のあるジュリアスへの攻勢は緩まなかった。
 結果、東京進出担当者のターゲットが、売り上げナンバーワンのカリスマホストに変わったのだ。
 眞鍋組のショウがそれに気づくと暴れるから手を焼いている。鉄砲玉の鉄砲玉たる所以だ。
「桐嶋のシマで吉沢さんが出歩くのは危険です」
 京介が真顔で注意すれば、吉沢は靡くインド国旗の前でポーズを取った。
「元紀とは知らん仲やない。あいつは長江の男やったんや。知っとうやろ」
 京介は桐嶋元紀が長江組を破門になった理由も真相も知っている。桐嶋は屈託のない笑顔で汚名を被り続けているが、京介は歯痒くて仕方がなかった。長江組というよりヤクザ自体に対する嫌悪感がますます強くなる。
「桐嶋組長は眞鍋組二代目姐の舎弟です。眞鍋の若い奴らを挑発したいんですか?」
「若い奴ら?」
「ショウや宇治たちです。わかっているでしょう」
 桐嶋組が統べる街で眞鍋組構成員はそうそう暴れたりはしない。だが、今の状態では、鉄砲玉を始めとする若い兵隊たちはわからない。
 吉沢にしても堂々と眞鍋組構成員と大乱闘を繰り広げたくはないだろう。何せ、頭脳派と評判だ。もっとも、頭脳派だから従来の戦法を取らないらしい。ショウが聞いてもいないのに教えてきた。
『京介、おい、無視するな。聞けよ。長江の東京進出担当が馬鹿じゃないオヤジだって聞いた。小倉や名古屋とやり合って勝ったオヤジだ』
『ショウ、俺に言う必要はない』
『馬鹿じゃないから、二代目にヒットマンを送り込まないっていうけどさ。いい加減、イライラするぜ』
 眞鍋の特攻隊長は、大型バイクで敵に突っ込みたくてウズウズしている。暴走族時代より、忍耐力がついたことは確かだ。
『俺はお前といるだけでイライラする』
『生理か?』
『俺の性別を忘れているな』
 ヤクザの抗争に関わりたくないが、京介の耳にはいやでも飛び込んでくる。今に始まった話ではないが居候がひどい。
「こんなところで眞鍋の鉄砲玉相手にゴロまいたらあかんがな。……ほら、サメと同じや。バカンス」
 吉沢の口からなんでもないことのように、神出鬼没の男の名が飛びだした。眞鍋の昇り龍に天下を取らせる男、とまことしやかに囁かれている。誰よりも危険視していることは間違いない。
 俺はカタギですよ、と京介は一般人としてサメの名を知らないふりをするのも億劫になった。
「サメは総本部にいるそうです」
「アホ。あれはサメやのうて偽物のサメやろ。本物のサメはどこでバカンスしとんや?」
「あのサメがバカンスなら蕎麦の美味いところじゃないんですか?」
「たこ焼きの食べ歩きちゃうんかな?」
 関西で嗅ぎ回ってるんやないか、と吉沢は探るような目で続けた。
「サメの話なら俺にせず、ほかの人となさってください」
 埒が明かないとばかり、京介は異国のような通りを歩きだした。サリー姿の女性の客引きたちの間を笑顔で通り過ぎる。
 しかし、吉沢は人の波を器用にかきわけながら追ってきた。
「京介、京介、王子様~っ、折り入って頼みがあるんや。枕を求めたりせえへんから安心してや。俺、根っからの女好きやねん。どんなに綺麗でも男はあかんわ。男相手にできる眞鍋の二代目やサメはごっついな。それだけで尊敬するで」
 吉沢に肩を抱かれそうになり、京介はすんでのところで躱した。まかり間違っても、こんなところで長江組若頭補佐と肩を組んで歩きたくはない。おそらく、吉沢の舎弟たちにあることないこと吹聴されるだろう。それこそ、今日にも京介は吉沢の舎弟だ。
「そういう話もほかの人となさってください」
 京介はネオンが輝く進行方向に吉沢の舎弟たちを見つけ、大きな溜め息をついた。北インド料理店の壁に掛けられたメニューの前にもそれらしく固まっている。
「……あ、せやから、独立の話や。ジブンも男やったら自分の店を持たなあかん。カリスマの中のカリスマがなんでジュリアスにおるんや。十億、キャッシュでやるから受け取り」
 昨夜は吉沢にVIP席で小切手を出されたが、京介は断固として拒否した。その後はテーブルにもつかなかったし、見送ることもしなかった。一昨日のプレゼントは青山のタワーマンションのキーで、一昨昨日のプレゼントはランボルギーニのキーだ。もちろん、京介は受け取らなかったが、豪勢なプレゼントに大阪出身の後輩ホストが目の色を変えていた。ひょっとしたら、大阪出身の後輩ホストが情報戦の駒として使われるかもしれない。
「お断りしたはずです。俺にそんな気はありません」
「なんでや。十億やで。歌舞伎町にでも六本木にでも横浜にでも好きなところに店を出したらええんや。全力でプッシュすんで」
「頭脳派として有名な若頭補佐がこんなに無能だと思いませんでした。時間の無駄遣いに励むのは政治家だけでいい」
「ジブンが欲しいんや」
 頭脳派の大幹部にスカウトされた理由は確かめなくてもわかる。京介の華やかな美貌に影が走った。
「俺を東京進出の駒にしたいんですか?」
「長江の幹部候補として迎えたいんや。その気があれば特例で即、幹部やで。組を構えさせたる」
 長江組の幹部という椅子がどれだけのものか、暴走族時代から知ってはいた。憧れている暴走族関係者もいたが、京介にはなんの興味もない。
「お断りします。ヤクザは嫌いです」
 京介が険しい顔つきで断言すると、吉沢は楽しそうに笑った。
「ヤクザ嫌いっちゅうわりに、ヤクザと同棲しとうやんか」
「あれは押しかけ居候です」
「眞鍋の特攻隊長は大切な男なんやろ。ええんか?」
 吉沢がチラリと視線を流した先には、ガネーシャの像の前で宇治に押さえ込まれているショウがいた。おそらく、吉沢と京介の姿を見て飛び掛かろうとしたのだろう。
 ショウ、馬鹿だと知っているが、そこまで馬鹿だったのか。
 こんなところで長江の大幹部に殴りかかってどうするんだ、と京介は人間瞬間湯沸かし器に呆れた。
 同時に吉沢の意味深な目の意味に気づく。
 インド雑貨店の三階の窓に、吉沢の若い舎弟を見つけた。カーテンで確認しにくいが、ライフルでショウを狙っている。
「大胆ですね。今のご時世、ここで発砲事件を起こす気ですか」
 脅しだ。
 本気じゃない、と京介は冷静に判断する。
 武闘派として名高い長江組の若頭ではないから、白昼堂々、発砲事件は起こさないと踏んでいた。
「眞鍋の特攻隊長にピンピンしてられたら何かと面倒なんや。本当は三日前にヒットする予定やったけど、京介のことを考えてやめたんやで」
 ショウを生かすも殺すもジブン次第や、と吉沢はトーンを落とした声で続けた。静かなだけに不気味な迫力がある。
「ジュリアス、出入り禁止にしていいですか?」
 本来、オーナーが仮病を装う前に出入り禁止を言い渡すべきだった。けれども、したたかなオーナーはそういったことはしない。京介は独立援助の申し出があった時点で、出入り禁止にしたかった。支配人に止められ、思い留まったのだ。
「おいおいおいおい~っ、あかんがな~っ。ショウ、助けたいんやろ。ジブンにとってめっちゃ大切な男やんな。わかっとう。全部、わかっとうで」
 まるで大切な恋人の命を握ったかのような態度だ。
 いったい何がどのように長江組に伝わっているのか、京介は問い質したくなってしまう。眞鍋組の二代目姐が男性である影響が大きいのかもしれない。
「何か誤解されているようです」
「誤解なんてしとらへん。お前の気持ち次第や。お前の返事でショウを助けてやるわ。この先、眞鍋がどうなってもショウとお前を悪いようにはせぇへん」
「ショウに見つからないうちに行ってください」
「ショウに見つかっても屁でもないわ。ズドンと一発、それで終わりやんか」
「頭脳派の大幹部、いい加減にしてください」
 京介が冷徹な目で睨み据えた時、インド雑貨店の三階の窓辺で異変が起こった。
 いつの間に忍び寄っていたのか、諜報部隊に所属しているハマチとメヒカリが、吉沢の舎弟をスタンガンで気絶させた。
 これらは、ほんの一瞬の出来事だ。
 さすが、と京介は改めて眞鍋の特殊部隊の底力を知る。
「うわぁ、やられたわ。サメの部下は噂以上にごっついな」
 吉沢も気づいたらしく、妙な手つきで頭を搔いた。
 それが合図だったのか、北インド料理店のメニューの前に固まっていた若い兵隊たちがショウや宇治に向かって歩きだす。今日、この場で全面戦争に踏み切る気なのか。どこにでも大型バイクで突進するショウや宇治は真っ先に消したい兵隊だとわかっているが。
 頭の回る幹部ならばこんなところでやらない、と京介は周囲を見回した。
「吉沢さん、そろそろ宇治一人ではショウを押さえきれなくなる。逃げてください」
「京介、一緒に逃げてくれるんやな」
 吉沢に手を握られる。
 ……否、その寸前、京介は手を引いた。
「俺が一緒だと逆効果です。わかっているでしょう」
 ショウがとうとう宇治を振り切り、こちらに突進してくる。インド人やネパール人の客引きを吹き飛ばしそうな勢いだ。
「……まぁ、今日は残念やけどここまでや。次は夜明けのレイコーでも一緒に飲もうや」
 引き時だと悟ったのか、吉沢は風のようにインドエステ店の看板の裏に消えた。舎弟たちとともにそのまま細い路地裏を進んだらしい。
 間一髪、眞鍋の韋駄天とぶつからずにすんだ。
「京介、今のはなんだ。どうして長江のクソオヤジに愛想を振りまいているんだ。お前はそれでも姐さんの舎弟かーっ」
 ショウに飛び掛かられたが、京介は瞬時に躱した。
「ショウ、煩い」
 単純単細胞アメーバに比べたら長江組一行はなんて紳士だったんだ、と京介は変なところで感心してしまう。
「お前が悪い。姐さんの舎弟のくせに何をやっているんだーっ」
 シュッ。
 ショウが鬼のような顔で右ストレートを繰りだす。
 京介は遠い昔に見切っている拳を難なく避けた。
「いろいろと言いたいことがありすぎて、何から言えばいいのか……お前の頭だと何を言っても理解できないか」
「悪いのはお前だ。俺にタンドリーチキンを奢れっ」
 いきなり、ショウはインドの魔除けが飾られた北インド料理店を指で差した。食欲を刺激するスパイスの香りが漂ってくる。
「どうして?」
「姐さんの舎弟のくせに長江のクソオヤジに優しくしたからだ。罰だっ」
 ショウのむちゃくちゃな論理に、京介の華やかな美貌が引き攣った。
「殴っていいな」
「さっさとタンドリーチキンを奢れ。じゃないと、ここでキスしてやるーっ」
 がばっ、とショウに物凄い勢いで抱きつかれてしまう。
「血迷ったか」
「タンドリーチキンか、キスか、どちらか選べーっ」
 ショウの切羽詰まった絶叫が京介の神経を直撃した。
「お前、腹が減っているのか」
 京介がズバリ指摘すると、ショウは血走った目でコクリと頷いた。
「さっさと食わせろ」
 腹を空かせた鉄砲玉ほど始末が悪いものはない。
 この馬鹿には何を言っても無駄だ。
 無駄なことに時間を費やすな。
 馬鹿を相手にするより、希望通りに食わせて黙らせたほうがいい、と京介は心の中で自分に言い聞かせた。
「ショウ、最後の晩餐になるかもしれない。食わせてやる。宇治も来い」
 京介は華やかな笑みを浮かべると、元暴走族仲間を手招きした。今後の眞鍋と長江の激突を考慮すれば、これが最後の食事になる可能性があるから。

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