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フェロモン探偵 
蜜月のロシア

丸木文華/著 相葉キョウコ/イラスト 定価:本体750円(税別)

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STORY

フェロモン探偵 蜜月のロシア定価:本体750円(税別)

今夜が、初夜ですね

天才の名をほしいままにしていた画壇を捨て、今はゆるい探偵稼業の映(あきら)に、襖絵を描く依頼が舞い込んだ。依頼主は遠くロシアの大富豪。当然、助手兼恋人の雪也(ゆきや)も同行し、まるで新婚旅行…のはずが、なんとそこには、映とのファーストキスが忘れられない美丈夫が待ち受けていた! 彼を牽制しようと、雪也はとんでもなく淫らな秘策に出る。一方そのころ、大富豪の邸内で希少なコレクションの連続盗難事件が起きて!?

著者からみなさまへ

こんにちは、丸木(まるき)です。今回は「フェロモン探偵」シリーズで初めて舞台が海外となり、いつもとは少し違った趣かもしれません。ロシアの地で映に恋する新たな雪也のライバルが登場? そして雪也と深い関わりのある、あの人物が再び登場します。色々と盛りだくさんの展開をぜひお楽しみいただければと思います。よろしくお願いいたします!

初版限定特典

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初版限定 書き下ろしSS
 特別番外編「甘い記憶」より

「バルったら。またこんなところにいたの」
 マリヤが呆れた顔で、和風庭園の四阿に座っているバルに歩み寄る。
 家に遊びに来たマリヤにここにいるのを発見されるのは



…続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『フェロモン探偵 蜜月のロシア』特別番外編
「友達」
丸木文華

 こちらはおなじみ閑古鳥の鳴く夏川探偵事務所。
 映と雪也はいつも通り客人の気配がないのに焦ることもなく、ぼけっとしながら各々時間を過ごしている。
 雪也はラップトップで仕事中。映はビザ申請に必要な書類をチェック中だ。

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「ていうかロシアってビザ必要なんだなあ、知らなかった」  
 飛行機を手配すればすぐに向かえるわけではないことに驚いた。取得に何日間もかかるし、もし早く取りたければいくらか払えばよいという仕組みも初めて知るものだ。
「俺今までパスポートだけで行ける国しか行ったことなかったわ」
「日本のパスポートは優秀ですからね。世界一の信頼性じゃないですか」  
 ロシア行きを決めたのはつい昨日のことである。さて準備を始めるかとなったとき、初めて訪れる国なので慣れないことが色々と出てくる。  
 海外に出るのは久しぶりなので内心わくわくもしていたが、国内旅行のようにはいかないので少し面倒だ。  
 そのとき、外から派手にお喋りする甲高い声が聞こえ、ノックもなしに無遠慮に事務所のドアが勢いよく開け放たれた。
「映ちゃーん! お疲れー!」
「おう、リカコちゃん。あれ? サラちゃんじゃん! 久しぶり!」  
 リカコと仲のいいサラの顔を発見し、映は目を丸くする。リカコと同じく売れっ子キャバ嬢で、しばらく見ていなかったので少し気になっていた。
「ねーえ、もう聞いてよ映ちゃん! あたしずっと客に監禁されてて大変だったんだから!」
「えー! 監禁!? マジか」
「もうさーあいつの部下がポカして同僚がマンションに乗り込んでこなかったら、あたしもっと長い間行方不明だったよおー」  
 なかなかの重大事態をアッサリと口にしながら、三人は話に花を咲かせる。雪也は甲斐甲斐しく人数分のお茶を用意しつつ、邪魔にならぬよう適当に相槌を打つ。  
 映も喋るが、やはり女子たちのマシンガントークは凄まじい。話題がこれでもかというほどあちこちに飛び移り、もはや数分前に何を話していたのかすら定かでない。
「でね、今度皆で遊びに行こうって言ってるんだけど、映ちゃんもどお? 楽しい南の島で何泊かしようよ。ダイビングして、エステして、お買い物してー」
「あー、悪い。俺らしばらく仕事で日本からいなくなるんだわ」
「そうなの!? 仕事あるの!?」
「そんなにびっくりしないで!」  
 どうやら訪問の主な目的は旅行のお誘いだったらしく、映が行けないとわかると小一時間あの手この手で何とか誘おうとする。しかしどうしてもだめとわかると諦め、残念そうに帰っていった。
「はー、騒がしかったなあ。やっぱ若い女子のパワーはすげーわ」
「それについていける映さんもすごいですよ。俺は全然無理でした」  
 本気で感心している様子の雪也に映は思わず笑う。
「いや俺だって適当だよ。あんまちゃんと聞いてない。そりゃ真剣な話なら別だけどさ、ただ流れに乗ってりゃいいんだもん。ノリが大事なんだよな」
「ふと思ったんですけど、映さんってもしかして友達、女性しかいなくないですか」
 藪から棒に訊ねられて面食らった。言われてみればそうかもしれないが、なぜ突然そんなことが気になったのか。
「まあ、多分そうだけど、何で?」
「いえ、何となく。映さんと出会ってからずっと男友達のような相手を見ていないなと思いまして」
「あんたさ、俺が男友達なんか作れると思ってんの?」
…確かにそうですね」  
 わかり切っていることに今更気づいたように雪也は苦笑する。
「俺だってさ、一応憧れたことあったよ、男の友情みたいなやつ。汗臭い体育会系とかそんなのごめんだけど、普通の友達はまあ欲しかったし」
「子どもの頃くらいはいたでしょう」
「うん、多分。でも久しぶりに会ったりすると、やっぱ変になっちまうから。昔の友達とは会いたくない」  
 雪也は神妙な顔で「そうでしょうね」などと言って頷いている。
「昔普通に遊んでいた異性の友達が、同級会などで再会したら綺麗になっていて恋が始まってしまうという展開に近いんでしょうね」
「すっげえベタだけど、まあそうかもな」  
 周りがあからさまに妙な具合になり始めたのは、やはりあのトラウマとなった経験以降のことだ。映の特徴的な体質が明確に強くなってきてしまい、それに伴ってトラブルの方も多くなった。  
 男友達などとんでもない話だ。昔無邪気に遊んでいた相手までおかしくなってしまっては、清らかな思い出さえも台無しになってしまう。  
 だから映には同性の友達はいないに等しい。昔の友達には会えないし、新たな友達は作れない。大体の男は映に欲情する。欲情しなければ憎む。  
 そのことを特にどうとも思っていなかったが、改めて指摘されると何だか寂しい。
「友達かぁ。作れるもんならな、そりゃ欲しいけど」
「ガスマスクとかつけてもらわないとだめですね」
「は? 何で」
「あなたの場合いちばん凶悪なのはそのフェロモンですから。その匂いを吸わなければワンチャンありかと」
「俺は毒物かよ。会う度ガスマスクつけてる友達なんかいらねーよ」  
 普通がいい、普通が、とブツブツ言っていると、雪也はふいにひどく真剣な顔になって迫ってくる。
「友達なんかいなくても俺がいつも一緒にいますから、寂しくなんかないですよ」
「そりゃ……寂しいとかじゃねえけど。あんたは友達とは呼べないし」
「俺がずっと側にいます。映さんが友達としたいと思うことは俺と一緒にしましょう。何でもしますし、どこにでも行きますよ。何の役だってこなしますから」
「いや、そんな……無理すんなって」
「無理してません。あなたの側に俺以外の男がいるなんて耐えられませんし。何だってやりますよ」  
 自分に男の友達ができないいちばんの理由は、フェロモンなどよりもこの男の存在なのではないだろうか。
 そんな確信に近いものを覚えながら、映は諦めの境地で男の熱い抱擁を受けるのだった。

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