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『豪華客船の王子様 ~溺愛パレス~』

水瀬結月/著 北沢きょう/イラスト 定価:本体780円(税別)

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STORY

『豪華客船の王子様 ~溺愛パレス~』定価:本体780円(税別)

毎朝、王子様の腕の中で目覚めて―。

『バルト海の黄金の獅子』と呼ばれるジークフリード王子と豪華客船の初クルーズを終えた歩途(あると)。憧れの王子様からプロポーズされて、なんと宮殿で一緒に暮らすことに! 豪華な城の中で、同じベッドで目覚めるドキドキの毎日。しかし、兄である王太子が二人の交際には猛反対していた。なんとかして彼に認めてもらおうと、歩途は厳しいマナーレッスンを受け、三週間後の船上パーティに出席することになるが…!?

著者からみなさまへ

こんにちは、水瀬結月(みなせゆづき)と申します。今回のお話は、激甘全開でお送りした『豪華客船の王子様 ~初恋クルーズ~』の続編です。キラキラ王子様(ちょっと腹黒)×バリスタ青年(天然)の物語は、恋人になった後の宮殿生活を迎えます。前作よりさらにヒートアップした、溺愛、豪華絢爛、時々もふもふをお楽しみいただけたら嬉しいです。

初版限定特典

『豪華客船の王子様 ~溺愛パレス~』

初版限定 書き下ろしSS
特別番外編「天使再降臨」より

 クイーンバルティア号の処女航海を翌日に控えた、初夏。港を巡回中の警察より連絡が入ったのは、夜八時になろうかという頃だった。
 Jは出港に向けた準備の最終チェックで忙しく


……続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『豪華客船の王子様 ~溺愛パレス~』
特別番外編 「運命の黒柴犬」
水瀬結月

「殿下、人をお捜しなのですか?」
 側近にそう尋ねられた時、Jの心に芽生えたのは羞恥だった。
 捜している。その事実が悔しくて。
「誰から聞いた」

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「外務省の役人です。内々のお達し…とのことですが、王家と関わりがあるのかと問い合わせが」
 小さく舌打ちをする。使えない。
 王子といってもこの程度だ。自分の力でできることなど少ない。むしろしがらみが多すぎて、自由に動けることなどほとんどない。
「個人的な知り合いだ。連絡が取れればいいと思った程度のこと」
「私にお命じくだされば、全力で捜索させていただきますが?」
 そのように大ごとになるのが嫌なのだ。なぜなら自分はあの少年から「礼状」を受け取る立場であり、決して礼を催促するようなことがあってはならないから。
 サクラバアルト―空港で偶然出会い、世話をしてやった相手。
 彼との出会いで、自分は変わった。バルティア王国の広告塔として立つ腹が決まった。せめてそのことくらい…話してやってもいいと思っていたのに。
 どういうことか、何週間経っても、何ヵ月経っても、礼状のひとつも届かないのだ。それでは連絡先が分からないではないか。
 パスポートを見たから、名前や生年月日、イタリア国籍だということは分かっている。そして日本に父親が住んでいるということも。ただそれだけ。
 彼との話の中から、今は日本で暮らしているらしいことも知っている。だから外務省を通して、内密に、日本国内での調査を依頼したというのに…。
「王家の力を使うほどのことではない。ただ少し関わりのあった少年が今どうしているか知りたかっただけなのだ」
「少年ですか。どんな方です?」
「どんな…」
 どう表現すればいいのだ、あの天然無垢な少年を。
「タレントに譬えるとか」
「タレントというより、動物だな。犬だ、犬」
 投げやりに言う。あまり追及されたくなくて。しかし側近は「犬ですか…犬種は?」と話を広げてしまった。真面目か。
「知らん」
「調べてみましょうか。日本の犬ですね。…ふむ、出てきました。秋田犬に柴犬あたりが日本固有の犬種のようですね」
 と言ってスマホを見せられて…思わず噴き出した。
 ずらずらと並ぶ犬の写真の中の一枚が、あまりにもあの少年のイメージにそっくりで。
「殿下?」
…いや、この犬はなんという犬種だ?」
「柴犬ですね。赤茶色の毛と、黒毛の二種類に大きく分類されるようです。この子は黒毛の柴犬です」
「黒柴犬か。分かった」
 にやにやを止められずにいると、「黒柴犬に似た少年なのですね。承知しました」と話をまとめられてしまった。
「捜さなくていいぞ」
 と言っているのに、側近は今度は「黒柴犬」を検索してしまう。どこから話がこんな方向にいったのか。
 スマホの画面をまた見せられて…ふと、ある一匹の子犬に目が留まった。
 そこには二枚の写真が並んでいた。たる~んと気を抜いている時と、キリッとお座りした時の。その表情のギャップがあまりにもあのアルト少年にそっくりで。
 写真の下には値段がついていた。それを見た瞬間、胸が躍った。手に入れられるのでは。
「おい、これはペットショップか?」
「少々お待ちください。…いえ、保護施設のようですね。廃業したブリーダーから引き取って…自動翻訳なので精度がいまいちですが、ご覧になりますか?」
 説明文を読んでみた。
 その子犬は病気を患っていた。そのための治療費が必要で、破格の値段になっているという。周囲の写真の子犬たちには完売の札がついているのに、その子犬だけ販売中となっているのはそういうことらしい。
 保護施設なのに販売しているのは、私設だから。保護している子たちの餌代のためだと説明がついていたが、運営に金銭がかかるのは当然のことだろうに、どうしてここまで説明しているのだろう。Jは不思議に思った。日本では説明しなければいけないのだろうか。
「この子の引き取り手が現れるかは、難しいところでしょうねぇ。初めから治療費が必要だと分かって…」
「日本へ行く」
「は?」
「以前から興味があった国だ。お忍びで視察してこようと思う」
 サクラバアルトという少年を育んだ国。そして今、この子犬が生きている国。
「この保護施設にも連絡を取ってくれ」
 それだけ言って、Jは側近にスケジュール調整をさせた。
 あの子犬に会いに行こう。飼えるかどうかはまだ分からないが…運命のような気がした。
 あのたった二枚の写真だけで、Jはアルトのことを鮮明に思い出していたから。
 いつか―ひとりと一匹が揃ったら、絶対におもしろい。
 たったそれだけの気持ちだと自分に言い訳しながら、Jはにやりと口角を上げた。

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