講談社BOOK倶楽部

special story

WEB限定小説

「VIP」シリーズ

ツイッター連載・スペシャル書き下ろし

『VIP 流星』番外編
「フォーチュン・テラー余聞」

高岡ミズミ


 占いの店に行った翌日。出勤してすぐ、津守のある一言を和孝は思わず鸚鵡返ししていた。
…彼女」
 急用で行けなくなった友人のことを、津守は「彼」ではなく「彼女」と言った。「彼女、残念がってるんじゃないか」と。
「そりゃあもう悔しがってますね~。またかなり待たなくちゃいけないですから」
 村方も否定せず、平然とそう答える。
「え。友だちじゃなかったんだ?」
 友だちという言葉を鵜呑みにして、男だと思い込んでいた。彼女だとしたら、気安く代わりに自分が同行してよかったのかどうか―いや、よかったはずがない。
「ごめん。まさか彼女だとは思わなくて」
 慌てて謝った和孝に、村方が苦笑した。
「オーナー、勘違いしてるでしょ。友だちですよ。女友だち。僕、ずっと恋愛してないって前に話したじゃないですか」
 その話ならよく憶えている。が、ほっとするどころか衝撃は増す。
「女友だち? 村方くん、女友だちがいるんだ」
 友だちと呼べる相手が目の前のふたりしかいない自分にとって、驚くべき事実だ。確かに社交的な村方であれば男女問わず多くの友人知人がいるだろうと理解できるのに、一方でショックを受けずにはいられない。
「何人かいますよ。もう女とか男とか関係ない感じですね」
 同意を求めるように小首を傾けた村方に、津守が普段どおり涼しい顔で頷いたため、和孝も即座に倣う。
 無論、内心はちがう。
 いまでこそ津守や村方と気負いなく雑談をするが、以前は誰に対しても距離を置いていた。話すことなんてなかったし、相手がなにを望んでいるかもまったくわからなかった。わかろうともしなかった。
 同性であってもこれだ。女友だちとなると…なおさら理解するのは難しい。
「その、女友だちとなに話すの?」
 やはりどうしても聞かずにはいられず、村方に向き直る。村方は顎に人差し指を当てると、「え、普通のことですよ」と返してきた。
 その普通のことが自分には想像できない。
 普通ってなんだ? そもそも共通の話題ってあるのか?
 黙り込んだ和孝の肩に、ぽんと津守の手がのる。無理するなとでも言いたげな笑顔を前にして複雑な心境に駆られたものの、自身のために食い下がるのはやめておく。
 なにを言われてもいまさら性分が変えられるわけではない。
「オーナーはそのままでいいんです」
 村方にまで慰めの言葉をかけられ、まあいいかと開き直った。最高の友だちがふたりいて、しかも同じ目標を持った同志でもある。これ以上望むことがあるだろうか。
「じゃあ、三人でばりばり働きますか」
 こぶしをぶつけ合って互いを鼓舞してから、和孝は厨房へ足を向ける。結局昨日は他言できないような結果になったが、自分には占いよりよほど頼りになると、ふたりの存在にあらためて感謝しながら。