講談社BOOK倶楽部

special story

WEB限定小説

『ご飯ください』書き下ろしSS

「嫉妬じゃないハズ」

火崎 勇


「辻堂、猫拾った」
 アパートの隣に住む兄弟の弟、小学生の菊太郎が段ボール箱に入った子猫を持ってきた時、俺は未だに動物を軽々しく捨てる人間がいるのか、と腹立たしく思った。
 この時は、どうせ自分は一日中家にいるのだし、この猫を飼ってやってもいいかも、と考えていた。
 しかし……、菊太郎の兄であり、俺の恋人でもある雫が帰ってくると、その考えは微妙に変化した。
「え、何? 猫可愛い~」
 弟より子供っぽい雫は、猫の飼い方などを調べていた菊太郎と違ってすぐに子猫に飛びついた。
「可愛いよね。俺もうメロメロ」
 などと言いながら、目の前にいる俺を無視して猫吸いしたり肉球を自分の顔に押し当てたり、本人の言う通りメロメロだ。
「このアパートって、ペット可だったっけ? 許可出たら飼おうかな」
 そんなことを言い出したので俺は猫を取り上げると、じろりと雫を睨んだ。
「可愛がるだけで生き物の世話はできないぞ。菊太郎は学校があるし、お前も仕事があるだろう。お互いがいない時はそれぞれの睡眠時間なんだから無理に決まってる」
 ここで、『じゃあ辻堂さんが面倒見て』と他人に丸投げしないのが、雫のいいところだ。
 彼はショボンとして俺の言葉に納得した。
「だよね……。生き物は大変だもんね」
 気落ちする姿が可哀想になって、猫を雫に返してやる。
「わかってるならいい。保護してくれるところを探すから、それまでなら面倒見ていいぞ。寂しいなら、これで我慢しておけ」
 ついでに軽くキスを贈ると、途端に雫は照れたように顔を赤くした。
「辻堂さんの代わりなんてどこにもいないよ。でも猫、可愛いなぁ……」
 諦め切れない言葉を口にする雫に、俺はもう一度軽いキスをした。
 これは現実を見ての判断だ。
 決して、猫に恋人を取られそうだという焦りではない、と自分に言い訳をして……。