STORY
定価:880円(税込)
別の運命は、いらない。
不動清和会(ふどうせいわかい)の内部抗争が激化するなか、自分の存在が久遠(くどう)の足枷とならぬよう、和孝(かずたか)は日本を離れる決意をする。そして、久遠の旧い友人だというディディエと、榊(さかき)とともに、モロッコで潜伏生活をすることに。一方、久遠は三島(みしま)の策略により舎弟を失い、対決はもはや避けられない局面を迎えていた。「生きるも死ぬも一緒だ。別の運命はいらない」瀬戸際の恋人たちを待ち受ける、衝撃の結末とは!?
定価:880円(税込)
不動清和会(ふどうせいわかい)の内部抗争が激化するなか、自分の存在が久遠(くどう)の足枷とならぬよう、和孝(かずたか)は日本を離れる決意をする。そして、久遠の旧い友人だというディディエと、榊(さかき)とともに、モロッコで潜伏生活をすることに。一方、久遠は三島(みしま)の策略により舎弟を失い、対決はもはや避けられない局面を迎えていた。「生きるも死ぬも一緒だ。別の運命はいらない」瀬戸際の恋人たちを待ち受ける、衝撃の結末とは!?
初版限定 書き下ろしSS
特別番外編「口移しの微熱」より
寝室に入ってすぐ、久遠がサイドボードの上にあった本を手にとった。
「あー……それ? 今日買い物行ったときに本屋にあったから」
……続きは初版限定特典で☆
「VIP」2ndシーズン完結記念
高岡ミズミ先生スペシャルインタビュー
高岡ミズミ(以下高岡)たぶん緊張の糸が切れた状態です。思えばなにをしていても頭の隅っこに「VIP」がずっとあったんですが、それがなくなったことに最近気づきました。既刊の付箋がほとんどなくなったのと似たような感覚でしょうか。「VIP」から離れるわけではないし、現在進行形で書いてもいるんですが、やはり最終巻だな、と。ほっとしたというより、気が抜けたと言ったほうがいいかもしれません。きっと発売日が近づくと、一気に緊張すると思いますけど。
高岡1stシーズンは確か『VIP 蠱惑』のあたりでラストシーンと久遠の台詞を決めてました。久遠の入れ札の結末やBMが焼失すること、区切りになる10冊目の『VIP 残月』というタイトルもわりと何巻も前から考えていました。2ndシーズンでは変化をと意図的に真っ白な状態で書き始めました。おかげで毎回どきどきでした(『VIP 抱擁』を書く際には和孝が海外へ行くことは決めていて、今巻『VIP 祈り』で重要になってくるキャラの名前を出しているのですが)。担当さんに提案や助言をしていただきつつ、その都度修正を加えて道筋を定めていった感じです。そういう意味では流れに任せたとも、予想どおりとも言えるかもしれません。『VIP 残月』の巻末SSのタイトル「月の雫」をバーの店名にしているのは、ささやかなお遊び? こだわり? です。
高岡変わらない部分のほうを意識していたかもしれません。数々のトラブルを乗り越えてそれなりに学習して、自分の城を持って、仲間を得たことで立場も考え方も変わった和孝ですが、やはり根っこの部分は暴れ馬なので。相手が誰であろうとムカついたときは悪態をつくし、久遠に愚痴をこぼすし、一度こうと決めたら突っ走ります。久遠もずっと変わらないようで、和孝の変化によってやはり接し方はずいぶんやわらかくなったと思います。『VIP 接吻』で記憶をなくして以降は、中身は半分25歳を心がけました。あと、全体的なことを言えば、ラブとのバランスでしょうか。特に後半にいくほど裏社会パートの比重が大きくなってしまいがちだったので、そうならないよう気をつけました。
高岡揺らがない部分は存外書きやすい半面、その久遠が揺らいだときにどういう反応になるかのほうは気をつけました。慌てたり狼狽えたりしないけど、じつは自覚している以上に衝撃を受けているという部分が伝わっていることを祈るばかりです。
高岡一巻にワンシーン、お気に入りのエピソードと台詞を作る努力をしています。それがあるのとないのとでは自分のテンションが変わるので。……全編通してだとどこだろう。ここはあえて沢木や上総のパートを上げておきますか。近い人間が複雑な思いを持ちながらも主人公たちを見守っているというシーンは好みです。ふたりの場合は完全に久遠側に立っているというのがポイントかもしれません。
高岡カバーイラストは『VIP 流星』……と迷ったすえ『VIP 抱擁』です。と答えたいところですが、今巻『VIP 祈り』を拝見したあとではとても決められなくなりました。どれもふたりの表情や空気感に、胸がきゅうっとします。言葉は不要って感じがしてとても素敵ですよね♥ 挿絵はたくさんあってさらに迷うのですが、ここはやはり『VIP 熱情』115ページを上げておきます。あと『VIP 溺愛』の83ページもすごくないですか? 立っているだけでこの迫力。そして、榊と田丸の格好よさには「こんなキャラにしてごめん」と謝りたくなりました。
高岡過去に配信された電子オリジナルとはちがうものにしようと担当さんとコンセプト等を話し合いました。これまでは本編の補充メインだったのですが、今後は『VIP 祈り』のその後を書いていくスタイルになるかと思います。短編のよさを生かしつつ、バー「月の雫」(12月24日配信の『電子オリジナル VIP 女帝の純情』でやっとオープンします)を軸にして進めていけたらいいなあ、と。あと、ずっとリクエストいただいていた上総(と谷崎)の話も入れていきたい所存ですので、和孝や久遠、脇キャラに会いにきてくださるととても嬉しいです。どうぞよろしくお願いします。
高岡一口に10巻と言いましても、2ndシーズンが始まって3年と4ヵ月。1stシーズンからだとざっと16年以上。これほど長い間おつき合いくださった皆様には感謝してもしきれません。初ノベルスから5年目になる節目の年に第1巻が発売されたので、私にとってはこれまでのBL作家人生そのものだと言えるシリーズになりました。これもすべて手にとってくださる皆様と担当さんに恵まれたおかげだと、自身の幸運を噛み締めているところです。「VIP」のような長きにわたるシリーズは最初で最後だと思うと感慨もひとしおですが、ここでおしまいではありません! ひとまず来月、電子オリジナル第1弾が配信される予定になっていますので、今後の展開にも注目していただけましたら幸せです。いままで本当にありがとうございました。そして、これからもぜひ見守ってやってくださいませ。
「VIP」2ndシーズン完結記念
沖 麻実也先生スペシャルインタビュー
沖 麻実也(以下沖)まずはいただいた小説をじっくり読ませていただきまして、そこから出てくるもの(特にキャラクター達)を絵にできたら……と思っております。あと、時折編集部の方からテーマ的なお題を頂くこともあります。そういうリクエストは、楽しくてかなり燃えます(笑)。いつも、読者の皆様や関係者諸氏が喜んでくださる絵を描きたい、描ければいいな……と願っております。
沖久遠さん! 久遠さんを渋く格好良く描くこと(ツヤ消し&マットな感じで)。他のキャラにも言えることですが、前任の方の渋くて格好いいイメージからあまりに離れすぎては……と思いつつも、自分の絵柄的にどうしようもない所もあるので、そこはもう高岡先生や編集の方々の「大丈夫ですよ」というお言葉を信じて描かせていただいておりました。それでも一番最初の方は、久遠さんなど今見ると「……あれ、ちょっと違うかも」と思うようになったので、そこはもうホントに申し訳なかったなあ……と。
読者の方々には、長年脳内でセッティングされインプットされたビジュアルがあると思うので、それがガラッと変わってしまうのはしんどいしストレスだろうなあと申し訳なく思いつつも、色々な諸事情があって二代目を任されたからには、皆様にも作品にとっても「これはコレでありかな」と、少しでも受け入れていただければ良いな~、と思ってまいりました(それでも無理ーという方もいらっしゃるかもしれませんが、そこは「『VIP』が本になって読めるなら、まあ仕方ない」と思って隠していただければと思います、スミマセン)。
沖宮原さん。単にもう立ち位置とかビジュアルが私のドストライクな方なんです。キラキラ金髪なアルフレッドも描きやすかったので、1本目がスピンオフの『VIP 桎梏』だったのは良かったかなと。あと、ボンも榊も描きやすかったです。……みんな長髪キャラですね(笑)。
特に描きやすいわけではないけれど、和孝くんは楽しいです。最初の頃はちょっと可愛くなりすぎてしまった気がするので、「格好よくてスマートでめちゃくちゃ顔のいい20代の男」という外枠をより意識するようにしてました。久遠さんの伴侶という自覚がしなやかに逞しく育っている今、彼は(ビジュアル的に)もっと化けてもいいかもな~と思い始めてます。逆に難しかったのは前述のとおり久遠さんです。ホントはもっと色んな表情をしていると思うのですが、外向けの顔は常に不動のイメージなので、やっぱり難しいなあと。
沖実はというか、実は始めの頃は、沢木と津守を描く時にはうっかり似ないように……と (^^; あと、キャラではないのですがせっかく極道モノですので、そっち系スーツのオッサン達が絵に入る時は俄然もえました。ロングの久遠さん然り。思ったよりイケイケなチンピラは描けなかったのですが(いないし笑)。
沖え、一枚……(ツラwww)。 トータルでみて『VIP 接吻』かなと。候補は3つ、『VIP 溺愛』『VIP 渇望』『VIP 接吻』。『VIP 溺愛』はカバーデザインとイラストが最高にマッチして嬉しかったし、肩の力がちょっと抜けてくれたきっかけになった一枚で、『VIP 渇望』はその流れでイメージできた解放的な一枚でした。そして、いただいたお題が意外すぎて困惑&逆に楽しくなってしまった『VIP 接吻』。あ、カバーデザインが帯まで最高っていうのだったら『VIP 流星』もありました(4つやん……)。
モノクロは、秒で脳裏に浮かんだのが『VIP 溺愛』の83ページでした(スミマセン)。俯瞰でみた若頭の久遠さんの格好いい雰囲気を出したいと常々と思っていたので、描きたいイメージの立ちポーズが描けて嬉しかった一枚です。
沖終わっちゃったなあ……と思っていた時にいただいたお話だったので、またもう少し彼等を描かせていただけるのがとても嬉しいです。またタロット風とのお題を頂きましたので、そこも活かした楽しい絵になれば……と思っております。
(編集部注:4ヵ月連続ということで、4枚1組のタロットカードをイメージしたイラストをお楽しみに!)
沖上記にもいろいろ綴らせていただいておりますが、二代目担当の私を快く受け入れて下さった高岡先生をはじめ、選んで下さった編集部の方々、また戸惑いつつも受け入れて応援して下さった読者の皆さま方、本当にありがとうございました。己の未熟さに悶絶しつつも精一杯頑張らせていただきましたし、描かせていただけて光栄でした。少しでもお気に召した絵がありましたら幸いです。
特別番外編「意外性の日常」
高岡ミズミ
「え」
車のキーを回しても小さな機械音がしただけで、エンジンはいっこうにかからない。焦って何度か試してみたが、結果は同じだ。
「マジか」
最近はもっぱら小回りのきくスクーターばかり乗り回していたせいで、車を使うのは久しぶりだった。出がけに小雨が降っていたという理由からだが、まさかこんなところでトラブルに見舞われるなど予想だにしていなかったので、一瞬、運転席で固まってしまう。
「いや、駐車場だっただけマシか」
じっとしていてもしようがないので、パンツのポケットから携帯を取り出し、上階にいる久遠にかける。その傍ら車外に出てトランクを探り、ブースターケーブルを見つけたちょうどそのとき呼び出し音が途切れた。
「ごめん。たぶんバッテリーが上がった。エンジンがかからない」
久遠の車からバッテリーの電気を分けてほしいという意味でそう告げる。
『クランキングの音はするのか』
「一度だけカチッていったあとは、うんともすんとも」
『ルームランプは?』
「ルームランプ? ーーあ、つくね。ついでにオーディオも」
オーディオのボタンを押して流行のJ-POPを聴かせる。ということは――和孝の耳に、予想どおりの答えが返ってきた。
『バッテリーじゃないな』
「やっぱりか。うわ~。じゃあ、なんだろ」
バッテリーが原因なら自分でなんとか対処できても、それ以外となるとお手上げだ。レッカーを手配するしかなさそうだと肩を落としたとき、電話が切れ、久遠がエレベーターから降りてきた。
「ロードサービス頼むわ」
その手でロードサービスに連絡を入れようとした和孝だったが、自身の車から車載工具箱を取り出す久遠を見ていったん携帯をポケットに押し込む。
「なにかできそう?」
問う間にも軍手をはめた久遠は、工具箱からホイールナットレンチを手にしてボンネットを開けた。
いったいなにをするつもりなのか。興味津々で隣に立った和孝の前で、エンジンの近くをレンチでコンと叩いた。
「なにやってんの?」
「セルモーターの具合が悪いのなら、叩くと動くことがある」
「へえ、そうなんだ」
知らなかった。というより久遠が知っている事実に驚かされる。軍手をはめた手を見るのも初めてなら、その手にレンチを握っている姿なんてーー普段とはイメージがちがいすぎるのだから当然だ。
「なにをしている」
「えーーなにって、後学のために見ておこうかと」
ものめずらしくてじっと見つめてしまった気恥ずかしさをごまかし、一度咳払いをする。
「クランキングさせないと叩いただけじゃ意味がないだろう」
呆れを含んだ指摘に、「はいはい」とおざなりな返事をして運転席に戻った和孝は、セルモーターが叩かれるタイミングに合わせ、半信半疑でキーを回した。
すると、呆気なくエンジンはかかり、思わず声を上げる。
「嘘。やった! かかった」
ロードサービスを頼まずにすみ、胸を撫で下ろすと同時に久遠に礼を言う。車に関してはてっきり沢木に任せきりだと思っていたので、意外な一面を知ったような気がしていた。
「帰りにディーラーに寄って見てもらえ」
「わかってる。ていうか、久遠さんって、車好きだった?」
ドライブが趣味というわけではないし、通常はほぼ沢木の運転する組所有の車ばかり乗っているのでハンドルを握る機会自体が少ないはずだ。
「運転手をやめたあとも、先代が私用で出かけるときは送り迎えをよくやっていた」
軍手を外しながらの返答に、そうだったと納得する。木島の運転手をしていた久遠が車に詳しいのは当然だ。
「自分では運転免許を持っていなかったが、出かけるのが好きなひとだった」
ふ、と久遠の表情がやわらぐ。和孝自身は木島を知らないものの、どういう関係にあったか察するには十分だった。
久遠にとって木島は盃を交わした父親だが、おそらくそれはしきたりのみのことではなかったのだろう。
そういえば木島の娘との縁談が持ち上がっていたことは聞いている、あの話がもし実現していたなら戸籍上でも義父と息子の関係になるところだったとよけいな過去まで思い出した。
「…………」
当時の苦い思い出までよみがえってきて、慌てて振り払う。
「助かった。じゃあ、俺、帰るね」
「エンジンを切るとまたかからなくなる可能性もあるから、寄り道せずディーラーに行くことだ」
ありがたい助言に頷き、車のドアを閉めると、サイドブレーキを下ろす。エレベーターへ向かう頼もしい背中を見送ったあと、アクセルを踏んで車を発進させた。
「まだ知らないことだらけか」
きっと今後も、今日のように驚かされる場面に何度も出くわすのだろう。そういうひとつひとつの積み重ねこそがふたりの関係を作っていくのだ。
これから何年もかけて。
そう思うとやけに心が弾み、自然と頰が緩む。オーディオから流れる軽快な音楽に合わせて、和孝はいつしか自分でも口ずさんでいた。
(初出:『VIP 接吻』Amazon特典)
著者からみなさまへ
こんにちは。高岡(たかおか)ミズミです。あと1ヵ月足らずで2021年も終わろうかというこの時期に、いよいよ「VIP」2ndシーズン最終巻をお届けできることになりました。巻数のぶん思い出もいろいろありますが、いまはどんなコメントをすればいいのかふさわしい言葉が浮かびません。和孝(と久遠)が変わったところ変わらないところ、もがきながら出した答えを、沖先生の素晴らしいイラストとともに見届けていただけますととても嬉しいです。おつき合いくださった皆様、本当にありがとうございました!