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『電子オリジナル フェロモン探偵 偽者』

丸木文華/著 相葉キョウコ/イラスト

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STORY

『電子オリジナル フェロモン探偵 偽者』

大人気「フェロモン探偵」シリーズの書き下ろし番外編、4ヵ月連続で登場!

魔性のフェロモンを持つ美形探偵・映(あきら)の日常は、普通ではあり得ないトラブルばかり。助手兼恋人の雪也(ゆきや)に日夜溺愛されつつも、今日も懲りずに美少年を探し求めているーー。個展が大成功を収め、画家としてなお一層の名声を得た映。最近、その映の名を騙って女性を弄ぶ輩が出現しているらしい。ネット上では被害者が続出しており、映はなんとかして犯人を捕まえようと雪也とともに調査に乗り出すが……!?

著者からみなさまへ

こんにちは。丸木(まるき)です。映が再び注目されるようになればありそうなことだな、とまず思いついたのがこの『電子オリジナル フェロモン探偵 偽者』でした。映をよく知る人間ほど真似できるような人物ではないとわかっていますが、表面をなぞった情報しか知らなければ、露出が少ないぶんある意味名乗った者勝ちです。有名人にはよく偽アカウントが出現しますし、映もそういうものに悩まされそうだなと思って書きました。

special story

書き下ろしSS

『電子オリジナル フェロモン探偵 偽者』配信記念
特別番外編「誕プレ大作戦」
丸木文華

 
 夏川映は考えていた。
 来る八月八日は、相棒の雪也の誕生日だ。
「さすがに何かこう……イイ感じのことしねぇと、まずいよな」

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 映は真剣な顔で首をひねっている。ここまで雪也の誕生日について頑張って考えたことはなかったかもしれない。
 それというのも、ついこの前、妹の美月に言われた言葉がきっかけだった。
 ランチの最中、話の流れで何となく「そろそろ雪也の誕生日だわ」と口にすると、「今まで何あげてたの?」と聞かれ、正直思い出せなかった。
「何やったっけな……? なんか、いつもサラーっと過ぎていったような」
「え、そんな感じなんだ。あーちゃんたちって、あんまりアニバーサリーとか気にしない二人なわけ?」
「いや、あいつはめっちゃ気にする。気にしまくる」
 何しろ誕生日どころか出会った記念日だのイベントだの、細々とした日にちまでしっかり覚えていて、お祝いだ何だと豪勢な食事を作ったり、高級ホテルを予約したり、ビッグサイズの花束を買ってきたりするような男である。
 映は自身の誕生日にトラウマがあり、あまり祝われたくなかったのだが、その真相を知ってからは、それを塗り替えようとますますゴージャスなプレゼント攻めをしてくるのだ。
「俺がそういうの疎いからさ、全然忘れてていきなりバーンって祝われたりするから、びっくりするっつーか」
「……え、で、あーちゃんはその雪也さんの誕生日すら自分が何してきたか曖昧なの?」
「普通覚えてるもん?」
「そりゃ、ある程度はね。去年はこれやったから、とか、これあげたから、とか、じゃあ今年はこうしよう、ってなるじゃない?」
「えー。俺、マジで思い出せねぇ。もしかして何もやってないかも。ハハ、その可能性全然あるわー」
「……あーちゃん」
 美月は真剣な表情になり、ぐっと鼻先がつきそうなほど映に顔を近づける。
「あのさ、真面目に、そのうち白松さんに捨てられるよ?」
「ひえっ! な、なんで? てか顔近っ」
「いや、普通に人間関係、キャッチボールでしょうが。自分が投げっ放しで返ってこなかったら疲れるでしょ。どんな相手にだってさ」
 そう言われてみると、確かに映は雪也からあらゆるものを投げられまくってきた。日常の衣食住からシモのお世話まで、何から何までケアされてきて、そして自分が何を返せているのかといえば、最低ながらカラダくらいなのである。
「俺ってもしかしてヒモな感じ?」
「いやいや、気づくの遅過ぎでしょ。まあ、あーちゃんは顔と才能で人生乗り切ってきてるから、白松さんに対してだけじゃないと思うけどさ。でも、この関係続けていきたいって思うなら、ちゃんとキャッチボールはしなきゃだめだよ」
 関係維持のためのキャッチボール。そんなことは今までの人生で考えたこともなかった。
 もちろん考えるまでもなく、目当ての美少年がいれば気合を込めて取り入って関係を持ち、相手を怒らせないよう気を遣って爽やかに離れていく。
 しかし、念入りなトラウマのために、本当に一緒にいて欲しいと思う依存したい相手には心の内をすべてさらけ出すことはできず、歪みに歪んで、なんとかまっとうな恋人っぽい関係になれているのは、唯一雪也だけなのである。
「白松さん、手放したくないでしょ?」
「手放したくない」
「じゃ、きちんと誕生日プレゼントくらい考えてあげなくちゃ」
「絵が欲しいって言われたことはある」
「じゃあ、描いてあげればいいじゃん」
「それって安直過ぎねぇ? 何のひねりもないっつーか」
「ひねり以前に今までちゃんと気にしてこなかったんだから、ちゃんと白松さんが喜ぶことしてあげるのがまず大前提でしょ!」
 とにかくちゃんと考えなさいよ! としこたま説教され、今に至っている。
 雪也に捨てられるよ、という美月の脅しは大いに効果を発揮し、今、映は雪也が喜ぶことは何かとめちゃくちゃ真面目に思案しているのだ。
「絵は、鉄板だ。でも、だからこそ逃げって感じがするよな。つーか、俺がつまんねぇ。やるからには俺も楽しくなくちゃだめだ。なぜなら俺の時間を使うから」
 好きなことしかしてこなかった映の華麗なる俺様理論だが、実際、自分も楽しくなければ動けないので仕方がない。
 絵を描くことはもちろん好きだが、雪也のプレゼントとして描くとなるとまた話は別である。自分の描きたいものと雪也が描いて欲しいものは別だろうと考えると、なかなか絵筆を持つ気になれない。そんな気合の入らない絵は自分自身許せない。
 何を描いても雪也が喜ぶのはわかりきっていることだが、だからこそその上をいきたい。雪也をびっくりさせたいのだ。だが並大抵のことであの鋼鉄の心臓を持つ男がびっくりなどしないことも知っている。
「う───ん……困った……困ったぞ……」
 普段やらない家事をやれば驚くだろうか。以前少し料理はしたが予想通りの結果で特にびっくりはされなかった。家中を掃除してピカピカにしようか、とも思ったが、すでに雪也がピカピカにキープしている。
「何か買うにしたって、あの億万長者に何買っても驚きゃしねぇだろうし……俺にしか買えないものとかも別にねぇし……」
 そこは『映が選んで買った』という過程が大事だとわかってはいるが、何もかもを持っている男に渡すプレゼントほど難しいものはない。
「好みとかもあるだろうし……まあ、俺が渡せば何でも喜ぶだろうけど、そういうんじゃねぇし……やっぱり絵か? 絵しかねぇのか?」
 うんうん唸って考え込んでいるうちに頭が痛くなってきた。
 床の上を転がりながら何かいいアイディアはないかと頭の普段使わない部分を絞りに絞っていると、次第に妙なテンションになってくる。
 そうだ、絵だ。悲しいかな今は絵しか思いつかない。そして雪也をびっくりさせられて、映が描いて楽しいものでなければいけない。これまで描いてきたありきたりなモチーフではだめだ。今まで描いたことのない、そして雪也へのプレゼントとしてしか成立しない、唯一無二のものでなければならないのだ。
「そうだ! アレだ! アレを描こう!」
 映は奇妙な興奮に浮かされながら飛び上がり、早速制作に取りかかったのだった。

   ***

 八月八日当日。
「……こ、これが……映さんからの、プレゼントですか」
 雪也は映の力作を前に呆然と立ち尽くし、変に掠れた声で呟いた。
「うん、そう。驚いた?」
「そりゃ……驚き過ぎて、今、茫然自失です」
「そっかそっか! よかったー! 絶対雪也には驚いて欲しかったからな!」
「しかし……これは……」
 それは雪也の姿である。しかしある一部分に焦点を当て、そこを拡大し、詳細に描写したものだ。
 その反り返り、先端の照り、血管の這う塩梅、根本を飾る毛の一本一本を、映の凄まじい描写力によって芸術的に、生々しく、まるで本当にそこに存在しているかのようにキャンバスの上に描き込んだ渾身の一作である。
「最初は雪也の顔を描こうと思ったんだ。だけど、普通の肖像画じゃありきたり過ぎるじゃん? 他の画家にだって描けるし。で、俺にしか描けない雪也っていったらもう、これしかないだろ! この最大限にまで膨張した雪也! イヤってほど見てるからな。自分でもこれ以上ないくらいよく描けたと思うぜ」
「あの……ありきたりのもので十分、俺はよかったんですが……」
 雪也のふしぎな態度に、映は首を傾げる。
「これ、気に入らない? 俺の絵、欲しいって言ってたけど、イマイチだった?」
「いえいえいえ!! 映さんの絵は嬉しいですよ! ありがとうございますっ!」
 雪也は訝しげな恋人を強く抱き締め、激しく口づけする。
「本当? 何か変な汗かいてるけど」
「本当ですよ! 映さんが俺のために貴重な時間を使ってくれたのも感激です!」
「そう……? よかった。へへ。なんか雪也、調査対象のおっさんの顔の絵とか、額縁に入れて飾っちゃってるからさぁ。雪也のために何か描かねぇとなーと思って」
「嬉しいです……あの夏川映が、俺だけのために描いてくれたなんて、本当に……っ! ただ……っ……」
 雪也はあまりに見事に描かれた自分自身を見つめ、そしていたたまれないように目を逸らす。

「一体どこに飾れば……いや、飾ってはいけない……しかし……映さんが俺だけのために描いた絵……だが、しかし……っ」
 雪也は三日三晩葛藤し苦悩した。
 そして苦悶の果てに、映からのプレゼントは厳重に包まれ、金庫の奥深くに保管されたのだった。

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Interview

「フェロモン探偵」4ヵ月連続配信記念!
丸木文華先生 スペシャルインタビュー


「フェロモン探偵」ファンにはたまらない電子書き下ろし作品が、4ヵ月連続で配信です。
4作を書いてみていかがでしたか? 今のお気持ちをお聞かせください。

丸木文華(以下丸木)4作それぞれを違う方向性で書こうとまずプロットを出したのですが、短編を書くのは 楽しい一方、一遍に4作ということで、異なるタイプの話を書くために一度気持ちをリセットするというか、切り替えを細かくしなければいけなかったので、そこが少し大変でした。

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それぞれ、時系列的にはどのあたりのお話になりますか?

丸木 すべて本編が終わった後のお話になります。4作の間での時系列の前後というのは設定していません。

4作それぞれは、どんなお話になりますか?

丸木 連作ではなく、それぞれ独立しています。
1作目『偽者』は本編からそのまま続いていそうな映と雪也の探偵物語。
2作目『幼い依頼人』は少し異色のお話です。
3作目『悪魔』はこれぞ短編という感じのミステリアスなお話。
4作目『解釈違い』は拓也が主役かもしれないコメディ色の強いお話です。

映と雪也について、丸木先生おすすめのシーンを教えてください。

丸木 映は3作目『悪魔』でちょっと探偵っぽい観察眼を(珍しく)披露します。雪也は1作目『偽者』で探偵助手として、そして最後に番犬としての役割を立派に果たします。

最後に読者の皆さまへ、メッセージをお願いします。

丸木 久しぶりに「フェロモン探偵」のお話がまた書けて嬉しかったです。続きを読みたいと仰ってくださるお声を励みに、また皆さまに面白いと思っていただけるものをお届けできたらと思います。それぞれ長くはない話ですが、楽しんでいただけたら幸いです!

ありがとうございました!

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