STORY
定価:858円(税込)
大人気「VIP」シリーズ、新たなる波瀾の幕開け!
仕事依頼のため新進気鋭の彫刻家・五十嵐ルカの自宅を訪れた和孝は、エキセントリックなルカの言動に戸惑いを覚えつつも、彼の思惑に巻き込まれてしまう。一方、久遠は旧友のディディエに懇願され、イタリア系富豪・ロマーノ家の隠し子であるジョシュアを匿うことに。だが、問題のジョシュアには隠し子というだけでない、また別の重大な秘密があるらしく……?
定価:858円(税込)
仕事依頼のため新進気鋭の彫刻家・五十嵐ルカの自宅を訪れた和孝は、エキセントリックなルカの言動に戸惑いを覚えつつも、彼の思惑に巻き込まれてしまう。一方、久遠は旧友のディディエに懇願され、イタリア系富豪・ロマーノ家の隠し子であるジョシュアを匿うことに。だが、問題のジョシュアには隠し子というだけでない、また別の重大な秘密があるらしく……?
初版限定 書き下ろしSS
特別番外編「参謀の安息日」より
沢木から穏便に解決した旨の報告を受けた上総は携帯をサイドテーブルに置くと、長いため息をこぼす。最悪のケースも想定していたぶん、柚木の身が無事だったこと以上に、今回のことが個人的な問題だった事実に安堵していた。
……続きは初版限定特典で☆
『VIP 共鳴』刊行記念
特別番外編「最高のシェフ」
高岡ミズミ
学生時代を除くと、近年は親しい女性もいないため、友人に誘われた際は別として個人的に外食をすること自体、津守にとっては稀だった。というのも津守家には専属の料理人がいて、子どもの頃から家族の誕生日やクリスマス等のイベントも自宅で行うのが慣例となっているのだ。
だが、いつまでもいまの立場にあぐらをかいているわけにはいかない。Paper Moonでは接客担当とはいえ、飲食の知識と経験は必要だろう。という理由から定休日には極力外食するようにしていたが、今日は夕食のあとに思い立ち、恵比寿へとタクシーを走らせた。
「あれ、津守さん」
タクシーを降り、路地に足を向けたところで思わぬ人物とばったり出くわす。いや、確かにこのタイミングに関しては偶然だけれど、会ったのは少しも意外ではなかった。
考えることは一緒、というわけだ。
「僕たちの目的地、同じみたいですね」
村方の言葉に頷くと、緩く傾斜している路地を肩を並べて歩く。まもなく到着したそこは、『月の雫』という店名にふさわしい外観だった。
中へ入ると、ウェイティングルームに通される。他に客はおらず、ソファに腰を落ち着けるまでもなく店内へと案内された。
「わ」
一歩足を踏み入れた途端に村方が小さく声を上げたのは当然だった。
深紅の絨毯、黒を基調としたテーブルや椅子。あたたかみのあるオレンジ色の照明。十ほどあるテーブル席は背凭れが高く、隣席との間隔も広くて文句のつけようがない。
聞いてはいたものの、想像以上に店内はラグジュアリーな雰囲気を醸し出しているし、なによりディスプレイされたボトルの数は圧巻だ。
これほど充実しているなら客は満足だろう――と簡単にいかないのが飲食業の難しさで、やはり客の入りは寂しい限りだった。
村方とふたり、店内を見渡せる窓際のテーブル席につく。ただの客として過ごすつもりでいるが、もちろん本音はちがうため、それとなくスタッフや客層を窺った。
「カクテルの種類が多くていいですね。でも……」
ちらりと村方がカウンター席に視線を送った。言葉にされなくても言いたいことは十分伝わってくる。客が少ないせいだろうか、バーテンダーはひとりの女性客とやけに親密な様子で話し込んでいた。
客との会話は重要だが、やりすぎてもよくない。彼は明らかにやりすぎだ。
「値段は多少高めだな。けど、いい店じゃないか」
津守がそう言うと、村方が上下に大きく頭を動かす。
「本当に。やっぱり来てみると、俄然やる気になりますよね」
これには同感だった。じつのところ津守自身は、つき合い程度にしかアルコールを飲まないのでバーには数えるほどしか行ったことがない。ここ数年は家業絡みの酒席が多いため、その大半はパーティやイベントだ。
が、『月の雫』がいい店であるのは間違いなく、村方の言うとおりこれまで以上に前向きな気持ちになる。
「宮原さんがスタッフに応募したいって、あれ、本気でしょうか」
「本気じゃないかな。あのひと、たまに突飛な行動に出るし」
「だったら、またみんなで働けますね~」
村方の愉しげな表情を前にして、津守も頰が緩む。クリアしなければならない問題が山積しているとわかっていても、そうなればいいと期待するのは致し方なかった。
村方はモスコミュールを、自分はレッドアイを注文して三十分ほど店内で過ごす。その間他愛ない話に終始し、早々に店を出たが、大通りでタクシーを探しているときにふと村方が呟いた。
「なんだか小腹が減りましたね」
言われてみれば、と津守は腹へ手をやる。
「いまむしょうに、オーナーの作ったホットサンドが食べたくなりました。ハムとチーズのいっぱい入ったホットサンド」
これにも素直に同意した。
「俺は、卵サンドだな」
「津守さん、ほんと卵サンド好きですよね。マヨネーズ入ったヤツ」
「あれ、パンがさくっとしてて、卵はふわふわしてるんだよな」
そういうやりとりをしたせいで、ぐうっとふたりの腹の虫が合唱する。とうとう耐えられなくなったらしい村方はおもむろに携帯を取り出すが早いか、いきなり電話をし始めた。
どこへと問うまでもない。まさかと思ったが、そのまさかだった。
「あ、オーナー。いまなにしてます?」
おい、と小声で窘める。いくらなんでも休日の夜にサンドイッチを作らせるつもりかと、村方に向かって首を横に振っても、当人はお構いなしに言葉を重ねる。
「じゃあ、ひとりなんですね。よかった。じつはいま津守さんと一緒にいるんですが、急にオーナーのホットサンドが食べたくなって、レシピを教えてほしくて電話してしまいました」
レシピか、と胸を撫で下ろす。
しかし、それも一瞬で、村方の顔が綻んだ。
「え、ほんとですか。じゃあ、お言葉に甘えて、いまから伺います!」
結局、案じたとおりになる。村方にしてもこの展開を多少は期待して電話をかけたのだろう。向こうからやってきたタクシーに上機嫌で右手を上げた村方の行動力にはいっそ感心する一方で、いくら柚木が承諾してくれたとはいえ、ふたり揃って押しかけるのは気が引け、自分は辞退する旨を告げたのだが。
「え、行きましょうよ。オーナー、卵サンド作ってくれるって言ってましたよ。マヨネーズ入りの、ふわふわしたの」
「…………」
ふたたび、ぐうと腹が音を立てた。卵サンドの誘惑に抗うのは難しい。柚木のことだから、どうして津守くんは来なかったんだよ、せっかく卵サンド作ったのに、と明日残念そうな顔をするのは間違いなかった。
ふわりと甘い卵の味が口の中に広がったような気がして、生唾を嚥下する。
目の前に停まったタクシーに迷ったのは一瞬で、結局、村方のあとから乗り込んだ。
「愉しみですね」
もはや村方の行動にはなにも言えなかった。いまは専属料理人の作るどんな豪華な料理よりも柚木の卵サンドが食べたい。それはまぎれもなく本心だった。
(初出:『VIP 接吻』アニメイト書店特典)
『VIP 共鳴』刊行記念
沖 麻実也先生スペシャルインタビュー
沖 麻実也先生(以下 沖)芸術家なので多少髪がもっさりしている方が雰囲気が出るかなと。基本は本文を読んで……のイメージですが、彼の具現化の補助として、海外の俳優モデル等、セレブなメンズ画像をたくさん摂取してみました。
沖とにかく久遠さんの立ち位置に悩みます。人前で安易にイチャイチャは絶対しないだろうし、かといって離れすぎても貫禄のせいで保護者にみえても困りますし……。シチュエーションのアイディアやリクエスト、絶賛プリーズです(←わりと本気で……)。
沖高級車とか銃とか、色々ゴツいシチュエーションの多かった今回ですが、イチオシといえば、やはり唯一の和テイストなシーンです。本作内にあるホテルシーンの久遠さんと見比べていただくのも一興かと存じます(笑)。
沖巻を追うごとに和孝の姐さん的なタフさが際だって美味しい「VIP」ですが、今回はとある人物の登場により、余計にソレが引き立ちます(と思います)。正直、次巻が楽しみでしかたがないです。
沖実は今回の『VIP 共鳴』と対になるようなキャラ指定を頂いております。あと「両手に花」という裏テーマ。上記の回答とかぶりますが、久遠さんが保護者にならないようにと、それだけが気がかりです。
著者からみなさまへ
こんにちは。「VIP」の新作を上梓できることが決まってからずっと嬉しさと緊張とでそわそわしている状態です。今作は、カバーイラストがいつもとちがって三人なのですが、新キャラが表紙を飾るのはもちろん初めてのことです。中身につきましても、外伝、もっといえば劇場版みたいな位置づけの話になっているかと思いますので、沖 麻実也(おきまみや)先生の描かれた三人の美麗イラストをまず愉しんでいただいてから、お読みいただけますととても嬉しいです。なんと! 一緒に『漫画版 VIP』のコミックスも発売されることですし! どうぞよろしくお願いします。
⇒『漫画版 VIP』(ハニーミルクKC)には高岡ミズミ先生の書き下ろし前日譚を収録!
電子版先行配信中。コミックス版は10/7頃発売。