STORY
定価:869円(税込)
その言葉に胸が震え、時間が止まる――
和孝の店『Paper Moon』が営業を再開した。ようやく日常を取り戻したタイミングで父から連絡が入り、和孝は複雑な気持ちに。時を同じくして、かつて巻き込まれた裏カジノ騒動が尾を引き再燃し、久遠と和孝の身に、再び火の粉が降りかかるのだった……。恋と呼ぶにはあまりに強く、愛と呼ぶには甘すぎるこの想いは、決して断ち切れず、やがて永遠へと昇華する。究極にして至高の「VIP」、ここに登場!
定価:869円(税込)
和孝の店『Paper Moon』が営業を再開した。ようやく日常を取り戻したタイミングで父から連絡が入り、和孝は複雑な気持ちに。時を同じくして、かつて巻き込まれた裏カジノ騒動が尾を引き再燃し、久遠と和孝の身に、再び火の粉が降りかかるのだった……。恋と呼ぶにはあまりに強く、愛と呼ぶには甘すぎるこの想いは、決して断ち切れず、やがて永遠へと昇華する。究極にして至高の「VIP」、ここに登場!
初版限定 書き下ろしSS
特別番外編「ある日」より
ベッドから身を起こした久遠は、サイドテーブルの上の携帯に手を伸ばして時刻を確認する。アラームをかけることはない。長年の習慣で、何時に寝てもほぼ同じ時刻に目が覚める。
……続きは初版限定特典で☆
『VIP 永遠』
特別番外編「BONBON」
高岡ミズミ
「まったく困ったものです」
部屋に入ってきてすぐ、開口一番の言葉になにがあったのかと視線で問うた久遠に、上総は階下を指差しながら苦笑した。
「今日は、バレンタインデーですからね」
「ああ、そういうことか」
毎年の恒例の騒ぎだ。実際、シマ内のバーやクラブからは組事務所に相当数のチョコレートが送られてくるし、差出人、あて名が個人名の場合も少なくない。
「特に若い奴らは朝からそわそわして、仕事になりません」
これに関しても、そうだろうなと思う。なにしろ偶然、店の定休日と重なった和孝が、
――今年は大人仕様でいくから。
と朝から意気込んでいたくらいだ。もともとその手のイベントには興味がなかったという和孝ですら、環境によってスタンスも考え方も変わったらしい。バレンタインデーのみならず、クリスマスに正月、節分、花見、ハロウィーン。身近な人間の誕生日は言わずもがなだ。
「区切りがついた者から帰してやれ」
仕事にならないのならしようがない。上総にしても初めからそのつもりだったのだろう、はい、とすんなり承諾する。
「あなたも急ぎの案件はないでしょう。もう今日は上がってもいいんじゃないですか?」
さらにそう言った上総の提案を、断る理由はなかった。もっとも上総が気にかけたのは自分ではなく、和孝だとわかっていたが。
「そうするか」
一服したあと、沢木を呼び出し帰路につく。一ヵ所寄り道をしてマンションへ帰り、地下駐車場でエレベーターに乗ったとき、ちょうどスクーターで戻ってきた和孝と鉢合わせした。
「早かったんだね」
走ってエレベーターに乗り込んだ和孝とともに上階へ向かう。どうやら冴島診療所に顔を出してきたようだった。
冷たい外気にさらされて少し赤らんでいる頰に手をやり、指先で擦ってやると無意識なのか和孝のほうでも擦り寄ってくる。いまや家猫、と以前当人が言った一言を思い出した久遠は、まさにそのとおりだと頰を緩ませた。
「冴島先生にはトリュフチョコを作ったんだけど」
ついでに買い物をしてきたらしく、部屋に着くなりバッグから取り出した食材を冷蔵庫にしまう傍ら、和孝は冴島の様子を口に上らせる。
「饅頭も買っていったんだよ。あの爺さん、どうせトリュフも伊塚さんに押しつけるに決まってるし。案の定、饅頭のほうを喜んだからな」
文句を並べつつも愉しそうなのは、久しぶりに冴島と会えたからだろう。冴島にしても、口ではなんのかの言ったところで伊塚に押しつけずに自分で食べるにちがいない。
「で、これは久遠さんに」
テーブルに箱が置かれる。ずいぶん手をかけたようで、紺色の箱に金のリボンでラッピングされていた。
「俺からも」
帰宅途中、酒屋で購入したシャンパンを箱の横に並べる。途端に照れくさそうな笑みを浮かべた和孝が、やった、という一言のあと、グラスをふたつ用意した。
「明るいうちに飲むシャンパン、贅沢だよな」
シャンパンの栓を抜くと、小気味いい音が室内に響く。グラスに注ぎ、一方を和孝に渡してから、久遠は箱を手に取った。
リボンを解き、蓋を開ける。さすがというべきか、小さな金箔がひとつのった楕円形のウィスキーボンボンは店で売っているものと遜色ない出来映えだった。
立ったままひとつ摘まんで、口に放り込む。甘さと苦みが程よくマッチし、なるほど大人仕様だ。
「よくできてるな」
「まあ、これでもシェフの端くれですし」
グラスを合わせてからシャンパンを一口飲んだ和孝が、なにかひらめいたらしく、にっと唇を左右に引いた。
「ウィスキーボンボンシャンパン風味、っていうのはどう?」
そう言うが早いかウィスキーボンボンを舌の上にのせ、悪戯でもする子どものような顔をして誘ってくる。
「お勧めか?」
「もちろん」
頷くのを待って、すぐ傍まで歩み寄った。
「それなら試してみるしかない」
グラスを置いた久遠は、その一言でウィスキーボンボンごと舌を食み、口づける。思ったとおりの味だ。
それ以上の心地よさには返答する代わりに行動で示す。あっという間に「ウィスキーボンボンシャンパン風味」が口中で溶けてなくなってからも抱き寄せた腰を解放せず、大人仕様の唇を存分に味わったのだった。
著者からみなさまへ
こんにちは。高岡(たかおか)ミズミです。このたびはおかげさまでシリーズ最新刊をお届けできる運びとなりました。心から感謝しています。『永遠』というタイトル、特別感がありますよね。ロマンティックな、ときめきワードです。私的にも特別な1冊になった今巻、お迎えいただけましたらとても嬉しいです。そして、沖麻実也(おきまみや)先生の素敵なイラストとともにふたりを見届けていただけましたら、これ以上の喜びはありません。