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『電子オリジナル VIP 運命の皇帝』

高岡ミズミ/著 沖 麻実也/イラスト

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STORY

『電子オリジナル VIP 運命の皇帝』

孤高の皇帝――久遠を、決して独りにはしない。それが和孝の愛だ。

命を削るような日々が一段落し、少しだけ穏やかな日常を取り戻した久遠(くどう)と和孝(かずたか)。しかし、和孝のもとを訪れた久遠は、なぜか自分を迎え入れる恋人の機嫌が悪いことに気づく。それはどうやら、パパラッチめいた週刊誌の女性記者に久遠がターゲットにされたことと関係しているようなのだが……? 恋人たちのつかの間の休息を描く、「VIP」電子オリジナル第4弾!

著者からみなさまへ

こんにちは。高岡(たかおか)です。電子オリジナル4ヵ月連続配信、とうとうラストまできました。4ヵ月があっという間だったことに震えつつ、ラストは『VIP 運命の皇帝』、久遠のお話をお届けしたいと思います。今回の電子オリジナル1作目『VIP 女帝の純情』の続きといいますか、セットになっているお話なのですが、もちろんこれだけでも大丈夫だと思いますので、締めくくりとしてお迎えいただけたらと切に願っております。沖(おき)先生による素敵な久遠とともに少しでも楽しんでいただけますよう、なにとぞよろしくお願いします。

special story

書き下ろしSS

『電子オリジナル VIP 運命の皇帝』特別番外編
「マルボロ」
高岡ミズミ

 
 ほろ酔いかげんで皿洗いをする傍らソファでくつろいでいる久遠へなにげなく目をやる。テーブルの上の灰皿を引き寄せながらマルボロに火をつけ、一服する久遠の姿に釘付けになるのは、なにもいまに始まったことではない。

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 マルボロの匂いに惹かれるのは雛の刷り込み同然だとしても、いまだ見惚れてしまうのはどうかしている、と自分でも呆れるばかりだ。通い慣れた久遠の自宅でリラックスした様子を見ることなど、もはやめずらしくもなんともないというのに、この体たらくなのはどういうことなのか。
 伏し目がちに煙草を唇にのせたあと、顔を上げて天井へ向かって煙を吐き出す、それだけの仕種にもかかわらず目が離せなくなるのだ。
 髪を搔き上げる右手。煙草を摘まむ長い指。胸元の釦がひとつ外されていることによってあらわになった、喉仏からその下の窪みにかけてのライン。
 上体をソファにあずけた久遠が、煙草を挟んだ指でこめかみを押さえる。かと思うとふっと口許を綻ばせたその表情にどきりとし、皿を洗う手を止めた。
 案の定、こちらを向いた久遠と視線が合い、気恥ずかしさから顔をしかめる。
「なに笑ってるんだよ」
 ついでに舌打ちをする。どうせなら気づいた時点で言うか、知らん顔をしてくれたほうがよほどマシだった。
「いや、あまりに熱烈だったから、無視していられなくなった」
「なにそれ」
 皿洗いを中断した和孝は、ソファに歩み寄ると隣に腰かける。
「見られるのには慣れてるんじゃないの?」
 多少の皮肉がこもるのは致し方ない。無論、久遠へというより周囲に対して、だ。いったい久遠のなにが知りたいというのか、インタビューは申し込まれるし、なにかと経歴や外見を取り沙汰されるし、五代目となった現在は不動清和会内外のあらゆる組織からのアピールが凄まじいと聞く。
「そうでもない。近づいてくるのはいろいろな意味で欲に駆られた奴ばかりで、そういう目で見てくるのはおまえくらいだな」
 そういう目がどういう目なのかはわからないものの、うんざりした様子の久遠には少なからず同情する。半面、群がってくる者たちの心情も理解できないではない。なにしろごく普通の家出高校生だった自分がこうなっているのだから。
「まあでも、それを言ったら俺だって欲まみれだし」
 世間にどう見られようと傍にいたい。久遠が無事であればいい。そう思うのは欲以外のなにものでもないだろう。しかもいまだけではなく、ふたりの幸せな未来まで得ようとしているのだ。
「どうしてやろうかって下心でいっぱい」
 久遠の首に腕を回す。肩口に鼻先を埋め、マルボロと整髪料の混じった匂いを嗅ぐと、いつもそうであるように心が震えた。
 片笑んだ久遠が、吸いさしを灰皿に押しつける。
「そうだったな」
 ようは単純な話だ。同じ欲であっても、惚れた相手の欲は心地いい。現に自分を見てくる久遠の双眸に熱がこもる瞬間に、いつもたまらなくときめく。
「ってことで、村方くんお薦めのホラー映画を観よう」
 久遠から離れ、ソファの横に置いていたバッグから村方に借りたDVDを取り出す。
「先週もじゃなかったか?」
「そう。いま俺のなかでホラーブーム来てるから」
「ブームね」
 DVDをセットして隣に戻った和孝に、久遠がひょいと肩をすくめた。
「怖がるくせに」
「ホラー映画は怖がるために観るものだろ?」
 怖いからこそいいのだ、と久遠にぴたりと身体をくっつける。これで準備万端。あとは久遠の横で心ゆくまでホラー映画に没頭し、思い切り怖がるだけでよかった。
「愉しそうでなによりだ」
 これには迷わず頷く。
 ふたりで過ごす他愛のない時間が愉しいし、自分たちがどこにでもいる普通のカップルだと実感できるという点では嬉しくもある。
 ホラーブームというより“久遠と一緒に映画鑑賞”ブームだな。内心で呟いた和孝は、久遠の腕に自身の腕を絡めると、密着したまま存分に映画を堪能した。

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