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『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞2 蜃気楼』

篠原美季/著

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STORY

『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞2 蜃気楼』

電子オリジナル第2弾!

桃里理生(とうりりお)がセント・ラファエロ学院に来た目的のひとつは「蟠桃(はんとう)の木」を探すことだ。紆余曲折あって学院内にお目当ての蟠桃の木を見つけたが、そこに異界への扉が開いていることがわかり、監視の必要が生じたため、理生の任務は続行されることに。ところが学院で過ごしている理生の体調が、なぜか次第に悪化してしまう。これには超常的な力が働いていると気づき、理生は原因を究明すべく調査に乗りだすが……?

著者からみなさまへ

こんにちは、篠原美季(しのはらみき)です。『セント・ラファエロ異聞2 蜃気楼』をお届けします。ユウリの時と違い、なかなか人間関係が複雑で苦労している理生ですが、きっと彼らしく前に進んでいってくれるのではないかと思います。そんな理生と、我らがユウリは、どうかかわっていくんでしょうね。そして、懐かしの桃里 馨(かおる)は出てくるのか!? 今後の展開に乞うご期待です!!

special story

書き下ろしSS

『セント・ラファエロ異聞1 東方の使者』とリンクする特別番外編
「ユウリ・フォーダムの帰り道」
篠原美季

 
 イギリス西南部にある全寮制パブリックスクール、セント・ラファエロ。
 そこの第二学年に編入することになった桃里理生の身元引受人としてこの学校を訪れていたユウリ・フォーダムは、用が済んだところで関係者へ暇を告げにまわった。

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 すると、行く先々で別れを惜しむ人々によって時間を取られてしまい、最終的にかなり早歩きで校舎を出ることとなる。
 そんな彼の頭上を、一台のヘリコプターが飛び去った。
 一瞬、足を止め、まぶしそうに空を見あげたユウリは、すぐにまた正門へと続く道を歩き始める。
 湖を内包するこの学校の景観は、いつ見ても素晴らしく、歩きながら、ユウリはきらめく湖面に目をやった。彼自身、ここの卒業生であり、この場所には今もって胸を躍らせるようなキラキラした思い出がたくさん詰まっている。
(やっぱり、懐かしいなあ)
 ユウリにとって、ここで過ごした日々はなにものにも代えがたい大切な時間であった。
 愛しき青春の日々──。
 その後、湖が途切れ、あとは雑木林が続くだけの道に入る間際、ユウリはふたたび足を止め、湖のほうに向かってつぶやく。
「また来ます」
 すると、まるでそんな彼を見送るように、湖面でキラキラとした輝きが四方八方に飛び散った。
 ちなみに、ユウリと理生が乗ってきた車は、正門脇に停めてある。
 セント・ラファエロでは、校舎の近くに駐車場が完備されていて、本来ならそちらに停めるのが安全であるのだが、理生に公営バスの停留所の位置を教えたかったのと、正門から校舎まで行く間の景色を見せておいたほうがいいだろうという思いがあって、わざわざ長い道のりを歩くことにしたのだ。
 そして実際、この転校にあまり乗り気ではなさそうだった理生も、湖の景観が見えた時だけは、少年らしく顔を輝かせていた。その姿に、以前の自分を重ね、ユウリはつい口元をほころばせてしまった。
 思い出し笑いをしているユウリを、車の脇に立っている高雅な青年が迎えた。
「やあ、ユウリ。──随分と楽しそうだね」
 シモン・ド・ベルジュ。
 ユウリと同じくこの学校の卒業生で、ユウリの大親友でもある彼は、本日も降臨した大天使を思わせる神々しさである。
「あれ、シモン!?」
 驚いたユウリが、駆け寄りながら尋ねる。
「びっくりした。──いったいどうして?」
「いや。きっと、君、帰り道は暇になるだろうと思って、飛んできたんだよ」
 それは比喩でも誇張でもなんでもなく、本当に「飛んできた」ということだ。つまり、先ほど見たヘリコプターは、彼を降ろして飛び去ったものだったのだろう。
「そうなんだ、すごく嬉しい」
「それはよかった」
 応じながら、シモンはユウリのほうに片手を差し出した。その意味することを察したユウリが、ポケットを探り、車のキーを取り出して渡す。
 受けとったシモンは、電子ロックを解除して運転席に乗り込むと、上着を後部座席に軽く投げ入れ、エンジンをかけた。
 そこまでの動作のスムーズで優美なこと──。
 感心しながら、ユウリは助手席側へとまわり、乗り込んだあとで自分も上着を後部座席に置く。
 実を言うと、当初、ここへは、ドライブがてら、シモンとユウリと理生の三人で来る予定であった。日本からの転入生であれば、シモンのような、いかにも西洋人という見た目の人間に慣れておくのもいいと考えてのことであったが、ヒースロー空港でかなりナーバスになっている理生の様子を見たユウリは、すぐさまシモンに連絡し、事情を説明した上で、ひとまず今回は自分と理生の二人で行くと告げたのだ。
 もちろん、シモンはユウリの言葉を尊重してくれた。
 だが、考えてみれば、行きはともかく、帰り道のユウリはフリーで、その時間がもったいないと考えたシモンは、ヘリコプターをチャーターして、ロンドンからユウリを追いかけて来たというわけだ。
 走り出した車の中で、シモンが尋ねる。
「──で、彼は大丈夫そうかい?」
「……どうだろう」
 悩ましげに応じたユウリが、「いろいろ」と言う。
「大変そうだからなあ」
「いろいろ?」
「うん。──習慣の違いとかもあるだろうし、他にも説明できないようないろいろ」
 わかりにくい解説をものともせずに納得したシモンが、「なるほど」と言って続けた。
「性格は、君と同じで内向的なのかな?」
「わからない。──今は、ひたすら内に向かっているみたいだけど、馴染めば、案外外交的なのかも」
「でも、こういうところは、第一印象が大事だから」
「そうだね」
 そういう意味では、理生の場合、溶け込むまでに時間がかかりそうである。
それでも、ユウリにシモンのような頼りになる友人がいたように、理生にもそんな友だちができればいいのだが──。
 ユウリが、「たまに」と続けた。
「様子を見に来ることにするけど、まあ、なんといってもマクケヒト先生がいらっしゃるから、大船に乗った気ではいられそう」
「ああ、マクケヒト先生か。──懐かしい」
 どこか意味深に繰り返したシモンが、「たしかに」と認める。
「あの人がいれば、安心か」
「うん」
 うなずいたユウリが、「あ、ねえ、シモン」と運転席のほうに顔を向けて誘う。
「さっき、アレックスが教えてくれたんだけど、この近くに、アップルパイの美味しい店があるんだって。──見つけたら、寄っていかない?」
「いいね」
「やった。──なら、もう一度、アレックスに場所を確認してみるね」
 イギリスの風光明媚な田舎道。
 腕を伸ばして、背後に置いた上着のポケットからスマートフォンを取り出すユウリの横では、シモンが慣れたハンドルさばきで軽快に車を飛ばしていた。

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