講談社BOOK倶楽部

  • オカルトロマン
  • 初版限定特典あり

眠れる森の夢魔 英国妖異譚SPECIAL

篠原美季/著 かわい千草/イラスト 定価:880円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

STORY

眠れる森の夢魔 英国妖異譚SPECIAL定価:880円(税込)

英国妖異譚に完全新作登場!
パブリックスクール寮内で起きた夢魔騒動の真相は!?

英国の全寮制パブリックスクール、セント・ラファエロに通うユウリ・フォーダムとシモン・ド・ベルジュの周りでは、不思議なことが起きがちだ。今回はある生徒が金のラペルピンを自慢したことから諍いが起き、のちに寮内で「夢魔(インキュバス)」が出るという噂が立ったりカエルの惨殺死体が複数見つかったりしたが、その理由も犯人もわからないままなのだった。ユウリたちは、これら一連の謎を解明すべく調査に乗り出すが……。

著者からみなさまへ

こんにちは、篠原美季(しのはらみき)です。『眠れる森の夢魔 英国妖異譚SPECIAL』です。「なぜ、今、『英国妖異譚』?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、まあ、原点回帰と思っていただけたらありがたいです。昔のキャラクターを書こうとすると手に馴染むまでに時間がかかりますが、馴染んでみれば、やっぱりセント・ラファエロ時代のシモンはかっこいいし、学校生活を書くのはとても楽しかったです。ぜひ、ご一読を!!

初版限定特典

特別番外編「適材適所の法則」より

初版限定 書き下ろしSS
特別番外編「適材適所の法則」より

「最近、おかしな夢を見るんです」
「おかしな夢?」
「その、なんていうか、とってもいやらしい夢で、僕、ちょっと変態なのかなって怖くなってしまって」 ……

…続きは初版限定特典で☆

special story

書き下ろしSS

『眠れる森の夢魔 英国妖異譚SPECIAL』
特別番外編「シモン・ド・ベルジュの痕跡」
篠原美季

 
「これが、ベルジュの上着を預かった手」
 自分の両手を出して自慢する生徒が、「昨日から」と続ける。

続きを読む

「洗っていないんだ」
「え、汚くない?」
 友人の突っ込みにも焦らず、その生徒は言う。
「大丈夫。汚れることをする時は、使い捨て手袋をつけているから」
「なるほど~」
「賢い」
「え~、いいなあ」
 友人たちが羨ましそうに見守る中、その生徒は空に翳すように両手をあげてうっとりと言う。
「なんか、ベルジュの上着って、いい匂いがしたんだよね」
「へえ、香水かな?」
「かもしれない。柑橘系で、でも少し甘さもあって、すんごくいい匂い」
「そうなんだ」
「その匂いって、手に移らなかったのか?」
「どうかな」
 言いながら、その生徒が自分の手の匂いをかごうとした時だ。
 パシャッ
 その生徒に向けて、輪の外から水がかけられた。
「うわっ! 冷てえ」
「カイル、大丈夫?」
 驚いて輪を崩した生徒たちがまわりを見まわすと、すぐ近くに別の寮の生徒たちがたむろしていて、その中の一人が水のペットボトルを持っている。
 水をかけたのは、間違いなくその生徒だ。
 水をかけられた生徒――カイルが、いきり立つ。
「なにすんだよ!」
「バーカ。そっちが、変な自慢をしているから悪いんだろう。ベルジュはうちの寮長なんだから、お前らにあの人の持ち物を自慢する資格はない!」
 ケンカを吹っかけてきた相手がヴィクトリア寮の寮生だとわかったカイルたちが、「だからって」と応戦する。
「水をかけることないだろう!」
「うるさい!」
 言いながら、ふたたびその生徒が水をかける。
「その手から、ベルジュの痕跡が消えるまでかけてやる!!」
「ふざけんな、冷たいじゃないか!」
「成敗だよ!」
「言いがかりだ!」
「やっちまえ」
「おう!」
 血気盛んな生徒たちの集まりであれば、ちょっとした言いがかりが取っ組み合いのケンカになるまでにさほど時間はかからない。
 結局、通りかかった上級生に止められ、その場はひとまず収まったのだが、やはり取っ組み合いのケンカになったからには、それぞれの寮の寮長同士で話し合いの場を持つ必要があるため、すぐさまヴィクトリア寮にも使いが走った。
 そこに至って、水をかけてしまった生徒とその友人たちも、自分たちのしたことが、結果的に敬愛するシモンの迷惑になると気づき、反省すると同時に顔色を蒼くした。これから、おそらく自分たちのせいで、シモンが相手の寮長に頭を下げなくてはならない。
 そんなことになったら、自分たちが許せない。
 だが、幸いなことにやってきたのは、シモンではなく、シモンの代理を名乗るマーク・テイラーであった。
 相手側の寮長は、シモンが来なかったことを不服そうにしていたが、ラグビーの名選手でそれなりに人望のあるテイラーを相手に、あまり強くも出られず、ひとまずヴィクトリア寮を代表してテイラーがしっかり謝罪をしたため、事なきを得た。
 そして、寮へと戻る道々、下級生たちがテイラーに謝る。
「……すみませんでした、テイラー」
「ああ、大いに反省してくれ。――まったく、人に水をかけるなんて、どんな理由があろうと紳士がやることではないだろう。もちろん、止めなかったお前らも」
「はい」
「ごめんなさい」
「バカでした」
「でも、あいつが、ベルジュの上着に触ったことをすごく自慢しているから、なんかベルジュを取られたみたいな気がして、悔しくて」
 本当に悔しそうにしている彼らをチラッと見おろし、テイラーが呆れたように応じる。
「――アホか。たかが上着ぐらいで騒ぐな。お前らは、毎日だって、朝からあのバカみたいに整った顔を好きなだけ見ることができるし、うまくすれば、直接挨拶だってできるんだから、それを自慢すればいいだろう」
「たしかに」
「そうですよね」
「朝から晩まで、ベルジュは僕たちのベルジュなんだ」
 テイラーは、「それはなんか違う気もするが……」と思ったが、余計なことは言わず、心に秘めておくことにした。
 十分後。
 ユウリの部屋でくつろいでいたシモンのところに、テイラーが報告に来た。
「――ということで、特に問題なく一件落着だ」
 それに対し、優雅にソファーに座ったまま、シモンが心の底から礼を言う。
「ありがとう、テイラー。変なことを頼んでしまって、悪かったね」
「気にするな。――というか、あんたが出張ったところで、余計、ややこしいことになりそうな話ではあったし」
「うん。でも、本当に助かったよ」
 そう言うシモンの横にいたユウリが、羊羹やせんべいなど日本から送られてきた茶菓子をてんこ盛りにしたお皿を差しだし、テイラーを労う。
「お礼じゃないけど、テイラー、よければ、一緒にお茶でもどう?」
「え、いいのか?」
「もちろん。たくさんあるから、好きなだけ食べていって」
「じゃあ、遠慮なく」
 空いているソファーにドカッと腰をおろしたテイラーに、ユウリが「いちおう緑茶が合うけど、コーヒーか紅茶がよければ、淹れるよ?」と勧める。
「じゃあ、紅茶で」 
 そこで紅茶を淹れにユウリが席を立ち、せんべいを口に放り込むテイラーと、そのそばで優雅に日本茶をすするシモンが、どうでもいいことを話しながら笑い合う。
 愛すべき日常が、そこにはあった。

閉じる

著者の近刊

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 迷い猫の秘密』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 迷い猫の秘密』

    篠原美季/著

  • 『シモン・ド・ベルジュの失われた時を求めて』

    • オカルトロマン

    『シモン・ド・ベルジュの失われた時を求めて』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:869円(税込)

  • 『電子オリジナル 幽冥食堂「あおやぎ亭」の交遊録 七人みさき』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル 幽冥食堂「あおやぎ亭」の交遊録 七人みさき』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 エジプト王の帰還』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 エジプト王の帰還』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 再生の器』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 再生の器』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 蜂蜜酒のゆくえ』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 蜂蜜酒のゆくえ』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 エジプト王のめんどうな要求』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 エジプト王のめんどうな要求』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 魔女の住む家2』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 魔女の住む家2』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 魔女の住む家』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 魔女の住む家』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞2 蜃気楼』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞2 蜃気楼』

    篠原美季/著

  • 『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 東方の使者』

    • オカルトロマン
    • 電子オリジナル

    『電子オリジナル セント・ラファエロ異聞 東方の使者』

    篠原美季/著

  • 『サン・ピエールの宝石迷宮 琥珀と秘密の終焉』

    • ファンタジーミステリー

    『サン・ピエールの宝石迷宮 琥珀と秘密の終焉』

    篠原美季/著 
    サマミヤアカザ/イラスト
    定価:902円(税込)

  • 『サン・ピエールの宝石迷宮 傲慢な王と呪いの指輪』

    • ファンタジーミステリー

    『サン・ピエールの宝石迷宮 傲慢な王と呪いの指輪』

    篠原美季/著 
    サマミヤアカザ/イラスト
    定価:858円(税込)

  • 『サン・ピエールの宝石迷宮』

    • ファンタジーミステリー

    『サン・ピエールの宝石迷宮』

    篠原美季/著 
    サマミヤアカザ/イラスト
    定価:880円(税込)

    • オカルトロマン

    『アザゼル ~緋の罪業~ 欧州妖異譚25』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:880円(税込)

    • オカルトロマン

    電子合本『英国妖異譚 全24冊超合本』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト

    • オカルトロマン

    『愚者たちの輪舞曲 欧州妖異譚24』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:792円(税込)

    • オカルトロマン

    『ヴィクトリア寮の寮長日誌 篠原美季自選集2』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体720円(税別)

    • オカルトロマン

    『シモン・ド・ベルジュの東方見聞録 篠原美季自選集』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体720円(税別)

    • オカルトロマン

    『ハロウィン・メイズ ~ロワールの異邦人~ 欧州妖異譚23』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体720円(税別)

    • オカルトロマン

    『王の遊戯盤 欧州妖異譚22』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体720円(税別)

    • オカルトロマン

    『トーテムポールの囁き 欧州妖異譚21』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体690円(税別)

    • オカルトロマン

    『月と太陽の巡航 欧州妖異譚20』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体690円(税別)

    • オカルトロマン

    『願い事の木 ~Wish Tree~ 欧州妖異譚19』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体660円(税別)

    • オカルトロマン

    『幽冥食堂「あおやぎ亭」の交遊録 ――水の鬼―― 』

    篠原美季/著 
    あき/イラスト
    定価:本体660円(税別)

    • オカルトロマン

    『幽冥食堂「あおやぎ亭」の交遊録』

    篠原美季/著 
    あき/イラスト
    定価:本体660円(税別)

    • オカルトロマン

    『写字室の鵞鳥(がちょう) 欧州妖異譚18』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体630円(税別)

    • オカルトロマン

    『龍の眠る石 欧州妖異譚17』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体630円(税別)

    • オカルトロマン

    『百年の秘密 欧州妖異譚16』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体630円(税別)

    • オカルトロマン

    『万華鏡位相~Devil’s Scope~ 欧州妖異譚15』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体630円(税別)

    • オカルトロマン

    『赤の雫石~アレクサンドロスの夢~ 欧州妖異譚14』

    篠原美季/著 
    かわい千草/イラスト
    定価:本体630円(税別)