夕食の席で集まった仲間に、自分が体験した話をしていたルパートは、そこでいったん間を置いた。喉(のど)が渇いていたのでコーヒーカップに手を伸ばしていると、彼の話に引き込まれていたらしいマーク・テイラーが、じれた様子で続きを促す。 「おい。肝心なところで話をやめるなよ」 「肝心なところだから、いいんじゃないか」 コーヒーを飲みながら太平楽に言い、みんなが続きを待っている状況をしばし楽しむ。何がいいかといって、面白い体験や情報を披露する時の、己に向けられる周囲の期待感や緊張感ほど気分のいいものはない。 「それで、何を見たって?」 程よいタイミングで、分厚い眼鏡をかけたパスカルが促す。 小さく咳払(せきばら)いをしたルパートは、そこでようやく話を再開した。 「だからさ、それが驚いたのなんのって、そこにいたのは、ハリネズミだったんだ」 「ハリネズミ?」 ほぼ全員が、いっせいに繰り返した。