イギリス西南部にある全寮制パブリックスクール、セント・ラファエロでは、とある秋の一日が始まろうとしていた。 「よお、今日も早いな、ルパート」 がらんとした早朝の食堂で、食後のコーヒーを飲んでいた皮肉屋のイワン・ウラジーミルが声をあげると、同席していた数学の天才であるジャック・パスカルも振り向いてあいさつする。 「やあ、ルパート」 「おはよう。――――っていうか、二人こそ、相変わらず早起きだよね」 同級生の中でも、とりわけ成績優秀で知られるウラジーミルとパスカルが、たいした用事もないのに早くに起きだしているのは、ひとえに食後にゆっくりと新聞を読むためであるのを、ルパートは知っている。情報通を自認する彼ではあるが、こと時事問題に関してだけは、この二人に敵(かな)うものではない。 だけど、考えてみれば、社会に出て情報通を自認したければ、身の回りのゴシップを拾うより、むしろ時事ネタに強くなるべきなのかもしれない。 受験生の身でありながら、寝不足とは無縁の表情でコーヒーをすする仲間を前に、一考の余地ありと思いながらトレイをテーブルに置くルパートに、パスカルが応じた。 「まあ、ご覧のとおり、早いほうが食堂もすいていて、ゆっくり食事ができるから。……それより、ルパート。君こそ、この時間にいるということは、もしかして、またアレを捜しに行くわけ?」 「そうだよ」 パスカルの横に腰をおろしたルパートは、すぐに皮肉ぽっく口元をゆがめたウラジーミルをチラッと睨(にら)んで、付け足した。 「言っとくけど、イワン。あんたがなんと言おうと、見たものは見たんだよ。そこは、譲らないから。絶対に見つけ出して、あんたのベッドに投げ込んでやる!」 「それは、楽しみだ。せいぜい期待して待っているよ」 ウラジーミルがニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべて受け流すのも、無理はない。 つい先日、ルパートが彼のぶどうを横取りしたハリネズミの話をしたことは、誰の記憶にも新しい。 それはとうていありえない話で、ウラジーミルはもとより、比較的柔軟な考えの持ち主であるパスカルでさえ、どうしても信じる気になれないのであったが、情報通を自認するルパートは、自分の情報がまゆつばものと思われるのが何よりも屈辱だったらしく、あれからというもの、こうして朝早くに起き出しては、くだんの動物を捜し歩いているのだ。 おっとりしているルパートにしては珍しく、ひどく意固地になっている様子を見て、パスカルは小さため息をついた。