「ちょいとお伺いしますがね」 そう声をかけてきたのは、見慣れない少年だった。 見るからに硬そうな剛毛は、あまり手入れのされていない様子であちこちを向き、まるで針の山みたいになっている。 つんと上を向いた鼻にはそばかすがあり、口元には八重歯がのぞいている。 (どこの寮の生徒だったかな……?) とりあえず着ている服がセント・ラファエロの制服であるのを見て、シェークスピア寮(ハウス)の筆頭代表であるアーサー・オニールは、頭の中で新入生のデータをひっくり返しながら応じた。 「なんだろう。僕に答えられることならいいけど」 「いやいや、とんだご謙遜(けんそん)を。答えられないなんてことは、ありゃしませんって。なにしろ、その見事な赤毛、堂々たる振る舞い、それより何より、乙女心を一度つかんだら、地球が反転しても離さないであろう麗しきご尊顔を拝見すれば、一目瞭然(いちもくりょうぜん)。きっとあなた様こそが、私めの捜しているお方とお見受けしますが、いかがなものでしょう?」 「いかがなものって言われても……」 立て板に水のごとく滑らかで、かつどこか時代がかった話し方に、少々面くらった様子で半歩退いたオニールは、改めて少年の出で立ちを見つめてきき返す。 「そもそも、君が誰を捜しているのかがわからないからには、答えようがないだろう?」 「はあ。それは、もちろん、そうなんですが……、それを言われてしまうと、いささか困ったことになるっていうか、なにぶん、私自身が、いったい誰を捜しているのやら、もうとんとわからなくなっていて……、いやまあ、ぶっちゃけ、最初からわかっていなかったんですけどね、それでもはちみつ酒を頼りに捜してみてはいるんですが、誰にきいても、なしのつぶてで」