「あ、ベルジュ」 呼ばれて足を止めたシモン・ド・ベルジュは、同時に内心でため息をつく。これで、いったい何度目か。なぜかはわからないが、今日は朝からやたらと人に呼び止められる。しかも、その用件が————。 「フォーダムを見なかった?」 「ユウリなら、さっきまで一緒にお茶していたけど、そこで別れたよ。僕はこれから執行部の会議があるから」 「ああ、そうだよな。忙しい時に呼び止めて悪い」 そう言って立ち去りかける相手に、シモンが問い返す。 「それで、ユウリに用事というのは?」 「ああ、……というか、実際に用があるのは、俺じゃないんだけど」 その答えも、今日聞くのは、これで何度目だったろう。続く言葉もわかっている。そこで皆まで聞かず確認する。 「もしかして、誰かがユウリを捜している?」 「そうなんだよ。さっき、呼び止められて、ユウリ・フォーダムを知らないかってきかれたんで、午後のお茶の時間だから、食堂かカフェテリアにいるんじゃないかって答えておいたけど、どうせきくなら、ヴィクトリア寮(ハウス)の生徒にきけばいいのになあ?」 最終的に同意を求められ、シモンは小さく苦笑する。確かにそのとおりで、ちなみに、今話しているのは、ウェリントン寮の生徒である。その前に同じ質問をしてきたのは、シェークスピア寮の生徒だったし、さらにその前はアルフレッド寮の下級生だった。 どうやら、ユウリを捜している人物は、ユウリがヴィクトリア寮に所属していることを知らないか、あるいは誰がヴィクトリア寮の寮生であるか、見分けがつかず、片っ端から声をかけているようである。 いったい誰が、なんの目的でユウリを捜しているのか————。そのこと自体が、かなり怪しいとシモンは踏んでいる。 「ちょっときくけど、そのユウリを捜しているという生徒は、誰かわかるかい?」 「いや。うちの寮の人間じゃないのは確かだけど、他の寮の生徒の顔まで覚えているわけじゃないからなあ。悪いけど、あいつが誰かはわからないよ。……わりと特徴のある奴だったけどな。こう硬そうな髪がピンピンはねていて、背は低いけど元気そうで、目が薄茶色っていうか、ほとんど琥珀(こはく)に近い色でキラキラ輝いていた。……だけど、そう言われてみれば、あんな奴、うちの学校にいたかなあ?」 説明の最後に小さく首を傾げながら付け足された言葉も、シモンはすでに何度も聞いている。ユウリを捜している人物の特徴を尋ねると、返事の最後にみんな必ずそう言うからだ。 どう考えても、おかしな話である。