朝から秋晴れとなったその日、湖のほとりを一人の生徒が歩いていた。 きらきらと輝く琥珀色の瞳。 ピンピンとあちこち好き勝手なほうを向く真っ黒い剛毛。 ともすれば飛んでいってしまいそうなほど軽い足取りといい、朗らかな声といい、見るからに元気そうな彼は、石ころを蹴(け)飛ばしては、文句を言っている。 「ま~ったく、どうなっちゃっているんだ。ぜっんぜん、捕まりやしない。誰にきいても、あっちだのこっちだのと、意見の一致を見ないんだから、きいた相手がマヌケなのか、捜している相手がすばしっこいのか。それにしても、オレオレ、ピンチ様をここまで振り回すとは、ユウリ・フォーダム、捕まり難し、侮り難し、肩透かし。――――それとも、まさか、オレオレ、ピンチ様をからかって遊んでいるんだろうか?」 そんなことはありえないし、その必要もないはずだが、一度持った疑いは、どこまでも深まっていく。 「ああ、だとしたら、なんて意地の悪い。オレオレ、ピンチ様をピンチに陥れて、何が楽しいというんだろう。そもそも、はちみつ酒を奪われて、何のためにユウリ・フォーダムを捜しているのかわからないっていうのに、こうも捕まらないとなっては、さすがにくじけてしまいそうだ。……もしかして、ユウリ・フォーダムは、はちみつ酒がないとわかって、すねているんじゃなかろうか。――――ああ、きっとそうに違いない!」 絶対に違う。