「あれ」 ヴィクトリア寮に駆け戻ったテイラーが、入り口のところで息をついていると、通りかかった仲間たちが声をかけてきた。 「テイラーじゃないか」 「珍しいね、そんなに息を切らして」 最初に気づいたルパート・エミリに続き、休日のラフな服装でありながら、まばゆいばかりの優美さを持つフランス貴族の末裔(まつえい)シモン・ド・ベルジュが首を傾げて言う。 だが、テイラーが何も答えられずに膝(ひざ)に手を当てて首を振っていると、シモンの横に立っていたユウリ・フォーダムが、心配そうに近づいてくる。 「大丈夫、テイラー? いくらトレーニングでも、あまり無理をしちゃ、ダメだよ」 「……それは、……わかって、……いるんだが」 ようやく顔をあげることのできたテイラーは、仲間たちの姿を見てホッとし、額に浮き出る汗を拭(ぬぐ)う。 「……なんだか、どうも変みたいで」 「変?」 ユウリが漆黒の目を細めて繰り返し、近くにいるシモンを振り仰いだ。それを受けて、シモンが問いただす。 「変って、何がだい?」 「いや————」